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88、ユエさんと球遊び

「ユエ先生っ! 戦い方教えてくださいっ」


 幼児向けのあまり歯ごたえのない朝ご飯を食べ終わり俺はユエさんに言った。

 昨日、夢現(ゆめうつつ)に考えていた事を実践するのだ。

 幼児向けのご飯は……塩気薄いし歯ごたえは少ないのでちょっと物足りない。

 ニキさんと一緒に回った中郭のあの街、乾物美味しかったな。


「ダメですよ、神子様?」


 ユエさんはソファーに座りお茶を飲んでいた。

 カップの口が広がっている。紅茶みたいなお茶だろうか。

 紅茶は熱湯で抽出するため口を広げることで冷めやすくしたり、お茶の透明度が高ければカップの中を覗くと絵柄を楽しめる。

 ユエさんはこの家に来てもシスター服のままだった。


「昨日のユエ先生、かっこよかったですっ!

 近くに来た見るからに強そうな軍人さんが振り返りもせずに倒して……。

 ユエ先生はきれいですし、可愛いですし、強いですっ!」


 後ろから近づいてくるゴリラのようにいかつい男性も、細身の触れば切れてしまう刃物のような男性も、猫のような身のこなしの素早い女性も関係がなかった。

 力も、技量も、隠密性も関係なく、一切合切全てムチのように振るわれたロープの一閃で全て吹き飛ばした。

 属性の相性さえ対等であれば裏ボスともっと接戦になっていたことだろう。


 とんでもなく強いユエさんの身長だが165とかその辺りだろう。低くはないが高くもない。

 白い肌はきめが細かく、腕も細く、胸は大きい。

 ……二次元の強いシスターって、胸大きくて腕細くてそこまで高身長じゃなくて……。

 そうか、ユエさんは二次元の人だったのか。


「褒めてもダメですよ? 神子様はまだ幼いのです。その体では戦い方は教えられません」


 ユエさんは机の側まで来て膝立ちになり、目線の高さを合わせて言った。

 その腕が優しく頭を抱えこまれた。柔らかい。低反発クッションよりも気持ちいい。

 ぽんぽんと頭を優しく撫でられて、寝かしつけるかのように、温かさに落ち着かされた。


 この体は確かに小さい。まだ身長は1m前後しかないだろう。

 抱えられればユエさんの大きな胸に全身が包まれてしまう。

 俺の指先はまだまだソーセージのように短くて太くて、それでいてぷにぷにと柔らかい。


 けれど強くならないと将来が恐い。

 状況に流されるままに、環境を変える力もなく、身を守る術も持たない……。

 それでいいだろうか? よくない。だからこそ強くならないといけない。

 体ばかり強くなっても意味はないが、だからといって体が弱くていいわけではない。


「まだ戦う事は出来なくても準備の体を作る事は出来ると思うのです」


 もともといきなり戦う事は考えていない。それでも技術、特に武術の型は覚えられると思う。

 特に素振りは全ての基本形。この形を中心に動きは組み立てられていく。

 素振りをやり込めば筋肉もその流派にとって最適な動きがしやすい体に作り替えられる。

 素振りの型が覚えられるまで筋肉がつかないでいてくれた方が癖が少なくて助かるかも?


「そうですね。でしたら球遊びでもしましょうか。

 私が球を投げるのでキャッチしてみましょう。

 けっこうランダムに投げますよ?」


 球遊びか……。キャッチボールは動体視力が鍛えられるし、ランダムに飛んでくるボールをキャッチするのは反射神経を鍛える事が出来る。

 さらにモノを扱うというのは自分の体だけを操作すればいいわけじゃない。

 球技ともなればなおの事ボディバランスに左右される。


 遊びと思えば子供にとっても取っつきやすく、修行と考えれば強くなりたい俺みたいな男の子(?)にとってもやる気がわく。

 自分の体を十全に使えるに越したことはないが、その道を極めるには時間がかかる。

 まずは適性を調べて、自分の体だけで行った方がいいのか、武器を使った方がいいのかを知らないといけない。


「それでは球を用意しましょうか。水よ、球となれ」


 ユエさんが青い光を灯し水差しから水を光へとこぼした。

 青い光に水が当たると、水の形がお皿、スープ皿、金魚鉢、そして球へと形を変えていった。

 照明に照らされてその水の球は煌めいていた。


「きれい……」


 あれを作るのに使っていたのは水色の光だけだった。

 水の循環をコントロールして球を作り上げている?


 思わず手を伸ばしてしまうと「ふふ」とユエさんは笑い「どうぞ」と俺の手に水の球を置いた。

 手に持った水の球は冷たかった。だが触っても手は濡れなかった。

 触り心地はまるでゴムの様で、力を入れてもちょっと凹むだけですぐに元通りになった。


 大きさはバレーボールの球よりも少し小さいくらい。ハンドボールの球サイズだろうか。

 抱えることは出来ても、体の大きさ、手の大きさの問題でキャッチボールのようにつかむことは出来なさそうだ。

 バレーボールのレシーブ練習が如く、弾けばいいのだろうか?


 球を弾く練習なら、跳ねて叩いて打ち返してとなるだろうか。

 できるだけユエさんの方に弾き返していくのがいいのだろう。

 親に連れられて選挙に行った子供がもらう紙風船よろしく遊ぶのがいいのか。


 一頻り手に持って感触を確かめた後、俺はユエさんに水の球を返した。

 ユエさんは「もういいの?」と微笑んでいた。

 俺は頷き「ユエ先生やろ?」と返したので、ユエさんは俺をイスから降ろし、イスや机を端へと退けた。


「球、投げるから打ち返してね?」


 ユエさんはそういうとぽんっと球を軽く投げた。



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