02
次の日の朝、私の寝室の部屋の扉が開いたのは、ちょうど朝食の準備をし終わったころだった。
間抜けな顔で私の寝室から出てきた男は私を見て動きを止めた。片手で頭を押さえながら、まるで化け物でも見たような顔をしている。失礼な奴だな。
「お前は……、なんでここに……。……俺はお前に持ちかえられたか……?」
呆然と呟く声は少し枯れていた。
二日酔いと寝起きでかなり気だるげに見える。見ようによっては色気を感じるというのかもしれないな。普通の女性の観点はよくわからないが。
それとなく自分の体を見下ろして服を着ていることに安堵しているようだが、別に私は何もしていないぞ。興味もない。
「生憎と相手には困っていないし、君にも興味はない。朝食は食わせてやるからさっさと出て行ってくれ」
思わず呆れたような声が出る。
まあ、この男がこんな態度なのも理由は少しだけ心当たりがあるが。
いつまでも居座られても迷惑だ。
それに今日は出勤日だ。特別に休みを取っていない限りだが。
ちなみに私は休みだ。
やれやれと息をつきながら私は朝食を用意したテーブルの前に座った。ついでに向かい側の席を指示してやる。
しかし座る気配はない。
「お前、あのエセル・グランティエだよな……? 魔性の女王で有名な」
そういうものは普通本人の前では言わないと思うんだが。
まあ、私は気にしないがな。
「確かに私はエセル・グランティエだが」
私が誰かはどうでもいいから早く席についてくれないか。
せっかくちょうどいいタイミングだったというのに食事が冷めてしまうだろう。
美味しい食事は冷めても美味しいが、やはり暖かいほうが美味しい。
しかし大して関わったことのない人間にまでこうして浸透してしまっているというのだから困ったものだ。
まあ、原因は確実に頭のおかしな上司のせいだろうが。
無言の圧力をかけてようやく席に座った男。騎士アストロ・オービット。騎士団の中でそれなりに実力者の彼は、真っ当な、正当な普通の騎士だ。
対する私は騎士ではあるものの、普通の真っ当な騎士とは言い難い。この男、アストロは知らないことだろうが。
私の仕事内容は少しだけ特殊だ。それも理由でこんな反応をされるようになってしまっている。
アストロが席に座ったのを確認して、私は朝食に手をつける。
今日は生地から作ったもちっとした弾力のあるパンと、野菜のポタージュ、それから二日酔いによく効くウコの実を砕いて混ぜたポテトサラダ。デザートには柑橘のゼリーを用意した。