リレー小説④ 成仏致しませ★美少女幽霊 風香ちゃん お次はみやこさん。……ファイトだよっ!
この小説はリレー小説です!
前作を読んでから来てください!
そのまま風香ちゃんと私はともに一時帰宅した。
「そこの病院、私の生前のかかりつけでした。さらに先程のゴージャスな花束を持った目を引く男性……今晩はまず最初に継萩総合病院に行くことにします」
あの時そう語った風香ちゃんの目には、ある種の確信に満ちた目をしていた。
それなのに今はとことん自信なさげに部屋のあっちこっちをスタスタと歩き回っている。
「.....うーん.....うーん.....」
遂には唸り声まであげ始めたね.....
仕方ない、ここはビシッと言ってあげよう。
「風香ちゃん、歩き回るのはいいけど、時々テレビに被るのはやめてもらえないかな? 風香ちゃんがテレビをすり抜ける度にチャンネルが変わるんだよ.....」
「そうれすね」
明らかにいうところは本当はそこではないのだけれども。
そして特に見たい番組があるという訳では無いのだけども、見ている番組がコロコロ変わると内容についていけなくなる状況に順応できる私ではない。
いや、そもそもテレビはひとりが寂しいから見ていたわけで、本当は風香ちゃんと話せればいいのだけど、ねぇ。
その肝心の風香ちゃんが部屋中歩き回ってさっきから何度色んな方法で話しかけてみても「.....ふぁい」とか「そうれすね」っていう何も聞いていないような返事を返すだけだから結局いつものぼっちと変わらない。
まさかなにか思い出したのだろうか? 聞くべきだろうか?
しかし、ただ手伝っているだけの完全部外者の私が何を聞いていいかと言われれば、何も聞くべきではないと引き下がるしかない。
だってそんな図太い神経持ってないし。
.....今は落ち込みかけている風香ちゃんを少しでも励ますところかな。
「風香ちゃん、今夜一緒に寝ようか」
「ふぁい」
「一緒に晩酌でもする?」
「そうれすね」
「お風呂で背中流してよ」
「いいれすよ」
うんダメだ、気の利いた言葉一つ言えない私と、言葉に一切の気が入ってない風香ちゃんでは、上辺だけの会話は成り立ってもちゃんとした会話ができない。
ん、あ、そうだ。久々に行くか。
「行くよっ、風香ちゃんっ!」
「ふぁい。.....ん? え、ちょ、どこへ行くんですかぁ!?」
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自宅から一番近い駅の周辺はちょっとした歓楽街で、その少し外れたところにあるのが私の行きつけのカラオケボックスだ。
ここなら1人で発狂していても誰も突っ込む人がいないから、自由に出来る。
自分が有意義な時間を過ごすためにお金を払うなら納得出来る私がここにいるのです(要するにぼっち)。
「お、常連さん、今日も常連客専用フリータイムかい?」
「うん。もう一人来るんだけど対応可能?」
「あぁ、常連さんの友人なら大歓迎だぜ!」
40代位の店主の個人営業のカラオケだが、こういう活きのいいサービスがあるので私はここに通い続けている。
今回は嘘ついてしまったけど、よくある幽霊と仲良くしてるような話みたいに、主人公がここに〇〇がいるんですッ! て声張り上げてる様なシーンの再現を知り合いの前でしょうとは思わない。
そんなことを思いながら手渡されたグラスとカゴを持って風香ちゃんと指定された部屋へと入る。
酒が入る前のテンションでも一度歌えば同等までのテンションに持っていける、最高だね!
部屋に入り、充電器に刺さっていたマイクを一つ取って風香ちゃんに渡す。
ここのカラオケは監視カメラが付いていないのでマイクが浮いていても誰かが驚くようなことは無い、はず。
「風香ちゃん、歌おっか!」
「え!? い、いや、でも私、幽霊ですし」
「大丈夫大丈夫! 現にマイクには声が通ってるし、機械にも触れてるでしょ?」
それでいてテレビをすり抜けたのはどういう原理なんだろう? と思ったけど、よく考えたらそういうこと何度かあった気がするしご都合主義って奴なんだろうね。
「は、はぁ?」
「うん。無自覚だったの? 朝食作ってくれた時もものに触れてたでしょ?」
「いえ、そんなことは」
「まぁ、そんな事いいからさ、ササッと歌って嫌なもの吐き出しちゃいなよ、風香ちゃんうちに帰ってからずっと怖い顔してるから。少しは息抜きしよ?」
「.....はいっ!」
目に涙を溜めたままでの笑顔。泣き笑いってやつだね。
風香ちゃんの泣き笑いはどこか儚げで今にも壊れそうだったけど、何かを得たような、取り戻したような確かな意志を持った目をしていた。
「.....よし、深夜ギリギリまで歌おうか!」
そうして私と風香ちゃんは翌日の一時近くまでカラオケで歌い明かした。
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「常連さん、もう1人来なかったねぇ、残念だ」
「まあ、彼女との思い出作りはできたからいいんだ。店長、受け取っといて。彼女の分の代金も」
「いいのかい? まあ、常連さんがそう言うなら」
そう言って店長は何も言わずに受け取ってくれた。この人は勘が鋭いから、私の態度からなにか察してくれたのかもしれない。
そのまま足早に家を出て、ひとつ気づいたことがある。
「終電すぎてる.....」
このまま風香ちゃんとあの街に行こうと思っていたのだが、やはり考え足らずが表に出てしまった。
この時間だし、タクシーに頼るか。
駅へと歩き、タクシー乗り場でタクシーを待つ。
自分の前に来たタクシーに病院の名前を伝える。
「いいんですか? タクシーはお金がかかるんじゃ.....」
私は二度も同じ失敗は繰り返さない。スマホのメモ機能で『お金ならまだ余裕あるから大丈夫』と伝えた。
「そ、そうですか。ならいいのですが、私のためにそこまでしてくださるとは思っていませんでした」
『なっ!?』
「いえ、そう意味ではなく、こんなくだらないことに付き合ってくれる優しい方が本当にいるんだなと思って」
『まぁ、金と時間は有り余ってるしね』
と、あれこれ話しているうちに継萩総合病院に着いたようだ。
料金を払って病院の前で降りる。あのタクシー、面会時間が終わってるの気づいてそうだったのによく送り届けてくれたなと思う。
「ここからは私一人で行ってきますね。向かいの公園のベンチで座って待っていてください」
そういいのこし、風香ちゃんは病院の中へと姿を消していった。
私は向かいの公園が指定されたということは方向音痴はもうバレたな.....と軽くショックを受けつつ公園まで歩く。
自販機で炭酸ドリンクを買い、喉へと流し込んでいるうちに風香ちゃんが帰ってきた。
が、しかし。
風香ちゃんは泣いていた。
「ひっく.....どうしましょう、どうしましょう」
何度もそう呟く風香ちゃんに私はどうすればいいかわからなかった。
ギャグ路線に突っ走りきれずシリアスで終わらす鬼畜系.....
本当にすみませんでした!
みやこさん、後は頼みます꜀(。௰。 ꜆)꜄
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