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85、魔法戦

 黒い繭の収縮は半径が大人の身長程になると止まった。

 ユエさんの口元が歪み、歯を食いしばって、力を込めている様子が見えた。

 黒い繭は小刻みに振動を繰り返すと雷が落ちるような轟音を立ててバラバラに砕け散った。


「全く……。抜け出すのにちょっと苦労したじゃないか?」


 砕けて降り注ぐ黒い破片の中、現れた裏ボスは不敵な表情を浮かべ杖を突いていた。

 灰色のスーツの様な衣服には穴1つとして開いていない。

 苦々しげな表情でユエさんは余裕溢れた裏ボスを睨みつけた。


「私の属性は木だ。支部長さん、君の属性は土だ。

 相性的に私が有利な事は分かっているだろう?」


 手に持っていた杖で床を一突きすると裏ボスを中心に風が渦巻いていった。

 白髪をなびかせて裏ボスは左手をすっと真っ直ぐに前に出して口を開いた。

 大きく開いていた裏ボスの瞳がユエさんを見つめて細められる。


「風よ圧し潰せ」


 ユエさんの黒髪が後ろに流れたと思うと勢いよくユエさんの体は部屋の壁へと押し付けられた。

 ユエさんの顔が苦痛に歪み、部屋の壁がひび割れていく。

 哀れなモノを見るような目つきで裏ボスは杖をつきながらユエさんの方に向かってゆっくりと歩く。


「降参してくれないか? 別に私は殺したいわけじゃない。

 私の、軍の護るべき人々の中には君達だって含まれている。

 私達は人々の笑顔を重視しているのだ。

 将来を見据えて人々の幸せを求めて行動しているのだ」


 真剣な表情の裏ボスの呼びかけに対しユエさんの表情は歪んだままだ。

 ユエさんにしてみれば上からモノを言われているようなものだ。怒りは治まらないのだろう。

 ユエさんの手の前には小さな赤い光が輝いていた。


「燃えなさい! 爆ぜなさい!」


 赤い光が一瞬強く煌めくと爆音が轟いた。

 焦げ臭い熱い空気が風に乗って俺の方にまで届いた。

 少し焦げた裏ボスの左手の手袋がユエさんの方を向いていた。


「土属性の小技か……。等級が1つ下がった火属性をいくら再現しても無意味だ。

 1等級差なら木属性の方が優位だ」


 不敵な表情を変えずに裏ボスはユエさんに言い放った。

 ユエさんの方はというと瞳を爛々と輝かせていた。

 手元には赤い光が2つ。


「でもギリギリでしょう? 燃えなさい!」


 ユエさんの手の中で赤い光がさらに輝きを増し、燃え盛る火の玉へと姿を変えた。

 赤い火球を動かすユエさんの表情は厳しい。

 遠くからでもわかる程大量の汗を垂らしている。


「ムリをするものじゃない。本質から外れた力は芯がないのだ。

 土属性は他の属性の姿を模倣できても、本質は模倣できないのだ」


 裏ボスの左手には大きな緑色の光が浮かんでいた。

 ユエさんの手にある2つの火球を合わせたよりも大きい光だ。

 向かい合う2人の口が動いた。


「火球よ! 爆発しなさい!」

「吸収、転換、風となれ」


 ユエさんの両手から放たれた真っ赤に燃える火球は煌めいていた。

 裏ボスの左手の緑渦巻く光は広がり室内を区切るように壁を形成していた。

 そして緑の膜の向こう側では爆炎が広がり、裏ボスのスーツをバタバタと音を響かせながら暴風が吹き荒れた。


 俺は吹き荒れる風に目をしぼませた。

 爆炎のエネルギーを風へと変換させたのだろうか?

 木属性の力が強ければ火属性を上回る事が出来る?

 疑似的な火属性だったから上回る事が出来た?

 裏ボスは本質がどうこう言っていた。

 土属性が作る疑似属性には本質がない?

 本質があれば拮抗していた?

 わからないな……。


 緑の膜の向こう側、爆炎が晴れると膝に手を置き、ぜぇぜぇと肩で息をするユエさんの姿があった。

 まだ戦えると言わんばかりに裏ボスを睨みつけていた。

 裏ボスはしょうがないなとばかりにため息を一つつくと緑の膜を解き、ユエさんの頭に手を乗せた。


「君は頑張った。属性の不利にもめげず私に立ち向かった。

 君の心配するリク君への不遇な扱いはない事を分かってもらうために、リク君の住む家に一緒に住むといい。

 ここまでの事態を引き起こした以上行政側から処罰が必要になる。

 その際の処罰がリク君の家での謹慎だ。これ以上は譲歩できないぞ」


 へ?

 ……。えっとユエさんが家に来るの?

 なんでそうなった?


 いや、分かるといえば分かる。

 このままただどこかに謹慎処分をしたとしても、潜在的な犯罪勢力として警戒しなければならない。

 ユエさんが犯罪を起こす動機そのものが思い込みによるものだったのだ。

 だからその思い込みがただの思い込みに過ぎないという事を理解してもらうためには、実際に見て過ごして問題がない事やまた軍の実態を知ってもらい現在の心象を変えてもらわないといけないのだ。


 でも決定早くないか?





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― 新着の感想 ―
[一言] とても面白いです!
[気になる点] 心理描写と戦闘描写と一人称による解説を同時にやろうとしてグチャグチャになってしまっている。 よくわからないうちに戦闘が終わって、それから思い出しながらの主人公による考察という風にして…
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