93、真面目系不憫属性
「人に魔力が魅入られた時は何かしらの兆候が見られる。
例えば魔法の効率が高くなり、魔力に融通を利かしてもらえるようになるとかだな。
高位の魔力になれば夢などでその存在を主張したりする。
魅入られる基準は特にない。その魔力の好みが合致しただけの事だからな。
強いて言えば魔力の多い場所であれば好んでくれる魔力がいる確率が上がるくらいだろうか。
だがまぁ、野次馬根性でくるような魔力が魅入られるような性質である確率はとても低いだろうな」
本質の魔法の入手は大分遠くなりそうだ。
つまりここでも人に好かれる人である必要があるのだろう。
いや、話はそう簡単なモノじゃないか。
「そもそも魔力ってどういうモノなの?」
「好きなタイプにはとことん貢ぐけれど、嫌いなタイプにはほとんど見向きもしない。
基本的に傍観主義で存在を主張する事は好まず、ひっそりと推しの人を応援する。
我のように自我の強いモノは滅多におらんな」
画面の向こうのように人間には関われない。
応援すればその人間がしたい事を叶えられる。
人間は魔力を頼りにしてくれるが、だが人間は魔力を見る事ができない。
魔力に対する人間の想いは尊敬や崇拝といったモノ。
人付き合いの経験は遠い過去、魔力に転生する前の話になるだろう。
もし昔の言葉を主言語にしているようだったら、きっと誰も言葉を理解できないはずだ。
標準語と方言でも発音の差や使う単語の違いは大きく、理解できないモノも多い。
現代文と古文を比較してみても、単語の意味するものは違ってくる。
リスニングに関してはまだいい。
普段から聞く言葉だ。昔からその変遷をたどりながら聞いてきたのだ。理解できるだろう。
では話す言葉だ。こちらはどうだ?
英語を覚える時に経験がある人は多いだろう。
リスニングはできるけど、話す事はできない。
普段考えている言葉が日本語で、頭の中で使っている言葉も日本語なのだ。
どんなに聞いても、使わない言葉で話をするのは困難なのだ。
ではニーナに関してはどうだろう?
言葉をむりやり神話などで使うモノにしているくらいだ。
そういったキャラクターを普段から演じていると思ったら出来るかもしれない。
話をするためだけにキャラクターを作り上げてきたと思えば。
あれ? なんだろう。
なんか不器用可愛い気がしてきた。
一生懸命にシミュレーションをひたすら繰り返して、神様降臨並みに雰囲気を作りだそうとして、精一杯作ったキャラクターがアレだ。
天然ドジっ子が可愛いのは一生懸命だから。
ちょっとドンくさいだけで、そこに作意がないから。
作意の見え透いた養殖モノはただのウザいかまってちゃんでしかない。
ニーナは天然か養殖か。天然ドジっ子と同類項だろう。
いや、頭のいいバカの方が近いか。要領の悪い委員長さん。
経験値の低さを別のモノで埋めようとして微妙に合っていない感じが。
クラスを陰で支えている、地味な仕事をたくさん熟す委員長さん。
ついでにくっころ姫騎士も割と自分を犠牲にしている。
クラスを引っ張っていく、国民を引っ張っていく、そのために強気な自分を演じる事に違いはない。
メインキャラクターにはなれても、主人公にはなりにくく、そしてよく不憫な目に陥る。
がんばって練習し、雰囲気たっぷりに登場したと思えば俺が誘拐されて。
救出するいいタイミングで出てこれたと思えば罠にかけられすぐ出オチ。
長く生きて蓄えた知識やシミレーションしていただろう場面以外はポンコツ。
「リク殿? 我の顔に何かついているのであるか?」
眉がハの字になり、ユルい顔を心配に曇らせたニーナは俺の側に顔を寄せていた。
何故ニーナに強い言葉を頭の中とはいえ使えたのか。
俺と同じタイプのコミュ障の臭いをぷんぷん感じていたからだな。
空気を読み、自分を演じる、そしてコミュニケーションの経験値が異常に低い。
そんな同類臭を感じていたから、『目糞鼻糞を笑う』よろしく黒さがにじみ出たのだ。
そして『同病相憐れむ』よろしく欠点が似ている事に気づいたから今度は好ましく感じ始めた。
赤ちゃんである間はまだ可愛いかもしれない。
だが俺である時点できっと可愛くなくなるだろう。
多少大きいだけで、わんこであるニーナはいつまでも可愛いだろうが。
その点、大きく違うだろうな。
「ニーナ。なんでもないよ。魔力に好かれるためには特に何かする事はあるの?」
「特にない……とは言えぬ。
性格が振り切れている人は見ていて面白いと魅力を感じる魔力はとても多い。
反対に中途半端であると微妙に感じるのか人気がないのである」
裏ボスは……振り切れているな。
目的のためなら手段を選ばない、交渉術や戦闘が得意、何かの黒幕。
そんなイメージが初めて見た時から感じていた。
二次元のキャラクターのように振り切れた存在である程、魔力は魅力を感じるのかもしれない。
だとしたら俺も濃いキャラクターにならないといけないのではないだろうか?
先生っ! コミュ障はキャラの濃さに含まれますか?
コミュ障は生存戦略のために克服しなければいけない課題だ。
目指すべきは誰だ? 裏ボスじゃないだろうか?
あのレベルであれば「処刑? とんでもない!」と言われるだろう。
人に知られ、様々な人に恩を売り、利益を配る。
そうすれば裏ボスの様にぱっと見で危険そうな人物でも、人の輪の中心で生き抜くことが出来る。
影響力の高さがそのまま社会的な生命力の高さになり、魔法の技術は影響力を高くするツールとして有用だ。
それにこの世界にはモンスターがいる。
海嘯というモンスターによる大侵攻が定期的にあるらしい。
戦闘力が高くなければこの世界で生きるのは厳しいだろう。
魔力が高いという事はそれだけ戦闘力が高いと認識されるはず。
魔力に見合った活躍が出来なければ評価が下がるだろう。
社会的に生きるためにも戦闘力は必要だ。
力が欲しい。
「じゃあ、本質の魔法はすぐには使えないんだ。残念」
「リク殿はまだ小さいのだ。そんなに急がなくても大丈夫だ」
ニーナはそういって大きなあくびをした。
俺もそれを見ていたらなんだか眠たくなった。
眠りに関する魔法はあるのだろうか?
木属性でアロマオイルなど作れるようであれば、精神的に安心させる成分を散布させ、睡眠に陥れる魔法を作れるかもしれない。
でもなんだか眠い……。
お昼食べた後だからだろうか?
……いや、ニーナを信頼し始めているから、ニーナがあくびをしたからつられたのかもしれない。
あくびや睡眠という行動はその場が安全だから出来る行為なのだ。
信頼しているニーナがあくびをしたから、俺も安心して眠りに落ちる事が出来るのかもしれない。
頭が回らなくなってきた……。
今は眠ろう。起きたら何しようか。
またユエさんにボール投げしてもらって反射神経と筋肉を鍛えようか。
疲れたら魔力の属性を変えるコツとか聞こう。
難易度が低いと嬉しいな。






