96、魔法の失敗
「鳥の小さいゴーレム?」
「はい、小さいゴーレムです」
四足獣に比べて姿勢制御は難しくなるだろう。
神経系は多めに、特に小脳は大きくしないと翼をばたつかせるだけで飛ぶ事すらできなくなりかねない。
バランス制御が中心。会話能力は……決まったワードで決まった行動をするくらいで十分だろう。
指をさしたモノを持ってきたり、俺を持ち上げて指さした方向に進む程度で十分事足りる。
高速で稼働させなければいけない以上、燃費は悪いだろうし、俺の側に置いておかないと動かなくなるだろう。
燃料の補給は……ニーナの毛皮と同じでいいだろう。
痛覚などの感覚系はいらない。感圧の知覚系を充実させた方がいい。側に置いているのだ。メンテは随時行えばいい。
内部の見えにくい負担に関しては……魔力供給時に自動再生するようにシステム化しよう。
補修じゃなくて再作成だ。補修は徐々に情報量が増えてしまう印象がある。
魔力は常に大量に使用しているわけじゃない。大量に使うのは飛ぶ時くらいだ。
魔力は他の人よりもたくさん持っている事が悪くみられているのだろう。
体外に放出する魔力は0に近づけているのだ。
俺の魔力量の増減を正確に測れる人はいないはずだ。
使っているように見せれば実際は使っていなくても減っていると誤認させられるはずだ。
手のひらから漏れ出る魔力はニーナに融通すればいい。
家でジッとさせられているニーナに魔力を使う機会がないが、魔力のタンクとして役に立つ。
今は無駄にしてしまいかねない魔力も貯蔵すれば問題ない。
ハチドリのゴーレムは大きさをどのくらいにするか?
高い場所へと移動するために使うなら俺を持ち上げられるようなサイズじゃないと……。
いや、必要ない。テグスでもなんでも持ち運んでもらえば、ロープを崖の上に括り付ける事もできるだろう。だとしたらそんなに積載荷重は大きくなくても行ける。
テグスを括り付ける場所がなければ移動できない?
土塊を行きたい場所にぶつけてやればいい。
なければ作れ。それで十分出来るはずだ。
ワイヤーガンみたい? あれよりも自由度の高い移動補助を目指そう。
ワイヤーガンだったら直線での動きしかできない。
そうだな。視界を共有する事は出来ないだろうか? 自由に空を飛ぶ俺の目が欲しい。
偵察機としてみても小さい方が便利だろう。
知る事が最大の防御になりうる。
情報があれば、その情報が早く入手できる程、対処の手段は増やせるのだ。
「……極大魔力反応……総員、準備せよ」
鳥の翼長分を半径にした球を移動時に必要なスペースと考えると、あまり大きな鳥を作ると移動できない空間が多くなってしまう。
本当にハチドリサイズのゴーレムを作らないといけない。
体の大きさはスズメよりも小さいくらいだ。
筋肉、骨格の比率、OK。
神経系は前回と同じ。入力、出力をしっかり分ける。神経系は一方通行。
体のバランスを重点的に考えるので、小脳の比率を高く。感圧精度は高く。視覚一時共有を組み込もう。
通常通り、2眼でOK。できるだけ普通の鳥のようなゴーレムの方がいい。
少し多めに魔力を放出しても、ゴーレムが多めに出した魔力を燃料タンクに詰めるだけで終わるだろう。
体積として考えてみればニーナよりも大分少なくしていい。
体積が何万分の1くらいになるのだ。1番魔力を食う物質生成部分が少なく出来る。
ニーナの時は魔力を4分の3くらい使った。1度に放出出来たのがそれくらいだった。
今回はもっと少なくて構わない。魔力の消費量は体積に比例している。
……ニーナの時に使った魔力の量を考えるとタマゴ換算ではビルが1棟建てられる体積出来なければおかしくないか?
ニーナというOSを入れたから魔力の消費量が上がったのか?
今回の鳥さんはOS無しで動かせる? ムリだろうな。空を飛ぶんだぞ?
地を這う蛇や地中を行くミミズであれば原始的な思考回路でも動かせるかもしれない。
四足獣であれば立つだけなら安定させやすいだろう。歩くのは難しいが。
とりあえず飛べるだけのスペックを用意しておけばいいか。ゴーレムだから筋肉が衰える心配はしなくてもいいだろう。
飛ぶ技術に関しては……生きている鳥とか見せて覚えていってもらうしかない。
となると学習能力が欲しいな……。筋肉のバランスも飛ぶための適正な比率に変えていくように弄れるくらいの能力が欲しい。
ハチドリサイズで学習能力を付けられるだけの余地は残るだろうか?
記憶メモリが足りなくて、飛び方を覚える事すら出来なくなりそうだ。
ハヤブサくらいの大きさにすればいいだろうか? 60cmくらいの。
OSが魔力の消費量が1番大きいとして、どの程度の魔力が必要だろうか?
ニーナの体を作るだけなら、体積で魔力は10分の1くらい使えば出来るのだろうか?
細工に掛かる魔力が大分大きくなるんじゃないか?
魔力は8分の1程度使ってみるか。
今回の細工の手間賃は大分弾む必要があるだろう。
作成開始だ。
「……小さいって言ったのに……」
手のひらから魔力を放出し俺は唱えた。
「クリエイトファミリア」
放出された魔力は土の上で光になり、骨、神経、筋肉、皮、羽毛と瞬時に作られていった。
小さい鳥がころりと足を上にした状態で俺を見上げていた。
羽の色は緑。つぶらな瞳は黒く、頭の中にハチドリの視界がネットのタブの様に浮かんでいた。
「リク殿っ!」
声がした方に目を向けると、ニーナが焦った様子で駆け込んでいるところだった。
俺とハチドリの合間に腕を突っ込んだ瞬間、ニーナの腕の向こうで雷が落ちた。
いや、違う。雷じゃない。爆発だ。
「リク殿……魔力の過剰である……。あの小鳥程度であればもっと……、その更に数十分の1でも十分であるよ……」
ニーナの声は複雑だった。
やっちゃったという傍観者の色、もっとなにかできただろうか? という先導者の色、無事である事を喜んでいるような保護者の色……。
ニーナはもう片方の腕で俺を傍に引き寄せると俺の顔を舐めた。
ニーナが腕を動かすと先程、小鳥がいた場所は大きくえぐれていた。
ニーナの体の向こう側は30m近く抉れていた。
白衣の人達は大きな竜巻を作り、その中央に避難していた。
ハチドリのゴーレムの姿はどこにも見えなかった。






