91、それでは
ご飯はこぶし大のパンにコンソメ入りの卵焼きとソーセージ、キャベツやニンジン、タマネギなどを蒸した温野菜サラダ。
歯応えは弱いが大分、普通のご飯に近くなった。お米などもあるようだが海産物は少ない。
海産物が少ないだけでほとんど現代の日本の食事に近いメニューだ。
海産物の少ない日本食って日本食なのか?
昆布ない。マグロにカツオもない。小エビは淡水性多い。塩は岩塩? 魚も淡水性が多い。
蕎麦やうどんがまともに作れそうにない。野菜を煮込んで作るコンソメなどの出汁がせいぜいか?
この世界の海は辺境にあり、ほとんどが魔物の領域だ。
日本食を作るには海に行かないといけない。
王都は海から遠い場所にあるから、海産物がほとんど入ってくることはないだろう。
カツオ出汁も、昆布出汁も、海の小エビでとった出汁もないと思うと悲しい。
昆布はたしか日本人以外だとほとんどの場合消化酵素がないらしく、海外では食べられないという。
もしかしたらこの世界で生まれた事で昆布が食べられなくなったかもしれない。
おでんに入れた昆布のトロトロ感や噛みしめた時の柔らかい感触。
少し硬い状態で味をつけた昆布。ビーフジャーキーのような感覚で食べていくモノ。
酢昆布のように、ちょっと酸味をつけて、しゃぶったり、お酒のつまみにするモノ。
昆布食べたい。失って初めて気づく喪失感か。
「リク殿。午後は何をいたしますか?」
ニーナの目が何かの期待感を乗せて揺れていた。
さっきは衝動に任せて撫でてしまった。
今回は魔法関連でいくべきか?
いや、ちょっと待て。魔力は食事などによって回復する。
食材に含まれている体外の不活化した魔力を生命エネルギーで活性化させるのが流れだったか?
ニーナの魔力タンクの話は活性化した魔力を保存しておくという話だ。
ここ最近、魔力を使い過ぎていないか?
俺の体の中の魔力は……以前の半分くらいしかない気がする。
今は溜め込む事を重視していかないといけない。
だとしたらただ練習で使うよりも、魔力の使い道を聞いた方がいい。
何が出来るのか、それが分かれば大分使いやすくなるだろう。
街の中で魔法を使ってはいけない制限にも引っかからない。
ここで聞いても大丈夫だろうか?
どうだろう? 聞いてはいけない理由はあるか?
何が出来るのかを聞くだけだ。
神童も成長すればただの人。
才能があれば確かに能力は伸びやすいが、自分がいくらできたところで周囲を動かせないようでは、普通の人と同じだけの働きしかできない。埋没する。
将棋や剣道などの対人戦なのであれば能力が浮き彫りになりやすいが、ただ頭がいいだけでは結局「あたまがいいだろ~」程度の事しか言えないのだ。残念極まりない。
そういう意味では俺は今後埋没していく可能性が高い。
現状、ちょっと魔力が高いだけの赤ん坊に過ぎないのだから。
ちょっと特殊な事でも、一芸を真似をする事は能力が足りていれば誰でも出来る。
真似されないように努力する事は性能を見せないようにする事と同意義。
仕事をしようとしても、その仕事がない状態では意味がない。
先陣を切り、自分こそが第一人者であり、最も詳しい者である、そう宣伝した方が余程仕事がくるのではないだろうか?
ちょっと出来るで驕れば、あっという間に周囲に埋没する。
周囲に埋没すれば、価格勝負になる。価格勝負において、自分で仕様を開発した人と仕様を真似た人、どちらが優位かといえば真似た人だ。
仕様を真似るだけなので開発コストがかからない以上、真似ることが上手い人の方が安い価格で仕事を請け負う事が出来る。
だが真似るだけでは開発のノウハウは身につかない以上どこかで新技術の入手が停止する。
だから新技術には特許があり、特許料で儲けが出るように出来る。
開発専門か真似る事専門か。どちらも他者の研究成果を追い、新技術の情報を知る事が重要になる。
開発専門にとって新技術は次のステップに進むためのツールと既に開発されている技術の把握。
真似専門にとって新技術は自身が真似をして利益になるモノかの把握。
俺はどちらを目指すべきだ? 真似専門よりも開発専門がいいのではないだろうか?
この世界に特許という概念はあるのかが問題だが……たぶんあるだろう。
なければ技術の発展が期待できなくなる。それに転生者という異文化があるのだ。
王城で隔離されているとはいえ、特許システムは既存のシステムを侵しにくいから、十分導入可能なはずだ。
それで魔法に関してニーナに聞く事はどうだ?
別に問題はない。自然放出される魔力を使用した魔法のように、見る人が見れば簡単に真似ができる。
あの魔法の使い方は……特許とかとれるのだろうか?
まずは既に分かっている使い方について聞こう。
そのうえで何に応用できるかを考えよう。
土属性の万能性があれば真似専門も十分できるはずだ。
「ニーナ? 魔法について聞いてもいい?
カナ先生、魔法について聞くだけならいいよね? ここで使わないから!」






