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89、ボール遊びとお手伝い

 ユエさんが水を素材に魔法で作ったボール。

 ぽんっと投げられたボールは頭上からゆっくり落ちてきた。

 手が届くぎりぎりのところまで来たら手のひらでぱんっと打ち返した。


 打ち返されたボールをキャッチしたユエさんは嬉しそうに微笑んでいた。

 マンガだったらきっと顔の側で花が咲いていることだろう。

 スイートピーみたいな、ピンクや白の花。


 幼い……いや純粋な笑顔。見ている俺もつられて自然に笑ってしまうそんな笑顔。

 自身の損得勘定や打算に塗れた演技ばかりで幼児の仮面を被った俺とはまるで違う。

 薄汚れひねくれた精神を恥じながらも俺は憧れ、遠ざけたいけれど近寄りたい、そんな気持ちになってくる。


「神子様? 少しボールがゆっくりすぎましたか?

 それでは少しスピードを上げますね」


 気が抜けているのがバレたか。

 球出しの速度が上がり、思考の余裕が徐々になくなっていく。

 飛んでくるボールを反射的に打ち返す程に獣になっていく気分。




 1時間もしないうちにばてた。

 その場で近くに来たボールを打ち返しているうちに、気がついたら跳ねていた。

 飛び跳ねて打ち返す。体力はあっという間に失われた。


 跳ねるというのは非常に筋力が必要になる。

 今の時期、負荷をあまりかけても成長しない。

 でも跳ねる程度の負荷なら許容範囲じゃないだろうか?


 もうすぐ3歳、肉体的には4歳くらいに見える程度には成長してきているではないだろうか?

 知能的な部分で年が実際よりも多くみられているだけで別にそこまで3歳児と変わらない?

 でもまぁ、それでも歩いたり走ったりには大分慣れてきた気がする。

 そう考えたら跳ねるの段階に移っても問題ないのかもしれない。


 跳ねて叩いて。反射的に動く。

 思考があれば複雑な行動がしやすい。だが経路の問題だ。

 脊髄で判断する反射と脊髄を通り脳に行って返ってくる行動。

 どちらが速いかと言われたら圧倒的に反射だ。


 普段から反射で動いているような野生児タイプと普段から頭で考えて動くがり勉タイプ。

 脊髄で判断を下すことが多い程、脊髄でとれる選択肢の幅が広くなる。

 瞬時の判断であれば野生児タイプの方が圧倒的に優位だろう。


 試合のように、1対1形式の戦闘ならがり勉タイプの方が強いだろう。

 あらかじめ頭の中で戦略を立てて、相手の選択肢を削り、詰め将棋が如く、必勝の道筋へと追い込む。

 相手のデータがあればなおさら。戦略の組み立ての上手さこそ問われていくことだろう。


 反射を利用して防ぐ事や攻撃する事は出来た方がいい。

 不意打ちや非正規戦闘のような事態に強くなれるから。

 見知らぬ相手と戦う時にも反射は強い。その場しのぎだろうが勝ち筋に導くまで生き残れればいい。


 乱戦ならば反射は重要だ。

 言ってしまえば死ななければ勝ちであり、最後に立っている者が勝ちだ。

 反射は防御に通じるし、鍛えなければいけない。


 考えずとも行動できる。それが反射。

 素振りや型もそうだ。鍛え上げて反射的に必要な動きがとれるようにならなければ意味がない。

 素振りも型も、シチュエーションを思い浮かべて、この時にはこういう風に振るという目的意識が必要。


 こういう風にきたらこういう風に返す。

 後の先をとるというのは、相手が行動してから行動するともいえる。

 見てから考えて動くでは遅い。見たら動くのだ。


 普段しない動きを、普段考えない動きを、咄嗟に反射的に出来るわけがない。

 だから素振りや型は重要だ。そして反射で動くのは慣れが必要だ。

 だからこそボール遊びで反射速度を上げるのは本当にいい事だろう。


 ……反射を鍛えるのはいいが、獣になりすぎて体動かない……。

 反射的に動くのは頭よりも体が疲れる……。

 ただ気持ちいい疲れ方だ。


 継続は力なり。継続しなければ筋肉はつかない。

 使わないモノは衰える。体というのは必要最低限の筋力の維持を考える。

 それ以上の筋肉はカロリーの無駄だから。だから必要最低限の基準を上げないといけない。

 継続して動かし続けなければ最低限の基準は上がらない。だから継続は力なり。


 ただなし崩しにやっても意味がない。考える。どういう時に必要とするのかを考える。

 今できても、未来にできる保証はない。できる時にできる事をやらないといけない。

 将来、後悔したくないなら。もう前世みたいに後悔はしたくない。



 コンソメスープのようないい匂いが鼻腔をくすぐっていた。

 お腹がぎゅるぎゅるぎゅると鳴り響き空腹を訴えていた。

 体は温かい毛布にくるまれていた。

 そしてどくんどくんというゆっくりとした落ち着く音が聞こえた。

 頭に柔らかいものを感じた。


「神子様? 起きてしまいましたか?」


 頭上から声が聞こえた。優しい声はユエさんのモノだ。ただ声が妙に近い。

 抱きかかえられているのだろうか?

 そしたら頭に当たっているのはあの立派なお胸様だな。


「ユエさん、おはようございます」


 眼を開けるとキッチンの方でカナさんが料理を作っているところだった。

 そして俺はユエさんのももの上で眠りに落ちていたようだ。なぜか冷静だ。わからない。

 体が冷えないようにか毛布でくるまれて抱え込まれていた。身動きはとれない。


「ご飯はまだできていないですね。もう少し眠りますか?」


 頭を撫でながらユエさんは言った。

 大して出来る事はないだろうが、とりあえず何かしたい。

 起きよう。配膳の準備とか出来るだろうか?


「ユエさん、僕は起きます。すみませんがその」


 俺は腕を持ち上げて毛布を浮かせてみると「あぁ、はいはい」と言ってユエさんは俺を立たせてくれた。

 少し寝起きで体がふらついたものの、なんとか立てた。

 ぐぐっと伸びをすると血が下に流れていく感覚がして頭がすっきりしてくる。


「カナさんのお手伝いしてきますね」


 家事は1人でやっているとけっこう疲れる。

 自分の分だけなら手抜きしたくなるし、家族の分もとなった時手伝いもしない人のためにと思うとちょっと疲れてくる。

 料理は『献立を決め、食材を買い、貯蔵方法を抑え、調理し、食べて、洗い物を済ませ、ゴミを捨てる』まででワンセットなのだから。


 料理をする際どの食材を使ってもいいのかとか、普段キッチンに入らない人だとわからない。

 下手に食材を使って「この食材は夕飯に使うつもりだったのに!」とか起きたら目も当てられない惨事だ。

 そんな惨事引き起こさないためにも料理のお手伝いはした方がいい。


 後々きっと俺は料理を始めるだろう。その時の布石としてもこのお手伝いは欠かせない。

 料理する時に前世の癖が出てきても、見て考えてたと言い張る事は出来るだろう。

 まだ小さいこの体では出来るお手伝いも少ないけれどお皿を出すくらいなら出来るんじゃないか?


 キッチンの側までは行けそうにないかもしれない。

 お湯とか扱っていたり、包丁とか使っている場所で足元をうろちょろされたら怖いから。

 だから盛り付けられたモノを運ぶだけでもしよう。


「リク殿、我も何かお手伝いを」

「ニーナさん、リク君とよければ遊んでいてもらえませんか?

 まだ調理中でリク君がお手伝いできる事がないのでよろしくお願いします」

「わかった」



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