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一億年後の世界に十五年目の産声と。  作者: ばくだんハラミ
バーボン王国編
18/20

第十五詩「仕立て屋ニーベルング」


 レヴィが出たときには既に遅かった。子竜二頭のブレスはぶつかり合い、すさまじい衝撃波を生む。これを真正面でされれば普通の人間は体が弾けてもおかしくはない。だが秀頼の身体はその衝撃を受けるよりも前に、何かに掴まれ浮くような感覚に襲われては、柔らかいものに頬に触れる。


「無事か、少年よ」


 秀頼はその声に瞼を開くと、空を飛ぶ黒い大きな翼をもつ女性に抱きかかえられていた。

 頬に触れた柔らかいものは、なんでも受け止めてくれそうな二つの丸い外性器(にゅうぼう)だ。


「わ、ちょ……すみませんすみません!」


 秀頼は顔を真っ赤にしながら女性の腕と胸の中で暴れようとするが、女性の力は思った以上に強く、暴れる事さえかなわない。

 マラクとオルフェは自分達がうんだ衝撃波に突き飛ばされ、大人の竜に保護されていた。

 それを確認した女性は翼をゆっくりと閉じながら秀頼を地上に降ろす。降ろされた先ではタオルを手にしたレヴィが秀頼の元へ向かった。


「ヒデ大丈夫!?」


「だ、大丈夫……一応……」


 それを聞いたレヴィはホッと胸をおろし、秀頼の唾液でべたべたな顔をタオルで拭った。


「ごめんね、オルフェ達まだ力の加減とかわかってないから……」


「いや……しょうがないよ……レヴィ」


 レヴィに拭われ、耳が赤くなる。

 感謝の言葉を言おうと名を呼ぶが、レヴィは黒い女性のほうへ視線が向いていた。


「ファ、ファヴニールお姉ちゃん! その……」


 ファヴニール。そう呼ばれた女性の胸元は秀頼を抱きかかえたときについた唾液にまみれていた。


「気にするな、いずれ乾く。それでレヴィ。その少年はもしや……」


 気にしてほしい。そう思いながらさすがに秀頼は直視出来ず目を逸らした。

 

「そう。彼は竜王が拾ったあの男の子よ。名前は……」


「天草秀頼、そう聞いている。なるほど、確かに単に目が覚めたわけではないか。触れたとき多少の違和感を覚えた。いやはや、竜王には驚かされる。我も長生きなほうだが竜王と比べ物にすらならんとは」


 はあ、とファヴニールは眉を顰める。竜王と似ているがどこかそれ以上に堅苦しい雰囲気をもつ女性だ、と秀頼は思った。


「ふぅ……して天草よ。来て早々問題を起こすとはな。これは、すぐにでも仕事をしてもらわねばならぬな」


「……え?」


「部屋の案内は後にせよ。まずは着替えだ。ファーフナーの店にでも行くといい。それからここでの生活をする上での仕事に就いてもらう」


 ファヴニールの説明に、ああ、と多少なりとも納得する。ここで生活するためにはしっかりと自分も働かなくてはならないというのは秀頼自身、当然のことだと思っていた。


「仕事といっても家事くらいだから、大丈夫よ」


 横からレヴィが安心させるようにそう言うが、秀頼はそちらの言葉のほうに驚愕した。


「え!? そ、そんなんでいいの!? なんかもっと、こう肉体労働とか……ここに住まわせてもらうのに!?」


「あら、ヒデったら。もしかして働きたがり……?」


 レヴィは信じられないといった表情をする。レヴィ自身は働くのはあまり好ましくないようだ。


「家事も立派な肉体労働だ。レヴィ、天草をファーフナーのところへ。我はオルフェ達を(フィン)の元へ連れいく」


「わかったわお姉ちゃん。ヒデ、ファーフナーお姉ちゃんのところへ一緒に行きましょう!」


「あ、ああ、うん」


 秀頼は差しのばされたレヴィの手を取り、少し歩いた。

 ファーフナーという姉がいる場所にたどり着く。そこは古びた店のような形の建物でいたるところが錆びていた。見ていると今にも崩れてしまいそうだ。


「……ここ、入っても大丈夫なのか?」


「みっ見た目はこんなだけど、中は綺麗なほうだから!」


 レヴィにそう言われあまり期待せず建物の中へ入っていく。

 

「わ……!?」


 中は外からでは想像もできないほど趣味の悪い金に包まれた場所で、とても眩しい内装になっていた。錆やヒビなどは確認できず、散らかっている様子もない。どこか過激な高級ホテルにでも入ったような気分になっていた。


「奥の部屋にファーフナーお姉ちゃんがいるはずよ」


 スタスタと先へ進んでいくレヴィに秀頼は後から急ぎ足でついていく。

 趣味の悪い黄金の廊下の先に趣味の悪い扉があった。

 金ぴかに磨かれた扉にはまるで鏡のように自分たちの姿が見える。

 

 レヴィは重い音をたてながら扉をゆっくりと開いた。

 すると、中で椅子に座るヒトリの女性が顔を見せた。


「アラ。アラアラアラ。可愛い命がふたつ」


 ピンク色の長い髪をもつメガネの女性は秀頼達を見ると爬虫類のような顔でニッコリと笑った。


「ファーフナーお姉ちゃん!」


「いらっしゃいレヴィ。横の命はお友達かしら? ……アラ。アラアラアラ。そ・の・お・か・お……もしかしてぇ……」


 ファーフナーは椅子から腰をあげくねくねとした動きでヌルリ、と秀頼に近づいていく。

 秀頼はこの手の人物は初めてなせいか、眉を顰めて苦々しい顔をした。

 その女性の雰囲気に圧倒されうまく言葉も出そうにない。


「うっふふ~~! あの例の赤ん坊ね! 命のない身体だったから興味なかったけどぉ……ふぅん、こうして命があると、そうねぇ……」


 ファーフナーは面白可笑しく笑みを浮かべながら秀頼の耳へ口を近づける。


「か・わ・いっ」


「う!?」


 今までにないほどの甘ったるい声に一瞬、頭が眩む。

 この女の声には何か魅了のようなものが混じっているようだ。


「ファァアアア! フナーお姉ちゃん!」


 レヴィは声を上げファーフナーの服を引っ張り秀頼から離した。


「今日は、ヒデのお洋服を買いにきたの!」


「ヒデ? ああキミ、ヒデというの。よろしくね。ワタシはぁ……既に聞いているだろうけど、竜の仕立て屋ニーベルングを経営しているファーフナーよ。ファーフナーちゃんって呼んでね」


「は、はあ……どうも、ファーフナーさん……」


「アラ。アラアラアラ。つれない命ね」


 ふふ、と爬虫類顔で笑みを見せてはファーフナーは再び椅子へと腰をおろした。


「それでぇ、お洋服だけど。今回は初回サービスで無料で提供してあげる。その代わりニーベルングをご贔屓にぃ~お願いね」


「ふふ、ファーフナーお姉ちゃんならそういうと思ったわ。アタシ今お金持ってないから!」


 えへ、と愛らしく肩をあげるレヴィにファーフナーは呆れた顔で微笑んだ。


(そ、そっか、普通ならお金が必要なんだよな。ファヴニールさんの言い方からしてももらえるみたいな感じだったからお金の事なんて全然意識してなかった……)


「さてさて既存のお洋服がいいかしら。それともこれから仕立てる? パーティー衣装、民族衣装、作業着普段着パジャマな~んでも言ってね」


 ファーフナーはすっかり仕事モードにはいったのか妙な甘い声をやめ、部屋中にちらばる大量の紙を手に取り始めた。


「普段着と……仕事着と、パジャマがいいかしらね」


「ん、何着もお願いしたらお金かかっちゃうんじゃ……」


「あ~いーのいーの。初回無料っていうのは今日一日無料ってことだから。今のうちにジャンジャン貰っちゃって~!」


 ファーフナーの言葉に流石の秀頼も目を丸くする。


「え!? そ、そんなことして赤字になりません!? 大丈夫なんですかここの経営!?」


「アラ。アラアラアラ。小さな命にしてはお店のことをわかっているのねぇ。でも大丈夫よ~今まで赤字になったことないから」


「そ、そうなんですか……?」

(一着一着が高いのかな……いやそれだと一日無償は逆に良くないような……意外と客が凄い来るのかな……)


「なんといっても素材が……ああ今のはナシね。気にしないで? それじゃあヒデ。貴方に合いそうな服をいくつか持ってくるからここで待っててねぇ」


 ファーフナーはそう言って紙の束を抱えながらヒトリ、秀頼達が入ってきた扉とは違う扉から出て行った。外から見たより意外と中は広いようだ。


 言われた通り待っている間、秀頼とレヴィは部屋にあった黄金色のソファーに腰を下ろしていた。


「ファーフナーさんは金色が好きなの?」


「う~ん、そこは竜の性というやつかしら。竜はみんなこういう金ぴかは好きだと思うわ。まあ、さすがにここまで押してる竜はそういないと思うけど」


 レヴィは困り眉でそう微笑む。


 竜というのは過去から変わらず、金銀財宝に恋をしたような生き物だ。

 財宝から目が離せず、そこにあるのであれば何が何でも勝ち取りたい。勝ち取ったのなら何が何でもそれを守り抜く。そこに関しては人間に似たようなところがあると感じるが、逆である。人間の金銀財宝が好きなところが竜にそっくりなのだ。

 そのため、竜の金銀財宝に対する愛は優に人間のソレを超えている。

 人間がその域に達したとき、それはもはや人間ではないのだろう。


 しかし、レヴィのような竜はそういった感情を人間のように押し殺すことが多少可能であった。

 古来の竜とは違いもう何億先の祖先であるレヴィ達はどこか竜らしくない感情が産まれてしまっているのだ。


「そっか……」


 竜はそういうものか、と秀頼は納得する。

 やはりこういうところで違いを感じざるを得なかった。


 他にも何か聞いてみようかと思ったその矢先、カツカツとヒールのような音が、秀頼達が入ってきた扉の先から聞こえてきた。

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