第七詩「ガーデン オブ プリズン」
ようやくここでメイン主人公パーティー三人目が登場します。
え?アジダカ?アンリさん?あ、あの二人はパーティーにいれるには、こ、コストが高すぎますね……
――――って、
「ここ監獄じゃないですかああああ!!!」
……つい数分前のことだ。
アジダカに引き取られる予定だった筈が無かったことになり、秀頼はアンリに言われ『ガーデン』と呼ばれる場所へ来た。
しかし、そこは……
「オレ知ってますぅ! レヴィが言ってましたからね! ここ、監獄なんでしょ!? オレはあれですか、監獄の空き部屋にぶち込まれるんですか!?」
「う~ん、そういうことになるね」
「そういうことになるね!?」
ベリアルに襲われた付近にあった謎の建物。レヴィの説明によると一定のカウンセリングを受けた犯罪者が入る特殊な監獄だったが、アンリはそれを『ガーデン』と呼び秀頼を中に連れてきてしまったのだ。
外から見たときは植物が目立っていたが、中に入るとすさまじい数の扉が目立ち、見たこともない道具があちこちで使われているのがわかる。
なかなか一歩が踏み出せず混乱している秀頼の元に受刑者と思われる同じ服を着た人々が賑わってきた。
「なんだなんだ新入りか?」
「わけぇなあ、何やらかしたんだか」
「ガリガリだな、ちゃんと飯食ってんのか?」
「ちょっとイケメンじゃない?」
「やめなさい、子どもよあの子」
「あ、う、うぅ……」
このままだと自分も受刑者の仲間入りになってしまうのではないか。そんな不安を胸にしていると集団の後ろが不穏に騒ぎ出す。
「……?」
白い肌。白い髪。紫色の瞳。大きな傷痕のある顔。
視界に入ったのは、そんなひとりの少年だ。
身長は今の秀頼とそう変わらず、不健康でどこかベリアルを思い出させる色をした少年を、周りの受刑者は恐れるように避けていく。そこで、一人の男の声がした。
「鬼の子がまた部屋から出てきやがった」
小さな声だった。しかし静かになりつつあったその空間では、秀頼にもその少年にも十分聞こえる程度の声だった。
(鬼の子……)
天使に、竜……今度は鬼か。そう思った時、白い少年と目が合った。そこにある違和感が秀頼を襲う。
――違う。
違う、何かが違う。何かが秀頼の中で否定する。いや、秀頼の中が否定する。
少年はすぐ目を背けると俯いてアンリの元へ歩いて行った。
「…………アンリさん」
「うん、掃除が終わったんだね、お疲れ様。そうだ、たまには二階の花壇に顔を出しておいで。花たちも喜ぶよ」
アンリだけは変わらない態度で優しく白い少年の頭を撫でる。
白い少年は視線を落としたまま小さく頷くと、その場を後にした。
「はい、みんなも持ち場に戻った戻った。ほら、手が止まってるよ」
アンリは手を叩き周りのみんなへ声をかける。
彼らはハッとしたようにそれぞれ行動を開始した。
花壇に水をやるもの、掃除に戻るもの、それらを見て固まっている秀頼の背中を、アンリが優しく叩く。
「君は二階にある部屋の一番端の部屋を使うといい。階段を上ると花壇が見えるから、その左を行くといい。お風呂と食事は時間制だから少し待っててね」
「は、はい……わかりました……」
(もうここまできたら仕方ないか……)
渋々とした表情で秀頼は階段を上る。
(刑務所の階段にしては、キレイだな)
よく見れば見るほど監獄離れした場所だ。
観光地のような綺麗さと大きな公園のような広さ、そこで受刑者達は快い顔で仕事のようなことをしている。
中には子供たちもいて、受刑者の大人たちが作ったであろうブランコで遊んでいた。
(アンリさんの反応からしてここが監獄なのは間違いないはずなんだけどな……こんなんでいいのかな……)
「……あ」
階段を上がりきるとすぐ大きな花壇が視界に入る。
しかし人気は少なく、そこには先程の白い少年が花壇の前で立っていた。
(う~~ん……)
先程の事もあり、秀頼は彼のことが気になってしまった。
鬼の子だと、言われていた。彼の正体が本当にそうなのかは知らない。しかしそれを確かめるためだとか、この場を知るためだとか、そんな理由も考えなしに秀頼は少年に声をかけた。
「……あ、あのさ、君はここに住んでるの?」
近づいてみると、どうやら彼は秀頼より少し背が低いようだ。
声をかけられた白い少年は少し驚いた顔で秀頼を見ては、花壇のほうへ視線を向けてしまった。
そう、要するに無視したのだ。
さすがの秀頼もこれにはカチンときた。
(無視することないだろ……!)
そういえば、と生前の記憶を辿る。
飲食店で働いていた時の事、自分はまだそこの新人で顔すら覚えてもらえてなかったようなとき、雰囲気の暗い先輩に明るく挨拶をしたら無視をされたあの瞬間を思い出した。
後から分かった話だが。あの先輩はコミュニケーションが苦手で無視をするつもりはなかったがタイミングがよく掴めずそのまま歩き去ってしまうことが多いという。
(あの先輩、よく飲食店で働こうと思ったよな……じゃなくて、今は)
ンッンー、とわざとらしく喉をならす。
秀頼は親に対しての態度でわかる通り、根に持ちやすく、我を押し通すタイプだ。
無視されたからといって声をかけるのをやめるような男ではない……!
「あのさ! 答えたくなかったら答えなくてもいいんだけど、君さっき……」
ズイッ、と視界に入る。少年は秀頼と目が合うとハエを見るような顔と、ドスの入った低い声ででこう言った。
「うるせぇよ、クソ猿が」
「くっ……」
クソ猿。
「…………うん、初対面でそんな風に言われたのはうまれて初めてだよ、うん……」
あくまでも冷静に、苦笑いをしながらわけもなく頷く。
彼はあの先輩のように会話が苦手なタイプというわけでなくただ単に性格と口が悪いようで、ため息をつくと続けざまに毒を吐いた。
「うるせぇってんだよ、視界から消え失せろ。言葉通じねぇのか? ……ああそうか、猿に言葉が通じるわけもなかったなあ。俺も何話してんだか」
少年はケッ、と聞こえるように言うと花壇の奥へと進んでいく。
しかし秀頼は引くどころかぐいぐいと少年の後ろをついてった。
「あの言い方はどうかと思うぞ、友達いないだろお前」
どこか秀頼もあたりがきつくなっていた。これにも少年は無視を続ける。
「……さっきアンリさんに言われてここに来たみたいだけど、ここの花壇になんかあるのか?」
「…………」
「いつからここに住んでんの? オレとそう年も変わんないようだけど」
無視をされるので次々と質問を変えていく。
そうすると少年の足音にも変化が出てきて、だんだん苛つきが表れていた。
ようやく、少年は足を止めて振り返った。
「なんなんだお前! しつけぇぞ!」
「ふっふー、反応したなあ?」
「な、何を勝ち誇ってんだよ……」
秀頼の奇妙な態度に少年は引き気味になる。
そんな少年に、秀頼はホッとしたように笑みを浮かべた。
「なんていうか、お前普通だよな。口悪いけど、この世界に来て一番近しい人に出会えた気がするよ」
「はあ?? ……………………つーか、お前」
何に驚いたのか、随分と間をあけてようやく少年はあることに気が付いた。
「そのカッコ、ここの住人じゃねぇな」
ここの住人はみな同じ服を着ている。それは白い少年も同じだ。しかし秀頼だけはいまだ病院から借りた服を着ていた。
「ああ、だってオレ普通の一般人だもん」
「なんで一般人がここにいんだよ。関係者以外立ち入り禁止だろ」
「え、そうなの? そっか。ここ監獄なんだもんな……でもアンリさんに入れてもらったし……というか寄るとこ無くて宿代わり、みたいな……」
なんと説明したらよいか、それとない言葉を選ぶ。
少年は不思議そうな顔をするが「ま、どうでもいいか」と視線をそらした。
「どうでもいいんだ……あ、そうだ。オレの名前は秀頼、ヒデでいいよ。お前の名前は?」
「なんだ急に」
「いやだって、いつまでここに居続けるかわからないし……年近そうなのお前くらいなんだもん。仲良くしようぜ!」
「……お前、気持ち悪い奴だな」
「え」
少年は一度目をつむるとゆっくりと開いては秀頼を見た。
「中身と見た目が合ってねぇんだよ」
「?? どういう意味?」
「大抵の人間は体型だとか、仕草だとか、色で性格が現れるだろ。なのにお前は見た目と性格が全然違う、変な奴。ガリガリのチビの癖に、くそでかい年上と喋ってるみてぇだ」
「あー、はは、見かけによらずって奴かな」
(まあオレ、確かに君よりは年上だし生前は今よりでかいけど……)
そう考えると、彼の観察眼も優れたものだ。この数分で器と中身が全くの別人であることを見抜いてしまったようなものなのだから。けれど少年がそれを知る由もなく、単に『変な奴』で解決する。
「でもお前もあんま見た目によってないよな。何歳? オレは……15歳」
「……多分14歳だ」
「た、多分か……それで、名前は? まだ聞いてない」
「…………」
「も、もしかして、名前が無いとか?」
「あるに決まってんだろクソ猿が!」
「じゃあ教えてくれよ、言えない理由でもあんの?」
「……お前な、ここが監獄だってことわかってんなら気安く名前なんて聞くんじゃねぇよ。俺だってここにぶちこまれるくらいには極悪人なんだぜ?」
その言葉に、ハッ、とする。
わかってはいた、しかし。ここの独特な雰囲気のせいか、香る綺麗な花のせいか、目の前にいるのが14歳の少年だったせいか、彼らが監獄で生活を強いられた犯罪者であることをしっかりと認識できてはいなかった。
彼らはあまりにも幸せそうで、あまりにも幸運そうで、それでも犯罪者なのだ。
世間では恐れられた名もあるだろう。その名は知られたくない事件の犯人かもしれない。
そこまで考えが至っていなかった秀頼は素直に謝罪した。
「わ、悪い。そうだよな……オレが軽率だったよ」
「わかったんならとっとと消えるこったな」
少年はそう言うと階段のほうへと歩を進めていった。部屋に戻るつもりだろう。
その背中を秀頼は寂しそうに見つめる。
あまりにも軽率な行動をとってしまった罪悪感がじわじわと秀頼を苦しめた。
(……オレはもっと考えて行動しないとだめだな……)
ガリガリと頭をかく、
(あれ)
途端、急なめまいに襲われる。
――秀頼。
誰かが、そう呼んだ気がした。




