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97、魔法失敗の反省

「生きてる……」


 ミラ先生は体を震わせていた。

 爆心地に近く、火属性のミラ先生にすれば防ぐ手段がなかったのではないか。

 そう考えれば自分が生きている事が驚きになるだろう。


 ミラ先生のニーナを見る目が神を見るかのような色合いを帯びていた。

 死の危機を逃れたのだ。それも当然だろうか。

 そうだろうな。それだけの事をしたのだ。


 もしニーナが俺とゴーレムの間にいなかったら、俺は死んでいた。

 何かを成し遂げられたわけでもなく、何かを楽しめたわけでもない。ただの無駄死にだ。

 それも近くの人の命を巻き込んだ、大事故を引き起こして。


 魔法は、いや、大量の魔力が、どれほど危険なのか。

 大魔法の失敗はどれほど大きな事故を引き起こすのか。

 俺の魔力の8分の1程度でこの地獄だ。


 地面は30メートル近く赤くぬめぬめしていた。

 ニーナの足の側から下を覗き込むと、ゴーレムのいた場所を中心にすり鉢状になっていた。

 穴の中は熱く、むわっとした湿気と輻射熱? のせいだろうか、見ているだけで汗がこぼれ落ちた。


 1等級の差。魔力の量は10倍差。

 では0等級と言われた俺の8分の1の魔力の量は?

 並みの1等級の魔力の全量を使うのと同意義だろう。


 この状況は1等級の人が魔法を失敗した時よりも酷い事態を引き起こしていたのだ。

 もし俺が魔力を振り絞って使ったらどうなったのだろうか?

 街が吹き飛ぶとあの巫女さんは言っていた。単純に8倍ではないかもしれない。


 魔法の失敗は大惨事を引き起こす。

 だから街の中では、2等級以上の魔力を持っている人は使ってはいけない。

 魔法を使って建物は簡単に建てられるかもしれないが、人命の失われる可能性が高いから。


 何故こんなにも子供に対して見張りをつけてまで、魔法を使わせるか。

 大人になって魔力がさらに多くなった時、対応する事がなおさら難しいからだろう。

 危険かもしれないが、多量の魔力を持っている貴重な人材を損なわないように管理するという意味合いがあるのだろう。


 魔力の使い方を知らない、高魔力保持者なんて悪夢の代物なのだから。

 まだ管理できるうちに、魔法の使い方や魔法を使っていい場所などを刷り込まないといけない。

 そうしないと街が壊れてしまうから。


「リク殿。何か新しい魔法を使う時は我にも教えて欲しい。

 我に聞けば放出しなければいけない魔力の量の見積もりくらい出してみせるぞ」


 ニーナ。俺の魔力を半分近く使って作ったその体。

 最低でも1等級の魔力の量の5倍を必要としたという事だ。

 あの爆発を受けても、砂埃で汚れた以上の損害がない。


 魔力の爆発。魔法の吸収という分野において。

 ニーナの体毛は完璧な性能を示した。

 その身の内にはどれほどの魔力を蓄える事が出来るのだろうか?


 わからない。

 だが少なくとも作る時に必要とした魔力量よりも、蓄える事が出来る魔力の量は多いだろう。

 タマゴで実験した通りなら、体積を作る時に必要とした魔力の量の10倍は蓄える事が出来るはずだ。

 俺の魔力の半分の10倍だから、俺の魔力の量の5倍くらいの容量があるのかもしれない。


「リク殿?」


 ニーナは俺の顔を真剣な顔で見つめていた。

 責任のとれない子供を叱る、子供の将来を憂う大人の顔だ。

 俺はこの世界でまだ何もできない。いや、前世でもそうだな。

 出来る可能性は持っていたが、それを発揮することなく終えた。


 行動には責任が伴う。関わる人を巻き込む。

 何が起こるかわからない現場で、何もわからない人が勝手な行動をする。

 それがどれほど危険な事だろうか。

 吊り物の下を、その危険性を理解していない人が通り過ぎていくようなものだ。


 1回や2回大丈夫だったからといって、今後も事故が起きないという確証なんてどこにもない。

 だがそれを認知するのは、それを調べたり、実際に目の当たりにした人だ。

 知識のない事をする場合、どれだけ安全マージンをとっても取り過ぎという事はない。


 自分よりも知っている人に聞いて、そこからどれだけ踏み込んでいいか、手探りで探すべきだ。

 それを怠ればこういう大惨事を引き起こす。

 俺は何でもできるわけではない。俺は全てを知っているわけではない。

 むしろ知らないから知るために、何が出来るのかを知るために、動いているのだ。


「黙っていては何もわからないのだ。リク殿は何を考えている?」


 ニーナは俺を崖の縁から持ち上げるとミラ先生の腕の中に入れた。

 ミラ先生は俺を受け取った後「へ?」と間の抜けた声を出した。

 流れで受け取ってしまったようだ。


 ミラ先生の腕の中から俺はニーナを見上げた。

 ニーナを見上げると逆光になってしまい、顔はよく見えなかった。

 だがどこか悲しそうな顔で俺を覗き込んでいるのが分かった。


「リク殿。リク殿の力はとても大きい。それは理解しておられますな。

 その力を曖昧に振るうだけでもこれだけの規模の破壊が起きてしまう。

 我を作る時は上手くいきましたが、普通はそう上手くいかぬ。

 ゴーレムという形式の魔法であれば、確かに、余剰魔力を充填に回す事で対応できる場合もある。

 だがそれでも限度がある。必要以上の魔力を出せば暴発もする」


 ニーナはゆっくりと俺に言い聞かせていた。

 全くもってその通りなのだ。今、失敗し、大惨事を引き起こしたのだ。

 反省しなくてはいけない。


「ここまでいけたからこれも大丈夫だろう。

 ではなくここまでいけたがこれはダメかもしれない。

 リク殿には我がいるのだ。使おうとしている魔法に適正な魔力の量を教えられる我がいるのだ。

 忘れないでくれ。リク殿はまだ信用してくれないようだが、お願いだ。我を頼ってくれ」


 信用か。


 信じて用いると書いて信用。

 その能力や人柄から人を信じて、この仕事を達成できるだろうと考えて用いる。

 原義で考えればそうだが、普通考える意味で心を許すといった意味の信用だろうか?


 そういう意味では俺は誰も信用出来ていないだろう。

 仕事だけの関係なら原義の信用で十分事足りる。むしろ原義の信用以外はしてはいけない。

 だが交友関係などの話であれば、心を許すといった意味の信用が必要だ。


 今回、俺がしなければいけない信用とは心を許すといった方だろうか?

 いや、原義の信用でも問題ないな。こちらの信用であれば普段から考えている。

 すごく俺が腹黒い人に感じるな。こう言うと。


 悪い事、他人に迷惑をかけてまでして自分の利益を追求するような事を俺は考える事はない。

 そういう事をすれば相手に迷惑をかけてでも自分の利益を追求するような人しか周りに集まらなくなり、結局のところ、利率が悪く、最終的に儲けられる金額や利権が減るのだ。

 だから俺は悪い事は考えない。つまり俺は腹黒い存在ではない。QED、証明終了。


 ニーナの顔が悲しそうに項垂れ始めていた。

 なにか言わないといけない。だが何を言おうか。

 素のままに言えば余計に悲しませるだろう。


「ニーナさん。……頼ってもいいの?」


 あざといな。だがこれしか思いつかない。

 前世の素を出したらミラ先生に転生者バレしてしまう。

 転生者バレしたら俺はどのような末路を辿るのかわからない。


 他国の文化に染まっている転生者が過剰な力を保持している。

 それも旅行慣れしているかどうかも怪しい存在が。

 自国の文化を否定し、他国の文化を広め、文化汚染を行いかねない危険な存在がだ。

 そんな存在が力を保持しているとバレたら現状、殺されてもおかしくない。

 

 文化汚染の危険性は江戸時代から明治時代の変動でわかる。

 デメリットを見ることなく、ひたすらに他所から来た文化を礼賛し、元々の文化を壊す。

 気づいたときには安寧はなくなる。


 もちろん他所の文化に触れたことで文明が進歩するかもしれない。

 文明開化の時は大砲や船などが大きく進歩したと思う。

 政治的な面で言えば民主化が進んだともいえる。


 だがそれはそれだ。

 江戸時代の時はゴミなどの循環サイクルが今よりも優れていたと言われる。

 江戸時代が400年という長きに渡り続き、黒船が来航するまで安寧を貪れたのも、政治の統制がとれていたからだろう。

 過去は農業がそこまで発達していなかったので飢饉などが起きたりしたが、それにしても何らかの政策を出して対応したりしていた。

 歌舞伎や落語といった文化も栄える事が出来た程、この時代の庶民には生活の余力があった。


 文明開化という文化汚染で消えたモノはたくさんあるだろう。

 その危険をこの国の人が理解していないとは思えない。

 この世界には転生者という存在が集められる程に来るのだから。


「いいのだ。リク殿」


 ニーナの表情は「父さんを頼りなさい」といいそうな程に父性が溢れていた。

 頭をこくんこくんさせて頷き、空に向かって大きく口を開いた。


「……ねぇねぇ、もう終わった? 出てきても大丈夫?」


 声の出どころはニーナの口ではなかった。ニーナの前足の毛の中だ。

 金茶色の毛を掻き分けると1羽の小鳥が顔を出した。


「あ、こんにちわ」


 ニーナの前足のところから這い出てきた鳥はハチドリのようだった。

 どうみても爆発の直前に見えたハチドリのゴーレムと同じ姿だ。

 ハチドリのゴーレムは子供のような声でさえずっていた。



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