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一億年後の世界に十五年目の産声と。  作者: ばくだんハラミ
始まり
2/20

プロローグ・竜

 地上の大規模な樹木と街々との間では、竜と呼ばれる、かつては神をも恐れた生物界最強の集団がいた。


 個体それぞれ大きさが異なり、10mもないものから30mもある竜まで。中でも最も目立っていたのは、誰もが山だと思うほどの巨大な竜だ。身体を寝かしているにも関わらず、その竜の存在感はとんでもなく大きい。体長だけみれば、ざっと300mはあるのではないか――――その竜の名は■■■■■■■という。それは『竜王』とも呼ばれていた。


 竜王を中心に寄り添って眠りにつこうとしたその時、数秒だけ天界から一筋の光が差し込む。多くの竜はそれに気づき、どうしたものかとざわつき始めた。

 最初に竜王へ声を掛けたのは20m以上はある雄竜、ニーズだ。


「はへぇ~、今のなんなんスかね?」


 ニーズの軽い反応とその声は、周りの竜たちを和ませた。彼が喋りだすと、どんなに緊迫した場面でもこうして一瞬でぶち壊せてしまう。まあ要するに重度の馬鹿であり身内の癒しなのだ。

 そしてこの軽い声とは裏腹に、竜王が威厳に満ちた声で場をしめる。


「天界から何か小さいものが堕ちていったように見える。危険かもしれない――私が様子を見に行くから、オマエたちは先に睡眠をとっていなさい」


「ああっ、待ってくださいッス竜王! 人型になって行くッスよねぇ。ならオレに乗ってください、そのほうが多分はやいッス」


 ニーズの提案に竜王は「ああ、助かる」とだけ返し自身は体に魔力を集中させる。人型に変化するつもりだ。森林の破壊を回避するためだろう。しかしソレを阻むように一頭の雌竜が竜王の手に泣きつく。まだ人型になれるほどの力は秘めていない、生まれて数か月の子竜・レヴィだ。

 竜王はレヴィの頭に口元を当てるようにして優しく撫でた。


「レヴィ……オマエは皆とここにいなさい。大丈夫、すぐに戻るから」


 レヴィは竜王の言葉に寂しく声を鳴かせ、駄々をこねるようにしがみつくが、他の竜に竜王から引きはがされてしまう。竜王はそれを確認し微笑むと、すぐさま男性体に近い人型へと姿を変え、ニーズに乗って光が差し込んだ方向へ飛んで行った。


「一体なにが堕ちたんスかね!? 天使じゃなきゃいいんスけど! たわははー!」


 天使。後に語るが、今の世界では地球最大の敵である。


「……静かに飛べ、オマエの声は街まで響く」


 竜王の冷静な返しに「さーせんっしたァ!」と全く反省の色のない大声を出した。


「まったくオマエというやつは……」


 と流石の竜王も呆れた声をもらす。

 光が差し込んだ周辺を見ると、そこには狼ほどの大きさをした毒々しい魔獣が『なにか』に咬みついていた。これに気付いた竜王はすぐさまニーズから降りる。


 一瞬だった。魔獣の首を蹴り飛ばし、魔獣は『なにか』を咬みついた頭だけを残して体だけが吹っ飛んでいった。いや、この魔獣は口がついているほうが体に当たる。つまり、竜王は魔獣の頭を吹っ飛ばした。しかしこの魔獣はこれで終われない。

 首だけになった魔獣は触手を伸ばしては悲鳴をあげるようにガスを放出し仲間を呼――ばせない。竜王は更に地面を踏み込み、回し蹴りで魔獣の頭部を破壊する。ソレはまるで、割れた水風船のように。

 3秒にも満たない戦闘を終え、竜王はすぐさま『なにか』へと駆け付ける。


 人間の赤子が、そこにいた。しかもそれは生まれたてとなんら変わらない新生児である。

 まず驚愕したのはニーズのほうだ。


「にっ、人間の赤ちゃんが、なんでっ!?」


 ニーズの大声に周りの鳥たちが一斉に騒ぎ飛び出した。しかし赤子は全く反応を示さない。泣く様子も眠っている様子もなく、それは死体のように見えた。


「あ、あの魔獣って、毒もちッスよね? そ、そそそ、その子、死んじゃってるんじゃないスか……?」


「そこで静かにしていろ」


 竜王は冷静沈着に、魔獣の体をどけては母のように優しく赤子を抱きかかえた。事実、その赤子には毒が回っていたが、この時竜王は別の違和感を覚えていた。しかし違和感に構っている暇はない、早く処置しなければ赤子が死んでしまう。

 本来なら放っておくものだった。いかに赤子とはいえコレは人間だ。竜とはなんら関係はないし、育てる気持ちなんてものは一切わくはずもない。竜は人間に対する慈悲などなく、傲慢な生き物だ。しかし、この時代は既に違っていた。


 竜王は躊躇もせず自らの掌に傷をつけては血を赤子の口に注いだ。またもや、ニーズが驚愕の声をあげる。


「え、え? なにやってるんスか?」


「私の血ならば魔獣の毒くらい打ち消せる。まあ、コイツに多少竜の血が混じってしまうが……」


 そうもいっていられない状態だ、と竜王は血を注ぎ続けた。赤子の口だけで摂取させるには厳しいため傷口にも自らの血を零す。竜王の血を浴びた傷は、瞬く間に修復していった。


「はへぇ~、さすが竜王、回復速度が尋常じゃないッスね……でもこれで竜王の血が混じったってことは、竜王の子も同然ッスよね! 匂い的に男の子ぉ、かな? 育てるッスよね?」


 軽々しく言うニーズに、竜王はうんざり顔で「勘弁してくれ」と本気で嫌がる。


「コイツは病院にでも送っておく」


「はへへっ、病院通えばいいのにぃ~この赤ちゃんうちの子ですぅー! って!」


 竜王はしかめっ面で赤子を抱きながら歩き出す。相当頭にきたようだ。

 ニーズは自分を無視して歩き出した竜王を見てあわわと情けない声を出しながら竜王の歩に合わせゆっくりと後ろをついていく。


 ――――この赤子が目を覚ますのは随分先になることをこの時の2頭は思いもしなかっただろう。

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