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私の妻は最強です  作者: NOMAR
第1章 迫る、結婚の足音
2/5

1ー2


 勇者イクサ様と結婚式を上げる前に、挨拶して距離を縮めようと城の中を探してみましたが、イクサ様はどこにもいません。

 どうやら魔物狩りに出掛けたようです。


 イクサ様が魔王を倒したことで魔族の進行は止まり、魔族はその領土へと帰って行きました。

 それで平和になったのですが。

 魔族は纏める王がいなくなったことで跡目争いの群雄割拠のようになっているそうです。

 はぐれた魔族に魔物がたまに人間の領土にやってくるので、その被害を止める為に国境の守りをかためないといけません。

 

 かつては我が国と魔族の領土までは三つの国があったのですが、滅ぼされて無くなりました。

 今は我が国と隣国ふたつが魔族の領土に接しています。

 滅ぼされた国の人、魔族に奴隷とされていた人が難民として集まって来ているので、これも悩みの種です。

 イクサ様が町を歩くだけで治安の維持になるので、イクサ様が城を出て魔物狩りをしてくれるのはありがたいことなのですが。

 ……ちゃんと結婚式までに戻ってきてくれるのでしょうか?


 イクサ様は宴などが嫌いなようで、祝勝会などでもよく逃げます。何度も逃げられ主役不在のパーティという、なんとも微妙な居心地の悪い気分を何度味わったことか。

 結婚式もあまり大げさにすれば、また逃げられるかもしれません。

 そのあたりも話をしておきたいところですが。

 いないのならば仕方有りません。


「クロリア姉上、少々よろしいですか?」

「ゼイル、そろそろ来ると思っていました」

「お見通しですか」

「私がイクサ様を召喚したのですからね」

 妻になる人のことを少しでも知ろうとイクサ様のことを知ってる人に聞いてみることにしました。

 聖神殿より秘術の勇者召喚を託された3人の聖女のひとりがクロリア姉上です。

 こちらの世界に召喚したイクサ様の面倒を最初に見ていたのがクロリア姉上なのです。


「姉上、イクサ様のことを教えて下さい。私は妻になるイクサ様のことを知らないといけませんので」

「ゼイルが私より先に結婚、それも相手が勇者イクサ様とは」

「クロリア姉上は聖女という立場もありますし」

「ゼイル、私にはもっと楽に話してくれていいのですよ? そういうのに煩いのもいますけど、私は気にしませんから」

「いやぁ、どうもこの口調に慣れてしまっているものでして」

「しっかりしてるのはいいですけど、ゼイルはそれが逆に心配になるときがあるわ。まだ13歳でしょう?」

「もう13歳ですよ。王族の義務も心得ているつもりです」

「そう、じゃ、そこに座って。お茶でも飲みながらお話しましょう」


 庭園のひとつ、紫と赤の花が咲く花壇を眺めてクロリア姉上とお茶を飲みます。

「私もイクサ様のことを詳しく知っている訳では無いわ。あの方は自分の事を話そうとはしないの」

「クロリア姉上がこの城でイクサ様と1番多く話をされたのでは?」

「そうだけど、ゼイルはこれから夫婦になるイクサ様のことを知りたいのよね?」

「はい、そうです」

「まず、イクサ様の名前、これは偽名です」

「え?」

「どうも自分の名前、自分の家族が嫌いなようで聞いても教えてくれません。それを聞くと不機嫌になります。名前をつけた親も、親のつけたその名前も気に入らないみたい」

「はぁ、ではイクサ様、というのは?」

「イクサ様のいた世界。チキュウ界のニッポン国の言葉で、『イクサ』とは戦争の意味だそうです。魔族と戦うなら私の名前はイクサでいい、ということで」

 ……あの人は自分の事を戦争と人に呼ばせているのですか? 不穏すぎやしませんか? 私は戦争を妻にするのですか?


「会話もできますし、こちらの言葉もわかります。文字も読めます。知識については私達よりいろんな事を知っているようですが、イクサ様は自分から誰かに話しかけることはまずありません。会話そのものが嫌いなようです」

「会話が嫌い、ですか? それはどうして?」

「私も聞いてみたことがあります。『時間の無駄』だと答えられました」

「えー?」

「魔族と戦う為に強くなる。会話する時間があれば剣の素振りでもしてた方がマシ、ということなんでしょうか」

「はあ、それはチキュウ界のニッポン国の住人には普通の考え方なのでしょうか?」

「わかりません。教えてくれないのですもの」

「うーん、違う世界の住人でも話し合えればなんとかなるのでは、と考えてましたが、会話が嫌いというのは」

「イクサ様が住んでいた世界のことを聞いたことがあります。それに1度だけ答えてくれました。イクサ様の住んでいた世界はどんなところですか? 我が国とはどう違うのですか? いったいどんな国なのですか? と」

「イクサ様はなんと答えられました?」

「ただ、一言、『滅びてしまえ』と、」

「……よっぽどかつての世界が嫌いなのですね。それで、もとの世界への送還を拒んだ、ということですか」

「こちらの都合で勝手に呼びつけて戦わせて、イクサ様には本当に申し訳無いことをしたものです。魔王を倒したことで私達も助かりました。ですが元の世界へ送り返されることは、絶対嫌だと」

「こちらの世界が、私達の国が気に入られたのであれば、それはそれで良いことでは。私達も勇者の力を未だに必要としてますし」

「それは私達の都合であってイクサ様の都合ではありません。私はイクサ様に幸せになって欲しいのです」


「イクサ様の幸せ、ですか。ではイクサ様は何が好きで何を幸せと感じるのでしょうか?」

「それが解れば私達もイクサ様に恩返しができるのですが。私が思うにイクサ様はチキュウ界のニッポン国でとても酷い目にあっていたのではないでしょうか。親に売られ奴隷として扱われていたのでは無いか、と」

「それで過去を話したく無い、家族が嫌いで住んでいた国も『滅びてしまえ』ですか。確かにそれでは帰りたく無いでしょうね」

「あれほど力を求める生き方も、これまでの人生への復讐心では無いか、と。イクサ様を見ていると胸が痛くなります」

 クロリア姉上は胸を押さえハンカチを目に当てます。このあたりさすが聖神殿に認められた聖女です。クロリア姉上は優しく慈悲深い聖女と国民に慕われています。

「イクサ様が王族との結婚を褒美とは考えてはいないと思います。こちらの政治の都合に付き合ってくれているだけでしょう」

「クロリア姉上は、私がイクサ様と結婚するにあたり、どうなればいいと考えますか? どうすればイクサ様の幸せになるか。私もこの国を救っていただいた恩をイクサ様に感じています。私に何ができますか?」


「ゼイル、難しいかも知れないけれどあなたはそれを自力で探して欲しいの。イクサ様を怒らせないように、しつこくならないように何度も語りかけて、少しでも話を聞き出して欲しいの。イクサ様にとって信頼できる、胸の内を打ち明けられるような夫として」

「怒らせないように話をする、ですか」

「それでイクサ様の好きな食べ物とか、好きなお菓子が解れば、私が何としても取り寄せるから」

「解りました。そのときはクロリア姉上、ご助力、お願いいたします」


 まず、イクサ様は会話が嫌いらしい。

 過去のことを聞くと不機嫌になる。

 クロリア姉上でもイクサ様の好物が解らない、ということが解りました。

 ……私はちゃんと夫婦になれるのでしょうか? 良き夫になれるでしょうか?

 不安しか出てきません。


 怒らせないように語りかけて、なんとか話ができるような関係をつくる。

 クロリア姉上がそう言ったということは、それが難しくて、まだ誰もできた人がいないということではないですか?

 これまでの人生への復讐のように力を求める生き方とも言ってました。

 会話が嫌いで? 力こそ全て?

 どうしましょう。

 好物も不明で何が好きかもわかりません。

 どうすればいいんでしょう。

 好物や趣味が解れば、それが会話の糸口になるかもしれません。

 城内にいるイクサ様のことを知ってる人に聞いてみますか。



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