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私の妻は最強です  作者: NOMAR
第1章 迫る、結婚の足音
1/5

1ー1


「ということでゼイル、お前が勇者様と結婚することになった」

「私が、ですか?」


 随分と急に決まったものですね。国王である父上の決定となれば私には拒否などできませんが。

 円卓を囲み父上の話を聞いていた四人の兄上と四人の姉上が、可哀想な子を見るような同情の眼差しで私を見つめます。

 いえ、メストリア姉上だけはなにやら不満そうですね。

 メストリア姉上は勇者様を尊敬しているというか崇拝しているというか。

 その勇者様が私の妻になる、というのが気にくわないのかもしれません。


 王族の九人目の子供となる私の意思で結婚など自由にはならないと知ってはいますが、あの女勇者様がお相手ですか。

「勇者イクサ様は納得しておられるのですか?」

 相手の意思を確認しておかないと、と思い父上に質問してみます。

「ゼイル王子を夫に迎え、我がシュタルディムル王国の一員となって欲しいと言ったところ、首を縦に振ってくれた」


 勇者イクサ様は自分からはほとんど喋りません。言葉を話せない訳では無さそうですが、めったに話をしません。

 私が勇者イクサ様の口から聞いたことがあるのは、「オオオオオ!」とか「ラアアアア!」とか「シイイイイ!」という雄叫びだけです。

 勇者イクサ様はこちらの言うことには理解して首を縦に振ったり横に振ったりします。

 イクサ様の言葉を聞いたことがある者もいるのですが、聞いてみるとその単語は『断る』か『要らない』のどちらかです。


 イクサ様を異界より召喚したクロリア姉上だけは、昔はいくつか会話したこともあるみたいなんですが。

 あの勇者様と私が、結婚ですか。

 ひとりで魔族の一軍を壊滅させる勇者様と。

 脳裏に浮かぶのはかつて遠くから見た姿。 

 怯むことなく敵に立ち向かい剣を振る女戦士。

 雄叫びを上げながら多頭竜の首を次々に切り落とす勇者様。

 王国としてはあの勇者様を戦力として国に抱え込んでおきたいという思惑も理解できますが。

 末席の王族と結婚させて王族の一員にしてしまいたいのでしょうが。

 ちょっと、露骨にすぎるのではないでしょうか?

 取り合えず王族と結婚させちゃえってのは。

 まぁ、この場で私に拒否する権限などありませんので。

 声が震えないように気をつけて、微笑みを浮かべるように顔を動かして。

「わかりました。我が国を救って頂いた、偉大なる勇者イクサ様を、我が妻に迎える栄誉。喜んで受けさせていただきます」


 やや、つっかえながらもなんとか言葉を口にできました。横目でチラリと見ると私を可愛がってくれているミドルアーレ兄上と、ウィストリア姉上が泣いています。

 ……泣かれるようなことですか? これは。

 そんなに私が不幸なように見えますか?

 記憶に残る女勇者、イクサ様の姿を思いだしてみます。


 ……えーと、

 あれ? なんだかちょっと、泣きたくなってきましたよ?

 胸がドキドキと高鳴ります。

 膝がカタカタと震えてきます。

 もしや、これが恋ですか? 

 胸が高鳴り、呼吸が少し苦しいような。

 ……自分を誤魔化すのはやめましょう。現実を見ましょうか。

 これが恋だというなら餓えた黒巨狼の檻に閉じ込められて、恐怖に怯えることも恋になってしまいます。


 いえ、勇者イクサ様を黒巨狼と比べるのは流石に失礼です。彼女はなんの理由も無く人を殺したりはしません。

 あ……、理由があったときは欠片も容赦が無かったですね。

 国内の悪徳商会と盗賊ギルドの主要メンバーを斬殺して壊滅させたことがありましたっけ。

 そのおかげで我が国は助かっているのですが。


 私は少しばかり結婚に憧れていました。王族と産まれてその相手を選ぶことはできなくとも。

 父上や母上達のような賑やかなのも良いですが。

 妻と二人で暖かく穏やかな日々。

 愛し、愛され、たまにイチャイチャするやうな。やがて子供に囲まれて笑顔で暮らせるやうな。

 相手を選べる立場ではありませんし、やがては国内の貴族か隣国の何処かに婿に行くことになるのでしょうが。

 政略結婚であっても結婚の後に愛を育むこともできるだろう、と。


 相手の方とて家の都合であり私と結婚というのも望んだ結果では無いことでしょう。

 それでも、お互いの幸福のために、父母の為に、それぞれの国の為に。

 言葉を交わし理解を深め真心で向き合えば、通じ会うこともできるのだろうと。

 レアドル兄上とフスタワーム義姉上のように。初めはたどたどしくとも今では熱愛の恋人達のような……、

 ……思い出しイラッ

 レアドル兄上は幸せなんでしょうが、もう少し回りの目を気にして欲しいものです。

 濃厚な口づけ、夢中にムッチューとかは誰かに見られないところでしていただきたい。


「式の日取りは来月、年明けの祭りで行うことにする」

 父上が説明します。早いですね、年明け祭りまではあと20日。

 隣国の使者が勇者様を自国に取り込もうとあの手この手で勧誘している現在、勇者様を我が国に残しておきたいので急ぎたいのでしょう。


 こうして私は結婚することになりました。

 妻となるのは女勇者イクサ様。

 異界より召喚された勇者様。

 たった一人で魔族の領土に進撃し、魔族の軍を相手に戦い、魔王を倒したお方です。


 人類最強、百魔斬り、無人の斬血荒野、鬼首引き千切り、ドラゴンホーンコレクター、死ぬより外に逃げ場無し、生者必死、鬼想転骸、斬人無踏、剣が無ければ手刀で切ればいいじゃない、あ、返り血とシャワーを間違えた、テヘ、などなど様々な異名をお持ちの方です。

 そんな勇者様と、私、

 現国王ジストルートの九人目の子にして第5王子、ゼイル=クランナッハ=シュタルディムルは、

 来月の年明け祭りで結婚します。


 我が国では年明けで皆、歳をひとつ重ねますので、私は14歳になると共に妻を迎えることになりますね。


 私の心の中で『理想の夫婦生活』のタイトルを掲げる絵が、パリンガシャンパラパラーと割れていきます。

 修復不可能にバラバラです。粉々です。

 いえ……、いえ、まだです。諦めるのはまだ早いのです。

 勇者イクサ様も真心をもって話あえば、いつかきっとわかり会えるのでは無いでしょうか。

 言葉は通じるはずです。ちょっとばかり強過ぎて、ドラゴンの頭とか魔族の身体とか悪徳商人の胴体とか真っ二つにしても、眉ひとつ動かさないだけです。

 斬った敵の血しぶきとか被っても、内臓の切れ端を肩からぶら下げても平然としてるだけです。

 魔族の首を水筒かお弁当のように片手に持って歩いてたりするだけです。


 これから夫婦になり一緒に暮らすのですから、このままではいけません。

 勇者イクサ様の姿を思い出して、膝がカタカタ震えたり歯がカチカチ鳴るのを止めないといけません。

 結婚式の前から妻が怖いなんて、そんなことを認めるわけにはいきません。


 我が国の未来の為にも、私の理想の夫婦生活の為にも。

 勇者イクサ様と私は、誰もが認める幸せ夫婦にならなければならないのです。

 他国には勇者様と我が国が上手くいってるように見せることも必要ですし。

 これも国のため、王族に生まれた責務のひとつ。

 ならば未来が良くなるように考えましょう。イクサ様との結婚生活が悲惨なものと、まだ決まったわけではありません。

 幸せな結婚生活を。

 甘い新婚生活を。

 よし、がんばろう。

 私だってこれでも王子なんだから。





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