第二詩「麗しき天使達」
ここから一気に登場人物が増えますが順番に紹介していくのであまり頭を悩まさず……前詩(話)含め名前が出るだけのキャラもいますので、しゅ、主人公の身の回りさえ覚えて頂ければ!
この詩(話)で出てくるのはプロローグ・竜で地球最大の敵と語られた天使達です。
【追記】アザゼル→アシエルに修正しました。
大いなる宇宙。
その中に潜む異空間とも呼べる天界では現天使たちの会合が始まっていた。
それは、自尊心を守るために神に背いた者。
それは、ある者を捜すために神に背いた者。
これら二名の熾天使。そして――
それは、傲慢さがすべてを殺した光の王。
それは、淫乱さですべてを失わせる無価値な王。
それは、誓約が呪いとなり大罪を犯した砂漠の王。
それは、かつて神と敬愛された暴食なるハエの王。
それは、聡明さが炎を生んだ地獄の魔物。
これら五名の堕天使らは円を作るように並べられたそれぞれの椅子に腰を下ろし、互いに睨みあった。
まず口を開いたのは、真っ白な美しい堕天使の男だ。
「ボクらの元パパが堕とした子、起きたんだってねぇ。なんでかなぁ? 気になるなあ~~、ボク、会いに行きたいなあ~~、ダメぇ?」
緊迫した空気の中にも関わらず、その男はふざけているとしか思えない態度で周りを舐めるように見渡した。
当然、只者ではない。彼はこの集った天使の中でも上位の存在であり、神が自ら創った天使のヒトリ――名を、ベリアルという。
ベリアルの言動が癪に触れたのか。いや、そもそもベリアルそのものを嫌っているかのように、山羊のような角をもった緑髪の男・アシエルは大きく舌打ちをする。
「行かせてたまるものか。貴様のことだ、また余計なことをしでかすに決まっている」
それに続き、赤髪の逞しい男・グザファンはベリアルに優しく声をかけた。
「気になるのはわかるが俺達には俺達の目的がある。今はまず、魔界から仲間を集めることが最優先だ。そうだろ? 神が堕とした子どもになら、きっとその後に会えるさ」
二名の言葉に、ベリアルは「つまんないの」と舌を出す。
そんなベリアルを周りは睨みつけ、忌み嫌う態度を見せる中、グザファンだけは困ったように優しく微笑んだ。
そこで「そういえば、ルシファー」と熾天使の一人が声をあげる。
ルシファー。そう呼ばれたのはベリアルとそっくりな顔をした男だ。
「俺様の事はルシフェルと呼べ。で、なんだミカエル」
「……魔界から仲間を集めるというが、いったいなんの為に? 世界を終わらせるだけなら我々だけでも十分だろう?」
ミカエルの問いに、ルシファー……もといルシフェルは鼻で笑うように返答した。
「世界を終わらせる? 馬鹿言うな、何を勘違いしてやがる」
「は?」
「ああいや、間違ってはねぇか。つぅか、それを前提でお前らはここにいるんだっけな」
ははは、と笑うルシフェルの態度はベリアルと同等ともいえる狡猾な態度でありミカエルを苛立たせるのに十分だった。
しかしルシフェルはベリアルとは全く違うものがある。まず一つに、周りからの支持(評価)だ。
彼、ルシフェルは現状・天使の首領としてここにいる。ましてその思わせぶりな口ぶりの中にも彼の生まれ持ったカリスマと栄光が消えることはなく、ミカエル(あるいはベリアル)以外が彼に苛立った行動を見せるなどありえないほどだ。そんな中、少しでも彼の癪に障る発言をしたらどうなるか。同じ堕天使のベリアルであろうと、熾天使のミカエルであろうと、きっと敵と認定される。それを察したミカエルは眉一つ動かさず、ルシフェルの言葉の続きを待った。
にも関わらず、ベリアルにそれは通用しない。
「なんの話だルシフェル。貴方はこの世界を終わらせるために天界に戻ってきたんだろう。まさか今更、自分が神になりたかっただけとでも?」
ミカエルは先程の態度とはまるで違うベリアルの態度に内心驚かされたが、その答えはすぐに出た。
「まさか。俺様は愛しの弟であるお前には決して嘘はつかねぇし、世界を終わらせるってのも間違いじゃねぇ。ただの解釈違いだろ」
彼ら二名、ルシフェルとベリアルは神自らが創った最高位の天使である。しかしそれで互いが兄弟と認識していることをミカエルは知りもしなかった。なるほど、ルシフェルを兄として見ているのであればああいった態度も多少うなずける、とミカエルは勝手に納得する。
一方ベリアルは、弟、という単語に過剰な反応を示した。
「やめろ。そんなこと言うな気持ち悪い。大嘘つきなのがバレバレだ」
苛立ったベリアルの色に、少し赤みがかかる。
「お前は感情の色が髪や翼に出るからわかりやすいなあ。んまあ、そんな苛つくなって……」
「……本当に…………気分が悪くなってきた。ボクはもう寝るから、みんなおやすみぃ」
そう言って、ベリアルはやや強引な理由で席を外す。
しかしそれを止めようとする者はここにはいない。強いて言えば、先程もベリアルに優しい態度をとっていたグザファンだけはそれを心配そうに見ては、その背を見届けた後にルシフェルに声をかける。
「いいのかルシフェル。ベリアルにも話を聞かせないとまずいんじゃないか?」
「構わねぇさ、心配には及ばねぇ。ベリアルは既に知ってるしな……さて、ミカエルちゃんの問いに戻すが、そうだなァ……まず下界の人間については後回しだ。それはアイツが決める。俺様らはまず魔界の悪魔共を天使にしてやる作業から終わらせようか。その理由は後々嫌でもわかるだろうさ」
「……アイツとは誰のことを言っている」
「ああそうそう。それを紹介するためにお前らをここに集めたんだ」
ルシフェルがそういうと、会合室へと妙な足音が近づいてくる。
その歩みは翼など持ったことのない者のように、本来ここにいるべきではない地に足をつけた音だ。
全ての視線がその音へ集ったとき、ルシフェルはニヤリと不敵な笑みを見せた。
「彼こそが我らが新たなる神であり、人の王だ」
「人間の男、ああいや、先程の王の話……お前は知ってたか?」
会合終了後、地球を見下ろせる大きな湖の傍でグザファンはベリアルに対して辛辣な態度をとっていた男、アシエルと共にいた。
声をかけられたアシエルは聞こえるように舌打ちをする。
「軽々しく我に声をかけるな、ルシフェルの犬め」
そんな傲慢な態度にも、グザファンは優艶な笑みを見せた。
「犬ほど愛されてんなら隠し事なんてされてないけどな?」
「ふん。貴様が本当に何も知らない保証などどこにもないだろうに」
「そこまで疑うかフツー。俺はただの下級天使、悪魔にすらなったことないただの凡俗だぞ。アンタらに嘘なんてつけるもんじゃないさ」
「……貴様は重度のルシフェル病だ。ルシフェルに従いこびへつらう魔犬だ。そんな奴を疑わぬ馬鹿がいまい。そもそも、そこまで身を弁えているのであればここからさっさと立ち去れ。貴様はベリアルの見張りでもしているのが――」
そこまで言うと、アシエルはあることに気が付く。
「ベリアルはどうした? あれから姿を見ていないが……」
「ん? お前がアイツを気にするなんて珍しいな。いや、ある意味いつも気にしてるか。俺も見てないが、自室にでもこもって……ん? おい見ろアシエル。あれって……」
グザファンは湖の底を指し示す。アシエルは黒目でその先をジッと見つめた。
「……まさか…………」
瞳が、山羊のようにニッカリと細くなる。