95、ミラ先生再び
「リク君。今日は魔法を外で使いましょうか! 今日はミラ先生と一緒ですよ?」
誘拐されてから数日経った日の朝食の後、カナさんは微笑みながら言った。
魔力は大分回復し、以前の9割くらいにはなっただろう。
渦を別の場所に作る事はまだ出来ていない。
「楽しみです」
俺は子供らしく笑った。
あれ? 子供ってこういう風に笑うんだよな?
……。わからない。
とりあえず裏表なく晴れやかな顔つきになるようにイメージした。
大人しい男の子が控えめに笑うような感じだ。
……わーい。やったー。っていう風に笑うのはかなり棒読みになるだろうから辞めたのだが。
これも演技っぽいかもしれない。
子供は難しい。同世代を見ないと参考にする相手がいないからなぁ。
……同世代。ミラ先生のところの子供くらいしかまだ見てない気がする。
……2語文か。今更そのレベルに落とすのはちょっと。
カナさんも(仕方ない子だなー)と裏で考えていそうな表情になっている。
ちょっと足りない子を見ているような、どうしようかな? この子? みたいな表情だ。
とりあえず微笑んどいて、後で何か対策とらないとダメかな? みたいな。
表情は口よりもモノを言う。
いや。これは俺の疑心暗鬼のせいか。疑り深いのは難点だろう。
実際は何も考えていない、いやそもそも後の予定を考えていて俺の事を考えているわけではない、そういう可能性だってあるだろう。むしろその可能性の方が大きい。
なんか悲しくなってきた。
カナさんの運転する車に乗り、いつもの練習場所へと出た。
そこでは既にミラ先生がいつものミリタリーファッションで白衣の人に指示を出していた。
荒地用の朱色に近いミリタリージャケットやコート、ズボンがSっ気を感じる。
Sっ気が強そうな人って、自分を強く見せて自分を守りたいだけの人と人にちょっかいをかけたいだけの人に分けられる気がする。
ミラ先生の場合は前者だと思う。雰囲気の鎧を纏っているようなタイプだ。鎧を纏わなければやっていけなかったのかもしれない。
1等級となれば10年に1度3人ずつしか生まれない。その関係上、周囲の利権関係などでややこしくなりそうだ。
ある程度決まったスパンで生まれてくるとなると(この属性の子なら私が)などといつの間にか本人の意思など関係ないところで運命を決められている気がする。
利益だけを見て、本人の事を見ていない人が周囲を固めていったら、誰を信頼する事が出来るだろうか?
俺は……どうなるんだろうか? イレギュラーで出来た魔力量だ。
今は遠巻きにされているだろうが、ユエさんみたいな宗教の特攻隊もいる。研究者や商人といった人も今後現れていくだろうな。
普通の友人関係を築く事は難しいかもしれない。
「リク君。来たようだね。今日も魔力を発散してこうか!」
「発散ですか?」
ストレスを発散するみたいな言い方だ。
溜めちゃいけないモノみたいな言い方される魔力。
魔力量の上限を上げるために溜めさせて欲しいんだが。
行政側からしてみればこれ以上魔力量を増やされても困るのかもしれない。
暴発されたら街が吹っ飛ぶ爆弾なのだから。
一定以上の定期的な魔力の放出を義務付けられたりしているのだろうか?
「そうだな。魔法であれば何でもいいぞ!」
さすがにユエさんには劣るものの、その大きな胸の下で腕を組んでミラ先生はドヤッていた。
悪の女幹部を頭の中でイメージしたのは何故だろうか?
ミリタリーファッションのせいかな? 眼帯が着けられていたら完璧だった。
ミラ先生にも魔力が魅了されているのだろうか。
こんなにSっ気があって弱い部分が垣間見えている個性のある人だ。
Sっ気でMっ気を刺激し、弱い部分で支えたいと思わせていく。
Sっ気が強がりだと気づくと猫の威嚇並みに感じる。
見守りたいこの子みたいに感じる人は多そうだ。
そう考えたらニーナに聞いた魔力の特徴だと集まってきそうな気がする。
「いっそニーナ君のようなのをまた作ってみるか?」
視線を向ける先が他にあるわけでもなく、ミラ先生を見ていたら、楽しそうな口調で笑いながら言っていた。
ミラ先生は冗談のつもりで言ったのかもしれない。だがその案はいい。
ニーナだと大き過ぎて行けない空間があったり、不便なところがあったから。
大きければ質量による暴力が使えるが、小さいなら何が出来るだろうか?
側に控えさせて、色々なお使いを頼む? また魔力が宿るようならそういった事はさせられない。
そういうのは意思のないロボットにさせるのがいい。
自分の手足のような、いくら使っても文句を言わない存在。
そういった手足の延長上にある存在。
自由意志のあるモノはそれは生物であり、俺が自由にしてはいけない。
自由に操ろうと考えればその機能を阻害してしまう。非効率だ。
何も考えないロボットのような存在。
命令を与えればその通りに行動するだけの存在。
そんなゴーレムを考えてみるか。
だとしたらどうする?
どの程度補助してもらいたい?
何を補助してもらいたい?
移動だろうか? 今、移動を補助されたら無くなった時にまともに動けなくなるかもしれない。
自分の足で行けない場所への移動はいいんじゃないだろうか? 高い場所とか特にそうだ。
縄で縛られたりして体を動かせなくなった時に代わりに移動を代行してくれる存在。
そう考えたら鳥だろうか?
100キロくらいを持ち上げられる鳥であると助かるな。
いや、むしろドローンのようにゆっくりでいいからホバリングできる方がいいか。
そういえばホバリングできる鳥いたな。ハチドリだ。
小さい羽を高速で動かす事で体を浮かす。
ただそのせいで体を維持するためのカロリーが多い。
燃費が悪く、花の蜜のように高カロリーなエサを求めて動き続けなければ死ぬという。
ホバリングが出来て、小回りが利いて、体が小さい。
ニーナのように側に入れない状況になりにくいだろうから、燃料となる魔力の補給は随時行える。
そう考えたらハチドリはいいかもしれない。いや、いいだろう。
犬の骨格の時もそうだが、ハチドリの骨格は細かく覚えていないがたぶんきっとそこは魔力が補完してくれるだろう。
関節の形なんて覚えているものか。ハチドリの姿形からだいたいの予想はつけられるが、その骨格を全て覚えているわけじゃない。
肩の関節は普通の鳥よりも自由度が高く、むしろ人間の肩関節に似ているくらいの認識だ。
体育座りしている人間の骨格をイメージし、足の骨、特に大腿骨を短く、土踏まずの部分を長くする。
人間や猿を除いてほとんどの動物はつま先立ちして歩いているようなものなのだ。
鳥の羽毛が生えていない部分の足は人間でいう踵から先の部分だ。
翼の骨の形も面白い。
プテラノドンの翼の骨格が特に見やすいだろう。
翼の先の部分にだけ分岐する骨がある。あれが人間でいう指だ。
骨の形は変われど骨の数は変わらない。
キリンの首の骨の数も、人間の首の骨の数も同じ7個だ。
人間の骨格をハチドリの骨格のようにモデリングすればいい。
鳥の骨は中空になっていて、重量を無くしている。
それさえ注意すればもうハチドリのようなゴーレムを作る事が出来るだろう。
いや、忘れていた。筋肉の比率も重要だ。
普通の鳥はあまり翼をはためかせる必要はない。
滑空は羽の角度を調整したりして上昇下降方向転換を行える。
気流という流れによって起きたうねりに、空気の波に乗っかる波乗りのようなものなのだ。
波さえ乗れれば後はそこまで筋肉を使わない。
だがハチドリはホバリングだ。1か所に留まり続けなければいけない。
常に羽ばたき続けなければいけない。重力に対し抗う向きに、つまり前方でなく上空へと力をかける必要がある。
重力に抗う力、揚力を得つつも前方には進まないために、翼の角度を変えて、上下ではなく前後に羽ばたく鳥だ。
その筋肉の付き方も、必要とする筋肉の量も違う。
ハチドリの胸の筋肉の量は全身の筋肉の半分近くを占めているのだ。
「リク君? リク君? 大丈夫か?」
首筋に汗を垂らしながら、ミラ先生は俺の顔を不安げに覗き込んでいた。
考え込んでいる時間が長すぎたか。何も話していないでいたら不安にもなるな。
ちゃんと伝えないといけないだろう。
「ミラ先生。魔法、決めました。それではやりますね?」
俺がそう言うとミラ先生は表情を引き締めた。
後ろに向かって手を振り、何事か合図を出しているようだった。
「リク君? どういう魔法かな?」
「鳥のゴーレム、ちょっと小さいのを創ろうと考えています」






