11 RPGによく出てくる仲間にならないけお助けキャラ的な
第十一話。やっと物語が動き出します。
あの宴会から数日。俺とミア、カブ子は、ギルドで受けた依頼で、町から少し離れた森に来ていた。
今回の依頼は狩猟依頼。ホーンスネークなる角の生えた蛇の角を手に入れることが依頼達成の条件だ。
ちなみに最近は店の方はほかの面々に任せ、こうして俺たちはギルドで依頼を受けることが増えてきた。ギルドの仕事にも慣れてきて、少しレベルの高い依頼も受けるようになってきていた。
そうそう、あの後復活したエヴァさんから、俺はCランクのギルド証を与えられていた。三人でパーティーを組んでいるため、俺たちはCランクの依頼までなら受けることができる。
今回のホーンスネークの狩猟。これはCランクの依頼だ。このホーンスネークという魔物だが、動きがすばやく、毒こそもっていないがその鋭い角の一撃は強力で、かなり危険な魔物と恐れられているようだ。
しかしその角がなんとかっていう病気の特効薬になるらしく、町では重宝されているため定期的に狩猟依頼が出るみたいだ。
そんな訳で、現在件のホーンスネークとの戦闘中であるが、俺たちは割りと危なげなく戦えていた。ギルドで資金を稼ぎ、ある程度装備を新調した俺たちは、いまや一端の冒険者といった佇まいだ。
ミアはもともと旅をしていたこともあり、ある程度戦闘に耐えうる装備が整っていたため、新しい装備はつけていない。というかミアは近接戦闘は何もできないらしく、基本的に後方からの魔法での援護、支援を行っている。ミアのステータスを見たことが無かったので、初戦闘の際に見せてもらった。
名前:ミア=フォーレンハイト
年齢:15
職業:世界樹の守り人
階位:44
戦闘技能
無し
魔法技能
風魔法lv4 水魔法lv6
土魔法lv7 精霊魔法lv3
生活技能
設営lv2
健啖lv8
特殊技能
魔力自動回復
魔力視
精霊視
固有技能
精霊の愛し子
世界樹の叡智
世界樹の守り人:世界樹を守る古代森人の末裔。世界の秩序を司り、混迷から救う。
職業恩恵:風、土、水魔法の適正に極大補正。魔力自動回復、魔力視の技能を含む。
職業制約:世界樹の森に同時に存在できる守り人は一人のみ。
魔力視:魔力を視覚で捕らえることが可能になる。所有者の意識で可視、不可視の切り替え可能。
精霊視覚:精霊を視覚で捕らえることが可能になる。所有者の意識で可視、不可視の切り替え可能。
精霊の愛し子:精霊に愛される才を持つ。精霊魔法に大きな補正がかかる。
世界樹の叡智:世界樹の守り人の持つ力。全魔法行使の際に威力増大。また適正の無い属性魔法でも行使可能。
ミアもがっつりチートなんだよな。いろいろと突っ込みどころは多いけども。とにかく魔法使いとしては一級品だな。本当についてきてくれて助かるわ。
カブ子は剣術スキルを生かす為に剣士スタイルで行くらしい。上半身に革のブレストガードだけをつけている。あとの装備は動きづらくなるらしくいらないという。
武器は細身の片手剣。本人曰く得意なのは日本刀を用いた剣術らしいが、残念ながらどこの店も日本刀なんてものは売ってなかった。お金がたまったら腕の良い鍛冶師を見つけて作ってもらおう。
俺は上半身と下半身に革鎧をつけている。俺も動きづらくなるのは嫌だが、いかんせんカブ子が攻撃一辺倒で、防御がへたくそなので、俺がミアを守る必要がある。そのため多少被弾してもいいように防御力高めの装備にしておいた。まあある程度の攻撃ならトンファーで裁くから問題ないんだけども。
あとは一応弓も買っておいた。たまたま入った店で和弓の取り扱いがあったのだ。どうも日本人転移者が伝えたらしいが、扱いが特殊なので誰も買わずにもはや店の飾りになっていたらしく、二束三文で売ってくれた。
向こうじゃ中学高校と弓道部だったからな、和弓の扱いには慣れたもんだ。弓術スキルはこのためだろう。とわいえ大きすぎて邪魔なので普段はミアがその和弓を背負っている。すまんな。
そんなこんなで、前衛は剣士カブ子、後衛は魔法使いミア、中衛は魔法使い兼格闘家兼弓師の俺が務めてめているが、これがバランスよく、ここまで特に苦戦することも無く依頼をこなしてきた。
目の前のホーンスネークも、ミアの土魔法で動きを止め、トンファーで頭を乱打する。動きが鈍くなったところでカブ子の剣が一閃し、その首をはねてあっさり戦闘終了だ。
「二人ともお疲れ。Cランクっつうからどうなるかと思ったけど意外と弱かったなこいつ」
「いやいや、ホーンスネークは十分危険なモンスターですけどね。お二人ともなんであの突進を苦も無く捌いてるんですかね」
「まあそんなに早くなかったしこんなもんだろう」
「マスター。角を落として来ました。マスターが持っておいて下さい」
「おお、サンキュー」
カブ子が依頼の品であるホーンスネークの角を取ってきてくれたので、腰につるしてある皮袋にしまう。
「にしてもギルドの依頼にも慣れてきたし、そこそこ資金もたまってきたな。そろそろ旅立ちの時期かな」
帰り道、森の中を歩きながらの雑談。
「そうですね。メルマ君も店のメニューなら作れるようになって来ましたし。、アルマちゃんの接客も板についてきましたからねー」
旅立ちの時期を検討しながら、森の中を歩く。森を抜けたらあとはカブ子に変身してもらって町まで一直線だ。
と考えていると。左の方からとてつもない大きさの魔物の声がしてきた。
地面を震わすような轟く音に、俺たち一行は足を止めた。続いて聞こえてきたのは剣戟の音。どうやら声の主と戦っている人がいるらしい。
「風よ、音を届けよ。調音」
俺は魔法を使い、その気配を探知する。風魔法もなれたもので、多少遠くであってもその気配を察知することくらい朝飯前だ。
「戦闘してるのは......四人と一匹、こいつは大物だな。っ! 一人、いや二人は心音が弱い、怪我人だ。カブ子、ミアいくぞ!」
「了解ですマスター」
「はい!」
森を抜け、気配のする方向へと向かう。邪魔な木々は風魔法で吹飛ばし、最短距離で急ぐ。
木々を抜け、見えてきたのは巨体。高さだけでも10メートルはありそうな大きさの巨大なモンスター。
それと戦っているのは......蒼真たちじゃねえか!
後ろでは、エイラと金髪の少年が倒れている。その二人に寄り添うように回復魔法をかけている青髪の少女、あれが女神様か。その三人は戦闘に参加できていない。現状あの化け物と相対しているのは蒼真一人だ。
「カブ子、先に行って蒼真の援護だ! ミア、弓を出してくれ!」
「了解」
カブ子が飛び出していき、魔物に切りかかる。蒼真は一瞬驚いたようだったが、こちらの姿を確認したようで、また魔物との戦闘に意識を戻す。
状況はあまりよろしくない。蒼真は後ろの三人をかばいながら戦っているようで防戦一方だ。何か状況を打開する術が必要だ。
「ミア、詠唱を始めてくれ。全力であいつを拘束する魔法だ。頼む」
「分かりました」
ミアが詠唱を始める。俺も弓を構え、魔法のイメージに入る。
「いきます。氷帝の息吹」
ミアの手から放たれた冷気が魔物へと向かい、直撃。冷気が爆発したように、魔物の腕と足を凍りつかせ、その身を地面へと拘束する。
「風よ。我が矢に必中の道を」
風で道を作り、奴の身に向けて矢の道を作る。ぎりぎりまで張り詰め、引き絞った弓を解き放つ!
「穿て! 風よ!」
風に乗った矢は、手元で爆発させた風の勢いも乗せ、ものすごいスピードで迫る。斜線上をとび、風に乗りさらに加速し、そのまま魔物の目を貫通し、脳髄を破壊する。
しかし、それでもこの化け物を倒すにはいたらなかったらしい。だが確実に動きは鈍っている。先ほどまで発していた強烈な威圧感も無い。
その隙に、蒼真と合流する。
「アサギさん! どうしてこんなところに!?」
「そんなことは良い。これはいったいどういう状況だ?」
「は、はい。あれが僕らの追っていたグランドドラゴンです。数日前から行動を捕捉し、今日戦闘に入ったのですが......」
それがなんでこんな壊滅状態になっているんだ?エイラは容易に倒せる相手だといっていたぞ。
「それがどうもこいつは変異個体のようで、普通のグランドドラゴンが使用しないブレスを使ってきまして。不意を受けた王子とエイラがそれを食らってしまい......二人を担いで逃げることもままならずジリ貧状態でした」
「なるほどな。ミア! 二人の治療に加わってくれ!蒼真。見た限り王子はともかくエイラの怪我がひどい。ここで動かすのは得策じゃ無い。このままカブ子と三人でこのデカブツを倒すぞ」
「そんな、弱っているといっても相手は変異固体のグランドドラゴンです! 無茶ですよ!」
「まあまあ。そんな弱気になるなって。俺たちだって結構強いぜ。どちらにせよ治療の時間は稼がなきゃならねえ。やるしかないだろ」
蒼真を説得しつつ、グランドドラゴンなるものに向き直る。こいつはどっちかっていうとドラゴンよりベヒーモスって感じの見た目だな。少なくとも竜には見えねえ。
「カブ子。注意はこっちで引くから好きに攻撃しろ。蒼真、ブレスってのはどんな奴だ?」
「は、はい。奴のブレスは風属性のブレスです! ブレスの中に風の刃が混ざっているようなので気をつけてください!」
風かよ。グランドドラゴンって名前はどこいったんだよ。
「まあいい。ブレスは俺が何とかするからお前は全力で突っ込め! 適当にカバーするから」
「りょ、了解です」
カブ子と蒼真が突っ込んでいく。先ほどの一撃が効いたのか。グランドドラゴンの動きは鈍い。
二人の剣が閃き、グランドドラゴンの体に無数の傷が刻まれていく。がいかんせんあの巨体だ。有効打にならない。やはり必要なのは頭への攻撃か。
と考えていると、先ほど聞いたような咆哮が、グランドドラゴンの口から迸る。嫌な予感がする。
その予感は的中し、グランドドラゴンの口に奴の魔力が集まっていくのを感じる。やっぱりブレスの準備か!
俺も体の魔力を集め、防御の為の魔法を構築する。生半可な防御じゃだめだ。後ろの四人をまとめて守らなきゃならない。初めて使うレベルの強大な魔法のイメージ。さすがに詠唱も長くなる。
「漂う風よ、雄大なる風よ。我に友を守るための悠久なる風の防壁を。力の奔流を集約し、世界の流れを掌握し、我らを守りたまえ。時分かつ風の庭!」
当たり一帯に流れる風の流れを集約し、俺たちカブ子と蒼真を除く全員を取り囲む。あの二人は奴の背後に回りこみ、攻撃の機会をうかがっているようだ。
風は多重に流れを作り、俺たちと外界を遮断する。音は聞こえなくなり、あたりの気配も感じない。
ゆっくりと開かれたグランドドラゴンの咥内から光が迸り、空間が歪むほど圧縮された魔法が発される。地面を削り、あたりの木々を吹き飛ばしながら進む風のブレスが、俺の作った障壁にあたり、そして何も起こせずに四散した。
え、意外と余裕で防げたな。
グランドドラゴンの方も、え、マジで? みたいな顔をしている様に見える。まあ気のせいだろうが。
ブレスがそこまで脅威では無いことに気づけたので、ここからはこっちの攻撃ターンだな。
「カブ子、蒼真、あいつの頭を下げる! 攻撃準備しとけ!」
「了解です、マスター」
「了解です!」
こちらから有効打を与えるには、あいつの頭を下げるしかない。先ほどからどうもあいつに大しては魔法の利きが悪い。魔法に対する耐性でも持っているのだろうか。
あの二人は魔法なしではあの高い場所への攻撃ができないようで、攻めあぐねていたようだ。だが、俺にはあそこまで届く手段がある!
助走をつけて、グランドドラゴンまでの距離を一気につめていく。彼我の距離は十メートル程度。ここだ!
「風よ!」
エヴァさんとの戦闘の焼き増し、風魔法での跳躍だ。あれから風魔法の習熟度も上がり、自由自在に跳躍できるようになった。
一気にグランドドラゴンの頭上まで飛び上がる。奴はといえば、どうやら急激に飛び上がった俺を見失ったようで、まだ地面を注視している。そのまま風の塊を作り、それを蹴って下方向への推進力に変える。重力と風と、利用できるものをすべて利用して勢いに変え、両手のトンファー思い切り脳天にたたきつける。
ドゴン! という大きな音とともに、グランドドラゴンの頭が地面にたたきつけられる。
「今だ! やれ!」
「いきます! オーラブレイズ!」
「万当一閃!」
蒼真の大剣と、カブ子の剣が奴の頭に左右から叩き込まれる。先ほどよりもさらに大きい音と、衝撃波が巻き起こり、あたりの土を巻き上げる。
視界が晴れると。そこには動かなくなったグランドドラゴンの巨体が倒れていた。
「ふう。やっと終わったか」
カブ子も蒼真も、今の一撃でかなり消耗したのか、二人とも膝をついている。
辺りを見れば、地面も木々も、ブレスやら今の攻撃やらの余波で大変なことになっているな。後ろを見れば、怪我人二人の容態もかなり安定しているようだ。ここまで来ればもう心配ないだろう。
一息ついていると、蒼真が駆け寄ってきた。
「アサギさん。本当に助かりました。アサギさんが来てくれなかったらどうなっていたことか......」
「まあ偶然そばにいたからな」
なんだかRPGとかでよくいるよな、こういう仲間にならないけど要所で出てきて助けてくれるキャラ。実際にやることになるとは思ってなかったが。
と勝利の余韻に浸っていると、急激に、背筋をなでる様な悪寒に襲われた。嫌な予感。それもかなりやばい奴だ!
蒼真も何か感じたのか、解いていた戦闘態勢を取り直し、辺りを警戒する。
そして、気がついた時には、蒼真の胸元を、鋭い爪のようなものが貫いていた。




