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82、主義主張

 大きな金色の塊が扉からゆっくりと入り込んでいく。

 物品の搬入のためか大きく作られていた扉は巨大な体で塞がれた。


「リク殿。お待たせした」


 騎士のような事を言うニーナの低い声は辺りを響き震わせた。

 朗々と響きながらも静かなトーンで。

 俺を抱えるユエさんの手は少し震えていた。


「神獣様、ここは神殿です。何用でここに来ましたか?」


 ユエさんは静かな声で穏やかに言った。

 声には先ほどのニーナに対する怯えを感じることはなかった。

 俺を近くの女官に預けると立ち上がり、ユエさんはニーナの前に立ちふさがった。

 ユエさんの服の裾が大きくはためき、ユエさんの白いローブは大きく見えた。


「リク殿、お迎えが遅くなり申し訳ございません。

 そこの者。下がれ。お前に用はない」


 ニーナはゆっくりと確実にこちらに踏み込んでいく。

 ユエさんの背中越しに見えるニーナの姿はとても大きく映った。

 聖女ユエさんを倒し、暴虐なる力を振るおうとする巨獣ニーナ。

 この一幕、悪役はどうみてもニーナだ。


「下がりません。神獣様、貴方達の行状を知っています。

 神子様をあんな……邪魔者のように扱っていく……。

 貴方方に神子様を任せておけません」


 ユエさんの声が室内に静かに響いた。

 その声質は柔らかい。だが締め付けられるような、ニーナを刺すような圧力があった。

 シスター服の裾がひらひらとめくれ、下から少しずつちらりちらりと白い肌が(あらわ)になる。

 ニーナは少し歩みを緩めじっとユエさんを見つめていた。


「我に魔法が通じると思うか?」


 興味の色が濃い、ユエさんを上から見下ろしている目には笑いが混ざっている気がした。


 ニーナは魔力を吸収する毛皮がある。そういう風に作った。

 魔法は……? ……魔力は吸収できるかもしれないが、魔法は魔力が変質したモノだ。

 魔法は吸収できるのだろうか?

 魔法になる前に魔力を吸収すれば魔法は発現しない?わからない。

 元々は充電を行うために付けた機構だ。

 そこまで性能は高くない……はずだ。


「神獣様は暴力でモノを語るのですか? 暴力でしかモノを語れない? その程度の存在なのでしょうか?」


 煽るような口調でユエさんは言い切った。

 優しい柔らかい声だというのに、その言葉に込められた強い圧力を感じる。

 ……(しゅうとめ)さん? ……いや、女王様? ……鬼子母神様?

 子供のためになら鬼、鬼神にすらなった鬼子母神様ってこんな感じだったのだろうか?


 裾がはためく理由は……魔力の自然放出量が増えているから?

 感情の激化で自然放出する魔力の量が増えているからだろうか?

 教会の支部長クラスといえば1等級1歩前くらいの魔力を持っていてもおかしくない?

 いや、むしろ1等級であってもおかしくない?


「そこのお前。それは挑発でもしているつもりか?

 なぜ我がお前と問答する必要がある? 必要がない。

 次はない。邪魔をするな。下がれ」


 桜の幹よりも太い、金毛に覆われた足をニーナは室内へと進めた。

 1歩は大きい。1度に数mは進んでいるのではないだろうか?

 この小学校の教室の様に広い部屋の中央に来るまで3歩必要なのだろうか?


 しかしニーナの声と共に柱の陰から無数の白い線が飛び交った。

 白い線……いや、白いロープの根元には白いフードを被った男達の姿があった。

 ニーナの周囲を取り囲むように数秒も経たないうちに張り巡らされた。


「何の真似だ? しゃらくさいっ!」


 ニーナの金色の腕がロープとロープの隙間に突き刺さった。

 白いロープは多少たわんだがそれ以上の動きをみせなかった。

 ニーナの瞳が大きく見開かれた。


「神獣様。貴方がいかに力凄まじくとも、この無数の糸を編み込んだロープの様に、今神獣様が手をかけられているロープで編み込まれた囲いの様に、私達は力を合わせ、力に立ち向かいます。

 例え1人では非力でも合わされば大きな力になるのです。

 私達は神子様の境遇に、貴方方が神子様にした対応に反発致します!

 火の聖人様……ミラ様のお館でお過ごしなされていた時はともかく、あの離れに隔離されるのは許容できることではございません!

 ないがしろにする貴方方に神子様を任せておくことは許容できません!」


 静かな、凛とした主張。

 ユエさんの声は部屋中に響き渡り、ニーナに向かって刺すように放たれた。


 ……その対応の理由はニーナにあるけれど、ニーナに言う事じゃないな……。

 いや、ニーナは体が出来たのは今朝だとはいえ、それまで魔力として生きてきた。

 少なくとも俺よりもこの世界に詳しいはずだ。

 だからこそユエさんはニーナの事を責任ある大人として見て言っているのだろうか?


 そういえば軍が一緒に来ているって言っていた。

 ニーナは軍とグルになっていると判断されたのだろうか?

 軍は治安維持を担当しているのだろうから、俺への対応も軍が管轄していた?

 ニーナに言う事も軍に言う事も、同じだと考えたらこの言い分もわかる?


 もしかしたら教会は……いや、もしかしなくても邪教という事はないかもしれない。

 軍も軍で考えた行動をしているだろう。

 教会側は生活の在り方に、軍側は治安維持の在り方に。


 互いのやり方でどこを重視しているのか、それがかみ合わなかった結果の教会側の強行かもしれない。

 この争いは別に俺を取り合って生まれたモノではなく、ただ上層部の人の目に留まる大きい案件としてあったから、行動が表層化したのかもしれない。


 だとしたら俺はどこに居るべきなのだろうか?


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