94、規制入ります
「神子様。申し訳ありませんが属性変化に関してはもう少し大きくなってからにしましょうか。
この技術に関しては一定年齢を過ぎるまでは教えてはいけない規定なんですよ。
とても失敗しやすい技術で、一定以上の技量を身に着けた事を試験にて判別した後、ようやく教えられる技術なんです」
医歯薬の技術のように、その技術を学ぶ事自体にハードルを設けられている感じか。
正しい知識で扱わなければ、その技術は人の命を容易に奪う事が出来る。
薬で例えれば『この薬効があるからこれを使えば問題ない』と薬効だけに注目して、アレルギー反応だったり、薬の作用機序の段階だったり、そもそも原因自体が間違っていたりする様なもんか。下手したら最悪死に至る。
基礎が出来ているから判断できる内容なのに、基礎もないのに知ったか知識で行動して、上手く行く事もあるかもしれないが、大抵は何に間違えている事にすら気づくこともできずに失敗する。
何で間違えているのかわからないから、対処の仕様もない。
そして中途半端な知識で行動した末は命に関わってしまう。
だから判断能力を見極めるため、基礎的な知識を養うため、年齢制限を設けているのではないだろうか?
モノがあれば使える薬のように、手を出せば中途半端な模倣が出来る技術だという事かもしれない。
本質の魔法に関しては俺が何をするにしても、魔力が魅入られるまでは使う事ができないという制約があるから、だから教える事に制止されることがなかったのかもしれない。
「ユエ先生! 何歳から属性変化は教えてもらえますか?」
「一番早くて16歳ですね。基礎魔法が身に着いたという資格を得た後、教える事が出来るようになりますから」
16か。今3歳だから後、13年後……。遠い。
「属性変化ってなんで危険な技術なんですか?」
「他の属性の魔力を模したりするためには、その属性の人が使う魔法の10倍の魔力が必要になるんですよ。
その魔力、属性変化が変換できなかったら魔法になる事もなく、ただ魔力として爆発します。
熟練の人でなければ属性変化が出来なかった場合を想定しなくてはいけないですし、軽い気持ちで出来るモノではありませんよ」
く。新しい技術を! と求めてもハードルは山とあるモノだ。
とりあえずもっと歳月と知識が必要だ。
体の大きさも足りない。必要なモノはまだまだたくさんある。
赤ん坊の間は神経の発達に大きく関係している。
この時期に感覚が正常に成長しないと、今後運動神経がまともに働かないのだ。
色々な事を体で経験し、神経で、体で覚える。
筋肉を鍛えるのは16歳くらいになり、体がある程度出来てからでいい。
今は新しい技術を入手出来ないと諦めて、ユエさんとボール遊びをしながら日々を過ごそう。
魔力量の回復も考えないといけない。
やれる事は探すものだ。
手のひらから漏れ出ている魔力をこっそりニーナをもふもふしながら融通しつつ、俺は体内での魔力の動きを制御しようとしていた。
現状考えている手法は体内における吸引力の中心点、渦を増やす事。
体内の魔力を集めて、圧縮する、魔力の吸引力の中心点、渦。
この渦は内臓の反動などを使ってむりやり魔力を回した事で作ったものだ。
今は流れに合わせて反動をさらに加えていく感じで流れを止めないように、加速させるように動かしている。
この渦があるおかげで俺は高い魔力を体内に押し留める事が可能になっている。
渦の動きを弱めれば吸引力が下がり、魔力が漏れ出していく。
流れを手のひらへと向ければ、それまでの渦の勢いそのままに一気に魔力を放出する事ができる。
じんわりと出すのも、一気に放出するのも俺の意のままだ。
だがもしこの渦が複数あったらどうだろうか?
1つの回転を放出に向けて動かしたとして、他の渦の吸引力をそのままにしたら?
そうなれば渦の数だけ魔力の放出量に段階を作る事ができる。
渦の勢いを上げたり下げたりするのは簡単だが、多少時間がかかる。
だが渦の勢いを変えることなく、流す量を調節出来たら?
魔法を扱うには魔力の量が重要だ。これが調整できるできないで使える魔法の幅が大きく変わる。
今、魔力をちょっとずつ漏らすように放出しても、タマゴ……あの球のゴーレムは作る事が難しいだろう。
またあの魔法を使うためにも細かな魔力の放出量の調整が必要だ。
せっかくあそこまで調べたのに使えないとか悲しすぎる。
それと今、ある渦はへそのところだ。お腹で魔力の回転をコントロールしているのだ。
もし放出点がある右の手のひらに渦が作れたらどうだろうか?
魔法を放出した時に作った穴からこぼれる魔力を逃さないでいる事が出来るのではないだろうか?
また前回放出出来た魔力の量は総量の半分か少し多い程度だ。
手のひらの近くに溜め込む事が出来たら、全ての魔力を一気に放出した魔法が使えるかもしれない。
最悪……全魔力を一気に投げつけて爆発させるマ〇ンテみたいな最終手段が使えるようになるかもしれない。
それとへそで魔力をコントロールしていると、腕や足といった突起部分に対して魔力の循環が滞りやすく、部分部分のコントロールが弱いのだ。
そういうところも考えると渦の量を増やして滞りやすい部分の魔力のコントロールをとりたい。
また渦が増えれば現状体の成長に合わせるようにしか増えていない魔力の上限を上げる事にもつながる。
コントロール力も、魔力の上限の上昇にも効果が見込めるとなれば目指さない理由はない。
そう考えて行動しているが、現状、内臓の反動を、正確に言えば消化管で吸収した食物の魔力を反動に動かしている流れをどうやって他の部分で作り出すかが問題になる。
魔力の回復は食べ物に依存する。
摂取した魔力は消化管、特に一番初めに魔力を受け取る機会のあるへそ、つまり腸の部分の吸収が強い。
だから渦が作り出しやすいのはへその部分だ。
ここまではいい。
だが大気中にも魔力はある。不活化している魔力だが、体内でエネルギーを加えられる事で活性化させる事はできるだろう。
だから即効性ではないが呼吸でも魔力の回復は出来るはずだ。
では肺に、いや心臓に渦を作る事は出来ないだろうか?
そう思ってやってはみたが、吸収している魔力の量が微量なのか、活性化していないからなのか、渦を作れるほどの流れを生み出せなかった。
流れを作るエネルギーが問題だ。
どうしようか? まだまだここは先が長そうだ。
考えるだけなら、理論だけなら誰でも言える。
だがやる事が出来るのは自分だけだ。
人の行動を模倣する事は出来ても、感覚の模倣はできない。
それは人によって感じ方が違うから。
とりあえず模索するしかないか。
それはさておき。
現状は魔力の制御に気を配りつつ、体を育てていく。
溜め込めば溜め込む程、魔法で出来る事は増えるだろう。
細かな制御が出来るようになれば、日常生活で魔法を使ってみたい。
街中では使えないという制限は3等級だった母さんには適用されていなかったから出来たのだろう。
街に住むのは便利そうだが、魔法を日常的に使いたいなら街の外で生きた方がいいかもしれない。
適度に名前を売って、街の外でのんびり暮らしながら、時折来る依頼を熟していく生活にはちょっと憧れるな。
やっぱり自由に過ごしたいものだ。
人に左右され、制限が加えられるのは苦手だ。
必要に迫られて行動するよりも、ただやりたいからで行動できるだけの力や余裕が欲しい。
自分のしたい事を追求したら、俺はどこまでいけるのだろうか?
人々への影響力でモノを考えているのだろうか? 社会的地位はそれに付随するものだ。
自分自身の能力でモノを考えているのだろうか? ゲームのトロフィーの様なモノか。
だがどちらにしても俺がしたいようにするには力が欲しい。
やりたいからという理由だけできるだけの時間や心の余裕が欲しい。
前世の後悔は自分の環境を変えるだけの力がなく、やりたい事をやる余裕がなかった事だ。
欲しいモノは手に入れろ。今世は前世の後悔がある。力を蓄えろ。余裕を作り出せ。
考えて行動しろ。プラスアルファを考えろ。
流されるままに生きていたら後悔する事は前世で覚えただろ。
欲しいものは自分で動いて掴み取れ。






