1 迷子のちオーク
発売から半年経つのにモンハンがやめられません。という訳で本日から第二章突入です。
ブロロ、スコン。ブロロロロロロ...
頼りない音を立てながら、スーパーカブが荒野を走って行く。乗っているのは金髪をなびかせた青年と、銀髪褐色のエルフ。
広大な荒野を背景に、ただただ真っ直ぐに駆けていく二人と一台。
ブロロロロ、ガコン。
「ぴゃっ!」
「ったく何で街道が途中で終わってるんだよ。聞いてねえぞ。うぉっと。」
スーパーカブが道の凹凸で跳ねるたび、青年は悪態をつく。
「あーけつが痛え。ミア、大丈夫か?」
「ええ、まあ道具屋でシートを作ってもらったのでそこまででは...わっ。痛いです。さすがにこの凸凹道はきついです。」
尻を撫でながら愚痴をこぼすミア。
「砂埃は俺とトゥールの魔法で何とか防いでるけどもこの凸凹はなあ...おいカブ子、これどうにかならんもんかね。」
「スーパーカブにそんな快適さを求めないで下さいよ。私をなんだと思ってるんですか。」
「スーパーカブは普通喋んねえし変身もしねえよ。それにしても本当にこの先に村なんて有るのかよ。」
流通都市ベルケーアを出発してから一日と少し。地図が間違っていなければこの先に村があるはずなのだが。
「見渡す限り何も見えませんねー。」
「人どころか魔物も見当たらんしなあ。少し休憩するか。」
スロットルを回すのをやめ、カブを停止させる。
俺たちが降りると、カブ子は人型に戻る。どうもこちらの方が楽らしい。
「おいトゥール、すまないがちょっと起きてくれ。」
俺の胸ポケットで就寝中のトゥールを起こす。こいつはどうもここが気に入ったようで、旅立ちの時にひとしきりはしゃいだ後は疲れてここで眠っていた。寝てても防風の魔法が発動できているのはさすが精霊といったところか。
「あい?もうついたのですか?」
「いや、一旦休憩だ。煙草を出したいから少しどいてくれ。」
そういうと、トゥールはふわふわと飛び立ち、俺の頭の上に着地した。次はそこか。
胸ポケットから葉巻と着火の魔道具を取り出す。魔族戦でどうもパイプがかっこよくないことに気がついたので、旅立つ前に例の何でも屋で葉巻を入手してきた。
葉巻に火をつけ、深く煙を吸い込む。道の凸凹と目的地が未だ見えないことにイライラしていたが、少しは軽減されていく。
「それにしても葉巻はちょっと無いんじゃないですかね。かっこよく葉巻を吸うには貫禄が足りて無いと思いますよ。」
うるさいカブ子。人が気にしてる事を言うんじゃねえ。
そんなカブ子の煽りは無視し、バッグからエヴァさんに貰った地図を取り出す。
「うーん。もうこの辺まで来てると思うんだけどな。そろそろ村が見えてきてもいいと思うんだが...」
もう荒野が終わってもいいはずなんだがな。
「気づかぬ内にそれてしまったのかも知れません。アサギさん、風魔法であたり一体を探査してみてはいかがですか?」
ミアがいいアイデアを出した。でも流石に見渡しても何も無いところで探査して何かが引っかかるとは思えないが。
「それならトゥールちゃんに頼めばいいんじゃないですか?」
「ん?どういうことだ?」
「一応トゥールちゃんはアサギさんの契約精霊なので、アサギさんの魔力を増幅させて強力な魔法を使うことが出来るはずですよ。」
へー。そんな事が出来るんだ。
「トゥール、頼めるか?」
「お任せですよー。」
トゥールがふわふわと俺の肩まで降りてくる。
「我が眷属よ、大いなる風よ。我が求めに答え、声を届けよ。精霊の遠耳」
俺の魔力がぐぐっと抜き取られる感覚。全体の二割はもってかれただろうか。
トゥールを中心に風の波動が広がり、ものすごい勢いで辺りに広がっていく。
「あっちに人がいっぱいいるです。あと強いのがその近くにいるですよー。」
「ん?なんだ、村が魔物に襲われてるのか?」
「んー。そういうのでも無いみたいですー。強いのはちょっと遠くから全然動かないです。」
んー。近くに魔物の住みかでもあるのかね。とはいえ俺たちはやはり道を外れてしまっていたようだ。向かっていた方向と村のある方向はしっかり九十度違う方面だ。
「おーありがとなトゥール。えらいぞー。」
とりあえずトゥールを撫でておく。トゥールは嬉しそうに飛び回ると、また俺の頭の上に着地した。
「なんかパパさんみたいですねー。」
いいだろ別に。
という訳で目的地の場所も分かった事だし、方向を変えて走り出して数十分。ようやく目的の村についた。
「それにしても、寂れた村だな。」
「まあこんなもんじゃ無いですか?まあ確かに外に出てる村人が少ないですね。」
ようやくついた村であったが、どうにも活気が無いのが気になるな。ここで食料の補給をしようと思っていたんだが...
「まあ補給が出来なくても宿さえ貸してもらえればそれでいいんだけどな。食材に関してはミアの飯を減らせばいいだけだし。」
「!?」
ミアの顔が劇画調になってやがる。なんでお前は飯が絡むときだけギャグ要因になるんだ。
「ちょっと話を出来る人を探してきます!」
不安になったのか、ミアが急いで村の奥へと駆け出していった。
残された俺とカブ子、トゥールだが、やることも無いのでそこで待ちぼうけだ。
少し村を観察してみたが、本当に人が少ないように見える。まだ日も高いし、もう少し外に人が居てもおかしくないとは思うのだが...
少しして、ミアが爺さんを連れて帰ってきた。
「はあ、はあ...」
「何も息が切れるほど走らなくてもいいだろう。爺さんも肩で息してるじゃねえか。それで、この爺さんが村長的な立場の人か?」
「はあ、はい、そうです。この方が、村長さんです。」
ミアからの紹介を受けた村長だが、未だぜーはー言ってるだけで話す力はなさそうだ。
「んで?その村長をつれてきてどうしたんだ?食材と宿に関する交渉は出来たのか?」
「あの、それが...ですね...」
ミアの話をまとめるとこうだ。
・最近近くの森にオークが住み着いた。
・そのオークがときおり村に現れては子供たちを攫っていく。
・働き手が減少して、碌に畑が耕せず、備蓄に回さなければいけないため俺たちに売る食料が無い。
・オークを退治して、子供たちを取り返してくれるならば食料を売ってもいい。
ということらしい。どうりで子供の姿を見かけないわけだ。それにしても子供の労働力がないと回らない村ってのもどうなんだろうな。まあこんな場所にある小さな村なら仕方ないのかも知れないが...
「んで、オークってのは豚が二足歩行してるような魔物...で間違ってないんだよな?」
ギルドだと討伐ランクD程度の魔物だった気がするが。
「ええ、本来ならDランクパーティでも難なくこなせる筈なのですが、どうも前任のパーティーが討伐に失敗したようで...」
「ん?Dランクなら楽勝じゃないのか?」
「はい、どうも知能の高い特殊固体のようで、武器を巧みに扱い冒険者たちを寄せ付けなかったようですね。」
そういやトゥールがこの村の近くに強いのがいるって言っていたな。トゥールが強いっていうくらいだからそこそこのものだろう。仮にもこいつは中位精霊だからな。
「カブ子、どう思う?」
「少しキナ臭いですが...どちらにせよこの村に一泊することは間違いないのですし、調査するくらいならいいのではないでしょうか?こちらのパーティーならそうそう遅れをとるようなことも無いでしょうし。」
「そうだな。ミアの食料を補給できないのは辛い。マルセルまではまだ数日かかるしな。よし、とりあえず討伐に踏み切るかは分からないが、調査だけはすることにしよう。交戦して、討伐できるようならそのまま討伐する。爺さん、これでいいか?」
未だ肩で息をしながら頷く爺さん、どんだけ急いで来たんだよ。
とりあえず村の空き家を一つ借りて、今晩の宿にする。一応食料温存の為、今夜は保存食で済ますことにした。ミアが文句を言ってきたが黙殺した。
「それにしてもオークが子供を攫う...ねえ。そんなことあるのかね。」
「そうですね...オークが攫うのは主に女性、それも若い女性なのですが、今回は男女関係無く子供だけが攫われています。理由が分かりませんね...」
「食料にするって訳でもないんだろう?」
「そうですね、オークは雑食ですが、人間を好んで食するようなことは無いです。それにこの森は食料も豊富なのでわざわざ危険を冒して村を襲うようなことは無いと思うのですが...」
「まあいって見れば分かるだろう。子供たちが生きているといいが...」
「そればかりはなんともいえませんね。最後の子供が攫われたのは三日前だそうですので...」
確かに、少し厳しいかもな。とはいえ日も落ちてしまった。暗い中森を探索するのは危険が過ぎる。とりあえず今日は寝るとしようか。
ミアとカブ子に寝室を使わせ、俺はもともとリビングとして使っていたであろう空間に寝袋を広げる。二人は同室でもいいといってくれてはいるが、むしろ俺が気疲れして眠れないわ。
そして朝になった。日を跨いでも、外に出ている村人は少ない。オークに怯えているのだろうか。
朝が弱いミアとカブ子を起こし、戦闘用の装備に身を包む。今回もいつもと同じようにカブ子が前衛、俺が中衛、ミアが後衛だ。トゥールは俺のそばで、魔法によるアシストを行う。
昨日やった様に、トゥールの風魔法で探査を行う。距離にして一キロほどのところに、例のオークの住処があるようだ。
森を抜け、オークの住処へと向かう。森の中だというのに、不思議と魔物に襲われることは無い。強力なオークが住み着いたことで他の魔物は住処を移したのだろうか?
しばらくすると、洞窟のような物が見えてきた。
「あそこから強力なのの反応がするです。あと弱いのもいっぱいです。」
トゥールが教えてくれる。どうやら子供達はまだ無事の様だ。
俺も一応、自前の探査魔法を発動する、どうやら強い反応がこちらへ移動し始めた。クソ、気づかれたか。
予定では調査だったが、もはや交戦は避けられないだろう。聞いた話だと、オークは森の中での戦闘を得意としているらしく、その巨体に似合わずかなりの速度で移動するらしい。この距離では逃げられない。
洞窟の中から、オークが巨体を揺らしながら現れる。聞いていた通りの豚の顔...だが、ん?服も着ているしどうもかなり人間に近い感じだな。
右目のところに切り傷があり、いかにも強者といった雰囲気を携えている。
とりあえずトンファーを装備し、迎え撃つ準備を整える、があちらから交戦する空気を感じない。大振の大剣を持っているが、それを構えて向かってこない。
不思議に思っていると、オークはその大剣を地面に突き立て、その両手を上に上げた。なんだこいつ?何をしている?
「強き冒険者の方々よ。私に戦闘の意思はない!どうか私の話を聞いてはいただけないだろうか?」
「お、オークがしゃべったー!?」
ミアがカブ子が喋ったときと同じ反応をした。




