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一億年後の世界に十五年目の産声と。  作者: ばくだんハラミ
バーボン王国編
17/20

第十四詩「終点バドライト」

 ネ=コのバスは車のような速さで進んでいく。意外にも揺れは少なく、秀頼にとっては本来のバスとそう変わりない心地で乗れていた。

 ひとつ、ふたつ、とバス停で止まっては次々と人が降りては乗っていく。しかし木々へ近づくに連れ、気が付くとバス内には秀頼、レヴィ、ニーズしか残っていなかった。

 窓から外を眺めるとやはりバスは木々のほうへ向かっていた。


「あの……どの辺で降りるんですか? なんか森っぽいとこに近づいてますけど……」


「あと二つ先の終点で降りるッスよ。ヒデくんの住むとこはギリギリ森の中は入んねーッスけど、まあ森も我らが竜の家みたいなもんッスから気軽に遊びに行っていいッスよ」


「……もしかしてですけど、竜の皆さんって同じ場所に住んでるんですか?」


「だいたいはそうッスね」


 ニーズがそう答えると横からレヴィが


「だいたいじゃないでしょ」


 とツンとした態度で言う。


「本家はバーボン王国のあの森だから多くの竜が住んでいるけど、世界各地にも竜騎士として身を置いてるの。だから全体的に見ればバーボン王国より世界に出た竜のほうが数が多いわ? 」


「そう、なんだ……この国に限ったものじゃないんだな、竜騎士って」


「まあそうね。この国から始まったものではあるけど……」


 そう言い終わるとき、ネ=コの鳴き声がバス内に響く。

 秀頼にはそれが言葉に聞こえていた。


「次は終点~、バドライト~、終点バドライト~だぜよニャア」

「ヒャッハニャーーーー!!! あと2分くらいで着くぜふぅうううほあニャアア!」


 ネ=コがそう叫ぶとバス内にある行き先表示と運賃表示器も変化する。

 秀頼の時代とそう変わらず、終点の文字が流れていた。


「……そういえば、回数券的なものとってないんですけど」


「回数券?」


「ああ、カード払いなんで大丈夫ッスよ。払うときに三人分とるんで」


 何処にしまっていたのか、緑のカードを取り出してはそう言った。

 秀頼の言葉にレヴィは眉を顰めるも、ニーズだけは理解している。それに秀頼までも眉を顰めた。


「……あの、ニーズさんって意外、と……オレの言うことに理解が深い……みたいですけど、その、オレの居た時代のことどのくらい知ってます?」


「はへへ、流石にヒデくんの時代の時は産まれてないッスけど、姉ちゃんとか弟が本読んで話してくれるんでそれでわかってる感じッス」


「そ、そうなんですか……」


 意外だ。と秀頼は心の中で言う。

 決してニーズを下に見ていたわけではないが、どこか流れるように生きてきた独特な雰囲気のせいでそう己に関係ないものを記憶している印象がまるで無かったのだ。

 どちらかといえばどんな事にも首を傾げる印象が秀頼にはあり、それは恐らく大抵の者が抱く印象でレヴィも例外ではなかった。


「え、そうなの?」


 ニーズの言葉にレヴィは目を丸くする。


「っていうかお兄ちゃん、いつ産まれたんだっけ」


「へ? あ~……せん……いや、どんくらい前だったッスかねえ……う~~ん……覚えてないッス!」


 と、ニーズは笑顔でそう答えた。


「……お兄ちゃん、若いほうって聞いたんだけど……」


「そりゃ若いッスよ! なんせ先代竜王……レヴィと同じママから生まれてるッスからね!」


(先代……竜王……?)


 気になる言葉に秀頼は反応を示す。問いを投げようとしたところでネ=コの声が高らかに車内に響いた。


「ニャアアアアア!!!」


 その声と共にバスはゆっくりと止まった。


「……終点~終点~バドライト、ご乗車ありがとうございますだニャー」

「さっさと降りニャァ猿野郎ドモッッニャァアアア!」


 ネ=コの声を聞いた二頭と一人はバスから降りる。

 ネ=コは降りたのを確認すると、またもや高らかに叫ぶと走り去っていった。


 降りた先で一番先に視界に入ったものは森だ。建物らしきものは一切見受けられなかった。


「……あの、ここからどこに?」


「ヒデ、あと三歩くらい、前に歩いてみて」


 その言葉に、「え?」と聞き返す。

 振り返るとレヴィとニーズは何も言わずニマニマとした顔で秀頼を見ていた。

 秀頼は首を傾げては、言われた通り歩を三歩ほど進めた。その時、足が何かに呑まれたのを感じた。


 全身に伝わる違和感。それを感じた先は世界が変わっていた。

 見えたのは多くの人々と竜、そして先程までなかったはずの建物だ。


「な、ぁ――――」


 いったい何が起きたのか。その理解不能さに秀頼は大口を開けてただそこに突っ立っていることしかできなかった。秀頼に続いてレヴィとニーズが前へ出る。


「どう? 驚いた?」


 後ろに手を回したレヴィは意地悪そうな顔で秀頼の顔を覗く。

 その姿を目にして意識がしっかりとした秀頼は首を縦に勢いよく振った。


「こ、これ、何がどうなって……」


「アンリさんの魔法よ。この結界の中は入らない限り見えないようになっていて、天使に見つからないように、そして街の人の恐怖心を煽らないように竜はこの結界の中で住んでいるのよ」


「……恐怖心?」


「ええ。だってアタシ達。たった20年前まで人と戦争していたんだもの。仲良くしてても、怖がられてしまうのは仕方ないって大人たちが……」


 どんどん声が小さくなっていくレヴィに、秀頼は、そっか…。と申し訳なさそうな顔をして言った。

 少し空気が悪くなってしまったことも無視して、ニーズはいつも通りの軽い声を出した。


「ウェーーイ! ただいまッスよみんなーー!」


 ニーズがそう言うと秀頼より多少大きい程度の竜達が一斉に集まった。


「おにいちゃんおかえりー!」

「おっそいぞオマエー!」


 恐らく子どもだろうか、竜は人型にもならずニーズへ容赦なく体当たりをした。


「いてぇッスよもう~~~~!! がおー!」


 ニーズは人型のまま熊のように体当たりをした竜を襲い、竜達は「キャー!」と高い声を出しながら逃げていった。ニーズはそのまま帰って来ず去って行ってしまう。


「……今のは?」


「子竜達よ。お姉ちゃんたちの息子と娘。だからアタシの甥っ子と姪っ子にあたるわね」


 随分な大家族だ、と秀頼は前の光景を見てそう呟いた。

 街にいた人々に劣らないほど大勢いる人型の竜と子竜は、まるで人間のように生活していた。

 その中、二頭の赤い子竜と青い子竜が秀頼に気が付き、近づいてきた。


「ねーオマエだれ?」


「レヴィレヴィ、このヒトなぁに? くってもいいの?」


「えっ」


「ダメよオルフェ。そしてマラク、この人はこれからここに住む新しい家族なのよ」


 レヴィの言葉に一瞬ドキッとする。

 新しい家族。改めてそう言われるとどこか照れ臭いものがあり、秀頼にとってはどこか不安のある言葉だった。

 赤い子竜と青い子竜は二頭で顔を見合わせては、秀頼のほうを見て嬉しそうに騒ぎ出した。


「わーーいあたらしいおにいちゃんだ! おなまえなぁに? ボクはマラク! こっちの青いのはオルフェ!」


「オレは秀頼。ヒデでいいよ」


「じゃあヒデー! あそぼーあそぼー! ねぇねぇちょっとかじってもいい?」


 オルフェは秀頼の腕に頭をすりすりと擦りながら瞳を輝かせた。


「かじられるのは、ちょっと……」


 そう断ると、じゃあ、とオルフェは秀頼の頬を舐める。


「わわ!?」


「ちょ、オルフェやめなさい! ヒデ、顔がヨダレまみれだわ! 今タオル持ってくるから!」


 レヴィは走ってすぐ近くの家へ入り込んでいった。

 その隙を見て秀頼舐めにマラクも参加してしまう。


「ずるいずるい、ボクにもちょっとアジミさせてよ」


「物騒なこと言わなぶわっ」


 両方から顔を舐められる秀頼は、予想以上の重さからつい座り込んでしまう。

 秀頼の位置が低くなったせいかオルフェとマラクの顔がぶつかってしまった。


「マラクいたい、あっちいって!」


「なんだよオルフェ、メスなんだからどくのはそっちだぞ!」


「かんけいないし! かんけいないし! さきにペロペロしたのオルフェだもん! オルフェがさきだもん! まだオルフェのばん、おわってないもん!」


 オルフェはそう言いながら秀頼の顔前でジタバタと暴れ始める。これにはマラクも困った反応を見せ、一歩引いた。


「なにおこってんだよ!」


「やだやだー! マラクきらい! きえちゃえ!」


「ちょ、ちょっとふたりとも――」


 秀頼は二頭を落ち着かせようと腰を上げるが、今度はオルフェ以上にマラクが暴れ始めてしまった。


「きえるのはオマエだオルフェ!!」


「マラクのばかーーーー!!!」


 二頭は大きく口を開け、マラクは炎を、オルフェは氷を一斉に吐き出した。

 レヴィがベリアルとの戦いで見せた、ブレスである。



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