10 ミアせんせーの魔法講義
10話目、説明回です。これだけではなんなので9時にもう一話投稿します。
「アサギさん、ちょっといいですか?」
仕込みもひと段落し、営業開始までゆっくりしようと思っていた昼前の事。相変わらず朝に弱いミアが珍しく早起きし、話しかけてきた。
「ん? どうした?」
「いえ、アサギさんにこの世界の魔法についてレクチャーしておこうと思いまして」
魔法、魔法か。そういやエヴァさんとの戦いの時に何となく使ってみたが、イマイチどういうもんか分かって無いんだよな。
「そうだな、良い機会だ。ミア、レクチャー頼むわ。」
そういうと、ミアはどこから取り出してきたのか三角メガネを取り出し、大げさな動作でスチャ、と装備した。なんだそのステレオタイプの教師像は。
俺が呆れた表情をしていることに気がついたのか、ミアがあたふたしてる。
「あれー、日本の教師はみんなこの装備をしていると伝承にあったのですが。お、おかしいですかねー?」
それはどこの日本だ。少なくとも俺は三角メガネを装備している教師に出会ったことは無い。どこかの転移者の悪ふざけだろうか。
それに、ミアの見た目はどう見てもお子様なので、違和感が凄い。まあ可愛くはあるけども。
「こ、こほん。気を取り直して魔法の授業としましょう。」
メガネを取り外し、少し顔を赤くしたミア。別にはずさなくても良いのにな。
「この間、アサギさんが見よう見真似で魔法を使っていましたが、魔法は基本的には長い修練の末に、正しい知識を持って使う物です。半端な知識で使うと事故の元なので、この機会にしっかり頭に叩き込んでくださ。」
よしきた。これでも勉強はできるタイプだったんだ。
「魔法とは、魔力を現象に変えること、その全般を指した言葉です。魔力は二種類あって、空気中に漂う自然由来の物、そして生物の中にある物、この二つがあり、前者をマナ、後者をオドと呼びます。」
ふむ。
「人間はこのオドを使って魔法を行使します。消費されたオドは、空気中のマナを少しずつ取り込んで回復します。このマナを取り込む能力と、蓄えておけるオドの容量には個人差があります。」
魔力容量と回復速度は人によって異なる、と。
話が複雑になりそうだったので、店にあったメモ帳とペンを取り出してメモっておく。
「人間は、ってことはこのマナを使って魔法を使う奴もいるってことか?」
「ええ、そうですね。精霊がこれにあたります」
「精霊か......ミアは確か精霊魔法っていう技能を持ってたよな。精霊ってのはいったいなんなんだ?」
物語なんかでよく出てくる精霊。人間の形だったり光の玉だったり、物語によっちゃゴブリンなんかも精霊扱いだよな。
「精霊は、星の意思が形になった物だといわれています。まあ私も技能はありますが精霊に出会ったことが無いのでよく分かりませんが」
星の意思ねえ。
「話を戻しますね。このオドを使って魔法を行使するわけですが、これには魔力回路と脳内での詠唱変換が必要になります。魔力回路を使い、オドを貯めている器官から頭へとオドを転送し、詠唱を使って魔法という現象に変えるわけです。」
魔力回路→詠唱→魔法っと。メモメモ。
「魔力を貯めている器官は人によって場所が異なるので、自分の魔力を知覚することが魔法を使う第一歩な訳ですが......」
「ああ、なんとなくこの辺に魔力があるなーってのは分かる。」
俺の場合は心臓の真横、胸の右側辺りだな。
「それを知覚するのに普通かなりの期間の修行が必要なのですが......まあアサギさんですから良いでしょう。そして魔力回路ですが、人間には血が通ってますよね。人の体の中にはその血が流れている管のような物が無数にあるらしいんです。その管を通してオドを頭に送り込む、これが魔力回路です。これも人によって太かった短かったり、何本も有ったりします。」
血管を通して魔力を脳に送る、と。
人によって差異があるのは使っている血管の太さと本数に関係しているのだろう。俺の場合は心臓から脳に向かう静脈っつー一番ぶっとい血管が使えるわけだから、一度に大量のオドが使えそうだな。
そういえば、あの戦いの時にバツン、と何かが繋がったような感じがしたが、あれが魔力回路が繋がったって事なんだろうか。
「この魔力回路の形成が一番の難関でして。まあ体に管があるなんていうのはなかなかイメージしづらいですからね。」
「ああ、そういうことか。俺の場合、というか日本人なら学校で体の構造は一通り習うからな。血管がどうあるかっていうのは分かりやすい。」
「ああ、そういうことでしたか。それにしてもあんなにあっさりと繋げるなんて芸当はなかなか出来ないと思いますけどねー。」
その辺は出来ちゃった、としか良いようが無い。
「そして最後に詠唱ですね。頭に送り込んだオドに形を与えて、魔法という現象にする工程です。基本的には詠唱が長いほど複雑な魔法が使えるようになりますが、人間の脳で処理できる魔法の複雑さには限度があるので、あまりに強大な魔法はあまり使わない方が良いでしょう。」
「その処理できない長さを超えるとどうなるんだ?」
「一説には都市を滅ぼすほどの魔法を行使した魔法使いは廃人になった、とあります。まあ限度を超えると基本的には魔法は不発になるのでそこまで気を使うことは無いと思います。」
なるほどね。
そこで一旦説明をやめ、一呼吸ついたミア。なんだかこんな真面目なミアは初めて見るかもしれないな。いつもはお腹減りましたばかりだからな。
「ふう、長い話をするとお腹が減りますね。お昼ごはんにしませんか?」
やっぱりいつもどおりだな。
昼休憩を挟んでミアの講義は再開した。今日はランチの営業をメッサー達に任せてあるので、場所を近くのカフェに移している。
ミアは先ほどうな重を三杯も食べたと言うのに、ここでもケーキを四つ注文した。正に無限の胃袋だ。
「先ほど説明したのは、魔力がどのように魔法になるか、ということでしたが、今回は魔法についての説明をしようと思います」
よしきた。
「魔法には、六つの属性があります。火、地、風、水、光、闇、と曜日になっている六種類ですね。この中で、適正のある魔法のみが行使できます」
「俺の適正は風だったな。ということは他の五種類は使えないってことか」
「はい。そもそも適正の無い魔法は詠唱が頭にイメージすることが出来ないので、使おうと思うことすら出来ません」
「そういえばミアの適正はどうなんだ?」
「私の魔法適正は地、風、水の三種類ですね。得意なのは風と水の複合属性である氷属性の魔法で。」
三種類か、すごいな。なんだかミアも自慢げだ。薄い胸を張っている。
「なんだか失礼な目線を感じますが、まあ良いでしょう。魔法は頭でイメージして、ある程度自由自在に行使することが出来ます。とはいえ何でも出来る、といったわけではなく、その属性によって得て不得手があります。アサギさんの風魔法ですと、風を起こしての物理への介入と、音や匂い、気配などを操る補助的な魔法を得意としていま。」
んー。なんだか地味な感じだな。どうせ魔法を使うならドカンと派手な攻撃魔法をつあってみたかったが。
「ある程度先人たちが開拓しているので、よく使われる魔法を後で教えておきますね。風を起こしたりするだけの基本的なものならともかく、特殊な魔法の詠唱を一から構築するのは大変ですので」
そうか、人が作った魔法をパクる事もできるのか。言い方は悪いが。
「とまあ魔法についての基本的な扱いはこんな感じですね」
「いやありがとう、助かったよ。それにしてもミアは物知りだな」
まだ十五歳とは思えない博識っぷりだ。
「一応種族的に、魔法については幼い頃から叩きこまれましたからねー。小さい頃から遊びも勉強も魔法に関することばかりで大変でした。まあ嫌いじゃなかったので良かったですけ。」
「確かにエルフってのは魔法が得意なイメージがあるな」
「私は一応エンシェントエルフですけどね。」
「そういやそのエンシェントエルフってのは普通のエルフとは何が違うんだ?」
「エンシェントエルフは古代エルフとも言われ、エルフやダークエルフの祖とも呼べる存在です。ハイエルフもそうですね。エンシェントエルフやハイエルフが長い期間他の種族などの血を取り込んで変化していったのが今のエルフやダークエルフですね。ですから物凄く数が少ないんです。あとはエルフ達よりも魔法に対する適正が高く、代わりに身体能力は低い、というのが特徴ですね」
「魔法特化の種族か」
「まあそういうことになりますね。エンシェントエルフは代々世界樹の守人という職業を継承していまして、私もその一人です」
「ん? 世界樹ってのはこっからでも見えるあの馬鹿でかい樹であってるんだよな? ミアはこんなところで旅をしてて大丈夫なのか?」
「ええまあ。どうも職業制約として世界樹の森には守人は一人、という制約がありまして、現状私の祖母が森にいるので、私や母はしばらくは旅人ですね」
だから旅なんてしてるわけか。人にはいろいろあるもんだな。
「とまあ私の身の上話もこんなもんです。結構長く話していましたが、夜の営業までは少し時間が有りますね。店に戻りますか?」
店の営業まではあと二時間くらいか。今日の仕込みは終わっているし、戻ってもやることがないな。
「どうせならこのまま町で遊んでから帰ろうか。ミア、どこか行きたいところとか無いか?」
「はい! この間カブ子さんと歩いている時に路地裏でやってる怪しい食堂を見つけまして! 女性二人で入るのが躊躇われたので今度アサギさんを連れて行こうと思ってたんですよ!」
また食べ物か。というかなんだその怪しい食堂ってのは。凄い気になるぞ。
「じゃあそこに行って見ようか。案内してくれ」
思い立ったら直ぐ行動。とばかりに席を立ち、店を出るミア。急いで会計をし、ミアの後を追いかける。
「こっちですよー」
不意にミアが俺の手をとり歩き出す。不覚にも少しドキッとした。いやいや、俺は紳士では無いはず!
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、当のミアは楽しそうに俺の手を引き、前を小走りで駆けていくのであった。
読了ありがとうございます。