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【後編】ジェームズ・ボンドは明かさない
空港の出来事から23年の月日が経ち、ヘインズ君は脚本家の仕事をしていた。
そして憧れのロジャー・ムーアと仕事をする機会を運良く得た。
相変わらずとても気さくで優しいロジャー・ムーアにふと23年前の出来事を話してみると「記憶にはないが君が“ジェームズ・ボンド”に出会えたなら僕は嬉しいよ!」と笑って言った。
当時から大スターのロジャー・ムーアにとってサインを求められることなど
日常茶飯事だったのだろう。覚えていなくて当然か……。
そう思いながら仕事をこなし、無事に全て撮影終了。
帰るためにヘインズ君が自らの車に向かっていた所、ロジャー・ムーアが
ヘインズ君の横に現れ、周りに聞こえないように気を使いながらヒソヒソ声で言った。
「空港での君との出会いはもちろん覚えていたよ。
だけど、僕がさっき忘れたふりをしたのは、あの数多くいるスタッフの中の誰かが
敵のスパイとも限らないからね!!」