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90、もふもふ

 でかい。


 やっぱりこのわんこは大きい。

 多少は屋内でも動けるだろうが、体高2mはやり過ぎた感がある。

 小さくするには仕組みが複雑すぎたのだけど。


 まだ前足の膝に頭が届かない。抱き着きがいがあるが、ちょっと憎たらしい。

 身長が十分に伸びたとしても、ニーナの肩に頭は届くだろうか?

 届いたとしたら身長が2m近くなったということか。そこまで身長はいらないかな?


「リク殿……。恨めしそうな顔で見ないでくだされ。

 何かしますか? ボール投げとか」

「場所がない」


 ニーナは小型犬ではないのだから室内で出来るか。

 外に出たとしても、車よりも速く動けるだろうニーナに対して、こちとらまだ3歳だぞ。

 肉体を強化しないと満足にボールを投げられないだろう。



「それでは……背中乗りますか?」

「その高さから落ちたら今の僕は死んじゃう」


 ニーナの背中の高さは寝そべっていても近くの大人の頭の高さだ。

 クッションの1つでもないと簡単に死ねる高さだ。

 この幼稚園児の体ならな。


「では魔法で」

「すみませんが家の中で魔法は使わないでください」

「危ない事はしない」

「いえ、2等級以上の方は緊急時以外市街地での魔法の使用は原則禁止となっております。

 どうしたところで規模が大きくなってしまいますので」

「我なら」

「例え技量が優れた人であり事故を起こさないという確信があっても、前例を作ってしまうと他の方が真似をしてしまう可能性があるため、絶対にしないでくださいね?」


 有無を言わせない。一歩も引かない。

 料理をしている手元を見ているにも拘わらず、ずいっと頭上から威圧をかけられるかのような圧力を感じる。

 カナさんはわりと小柄な女性だというのに。


 カナさんの本気が垣間見えた気がする……。

 あれ? カナさんってここまで強かったっけ?

 なんだか押したらひいてしまう、断れない感じの女性だった気がする。


 先日の件で吹っ切れたのだろうか?

 いや、軍の力を認識して、言って聞かせる事が出来ると思えるようになったのだろうか?

 教会の中での立ち位置よりも、軍での立ち位置を基準に物を見るようになればこの変化は当然?

 

 それとすみません。既にこの家をリフォームする際に使ってます。魔法。


「では……我をもふもふするがよいっ!」


 ごろりとお腹を天井に向けてニーナは吠えた。

 足も投げだして思いっきりぐっと伸びをすると投げやりな口調で言った。

 やっぱりでかい。


 ニーナのモフモフは細かく、透明感のあるモフモフは金色に輝き美しい。

 長さがあり、ウェーブのかかったモフモフは例えようがない素晴らしさだ。

 モフモフの1本1本がそれこそ50cm近い長さがある。モフモフの太さもシャーペン並みだ。


 大きくなければ複雑さを再現できないと思ったが、実際どうなのだろうか?

 もしニーナというイレギュラー因子がなかった場合、形作る事は出来たのだろうか?

 どこまでニーナの仕組みを組み上げられていただろうか?


 わからない。


「の……のぅ……」


 わからないが、ニーナのように人格をもった魔力が、自律して判断を行い、適切だと思える魔法を構成しているのだろうか?

 あらかじめ魔力の知識にあるモノを組み合わせて、魔法を作り上げていると考えたらいいのか。

 様々な形状のブロックを集めて1つの構造物を作り上げる積み木遊びが如く。


 俺の知識だけで組み立てたわけではないから問題はないのか。

 だとしても正確なイメージがなかったら張りぼてのぬいぐるみの様な動かせないモノが出来上がったかもしれない。

 そう考えたら現状のように動く、生物の様なゴーレムを作り上げられたのは奇跡だろう。


「もふもふすればいいと言ったのは我じゃが……」


 再現実験は出来るだろうか?

 次はもっと小型化させて、どこにでもついてこれるサイズにしたりしたいな。

 次は何作ろうかな? 子猫とかもいいだろ。


 問題はニーナのように自我があるかどうかだ。

 言葉が話せる存在だとどうしても距離が出来がちだ。

 もふもふしてても純粋に甘えてくる可愛さが足りない。


 俺が何かに依存しようと考えているからだろうか?

 依存してくるモノに対して依存しているとも言えるかもしれない。

 俺を頼ってくるモノが可愛いと思うし、何かしてあげたいとも思う。


 だが行動の理由を大きくそこに縛られてしまうのは危険だ。

 お互いの存在を大きく損なう事につながりかねない。

 互いに補い合い、成長していく関係にはなりにくい。


 それに自由がなくなる。ペットは特にそうだろう。

 野生の生き物は人間がエサをやらなくても生きている。

 しかしペットは成長したところでエサの採り方1つわからないだろう。

 もらうことに慣れているから。


 生活を縛り、知識を得る機会を奪えば、人間だろうとペットの如くなってしまう。

 本来できる事をできない不完全な生き物にしてしまう。

 飼い主側にしてもそうだ。依存するという事は代替行為に近い。欠けたモノを認識できなくなっているのだ。


「あ……あ……お腹」


 例えば社会に依存する。お金さえ払えば何でも買える社会。

 欠けたモノは? (Do)(it)(Yourself)、自分でやれ。

 労力を払わずにお金で仕事を済ませる事。その労力は見えにくくなった。

 社会に依存した人間を森に1人放り出せば大抵は死んでしまうだろう。


 社会の良いところは、そのお金を得るために、1つの仕事を熟せばよくなった事。

 全てを自分でやろうとすれば1日の時間の大半を生活を維持するために使わなければいけなかった。

 だが1つの仕事を熟せば他の仕事を他の誰かがやってくれるという状態。

 分業した事で1つ1つが効率化され、より洗練された上、よりよい生活を営める事だ。


 ペットも生活を人間に依存する事で生きている。

 ブルドッグだったか、作られた犬種の中には人間の手がなければ子孫を残す事すらできない。

 けれど彼らはその体を目的に合わせた事で自身の仕事を行っている。


「もう……勝手にして……」


 依存でいい関係を作れる事もあるが、薬物依存だったり、アルコール依存症だったり、子供に対しての依存だったり、ダメにするケースの依存も多い。

 それがなければ生きていけない、そう思う事はとても多いのだろう。

 だが実際には必要不可欠ではないし、なくても生きていた期間だってあるはずだ。


 けれど依存している間はそんな期間の事など忘れている。

 生まれた時から依存していたとしても、離れない事にはわからない事がある。

 悪質な依存は視野を狭くさせて、行動の選択肢を狭めてしまう。

 時には生きる目的すらも依存物に変質させられてしまう。


 それは望ましい事だろうか? 俺には望ましくない。

 そういった束縛は綿で首を絞められるかのように、ゆっくりと自分を殺していく。

 俺は嫌だ。俺は制限されたくない。


 大分、モフモフに絡まっていた。

 見事に行動を制限されている。

 ニーナのお腹の音がぐぉぉと聞こえた。


「リク殿……激しい……」


 いつもよりもニーナの声が高くなっていた。






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