80、神殿
「神子様、ここがあなた様のおわすべき場所です」
抱えられて降りた先には巨大な西洋風の神殿があった。
神殿から目を外せば緑の芝生、広大な敷地。
緩やかな丘の上にこの神殿は造られているようだ。
周囲に視界を遮るモノは神殿以外にない。
木々などの遮蔽物がないことから侵入の難易度の高さが伺える。
外敵の侵入を察知するだけなら4つ角に1人ずついればいけるかもしれない。
安全を期すなら2人組を組ませてやればいい。
1人がやられている間に仲間を呼ぶ事ができるから。
見える限りこの側面だけでも10人近く立っているので、少数で気づかれずに突破は限りなく難しいだろう。
少人数だと外から攻めにくい。
大人数での行動は隠密性に欠けるので対応されやすい。
そして囚われている場合、中庭が広いため気づかれずに逃げる事は難しい。
遮蔽物が少ないだけで大分要人や宝物などの防衛能力が高くなるのか……。
後は潜入工作員のような存在さえ排除できれば完璧か。
「神子様、こちらにお座りくださいませ」
ユエさんは俺を椅子に優しく座らせた。
そういえばユエさん達は何を望んでいるのだろうか?
小説などの架空の邪教の場合、破壊を望んでいることが多い。
だが現実ではテロリストといって思い浮かぶ宗教の過激派がしているのは、宗教の聖地の干渉を行っている国に対して報復行動に出ているようなイメージだ。
それに便乗して私利私欲に塗れた行動をするバカがいるがそれはそれだ。
いや、それも勘案しないといけないか。
私利私欲に塗れている方は自分達の欲が至上であって、名前を隠れ蓑にしているだけ。
もしこちら側に囚われていた場合、自分達に利益が出るように立ち回っているだろう。
そういう風に使うために動くはず……その場合、俺が子供らしい子供であった方が都合がいいだろう。
またただの過激派の場合、宗教の教義を頑なに貫くばかりで寛容性がないから、もし神子らしくない行動をした場合下手すれば殺されるかもしれない。
どちらなのかの区別はつきにくいかもしれない。
どちらも大きな団体の実動員は敬虔な信者なのだから。
この騒ぎを起こしたトップが狂信者なのか、欲望に塗れた豚か。
誘拐に至るまで行動しているのだから、過激派か過激派もどきかのどちらかだとは思うが、どちらも危険な存在だ。
だが過激派はここまで立派な拠点を作れるのだろうか?
ミサイルがない? ミサイルなんかよりも恐い魔法があるだろう。
ミラ先生のファイアーボールとか思い出してみろ。
撃たせる前にどうにかしなければ終わりの魔法じゃないだろうか?
先生が最強? ……だといいけど。1等級の面々はそんな魔法をポンポンと撃ってきそうなイメージがあるのだ。
生半可な防御方法でどうにかできるものじゃない。
そもそも過激派とは認知されていないんじゃないだろうか?
いや、過激派だとまだ想定は解かないでおこう。
どうして大規模攻撃魔法などが撃たれていない?
撃って壊れていけないモノが収蔵されている?
壊れてはいけない何かってなんだ?
要人の人質とかだろうか?
人じゃなくてもいいか。
国そのものが過激派と迎合している?
いや、そもそも国の中で1つの部署として存在している?
だから攻撃を加えられない?
……管轄が違うから手が出せなかったけれど、自陣にさえ来たらむしろ『お前、手を出すんじゃねぇぞ』って所有権を主張できるとか?
……ダメだ……考える程に選択肢が広がりすぎて絞り切れない。
全部に対策を打つことはできない。
地道に調べて内情を確かめないとダメだ。
まず辺りを調べて情報を集め、どんな存在なのかを予測できるようにしないとだ。
「神子様? おトイレの方は大丈夫でしょうか?」
「行かせてもらえますか?」
「かしこまりました!」
まずは人間観察が重要だな。
憶測だけでモノを判断するのはいけない。
なぜそれをしているのか、楽だから習慣化していることか、経典などに従って行っていることなのか、自分で考えてやっていることなのか、空気に合わせて行動しているのか、それとも人に言われてしていることなのかなど。
周囲との比較をしていけばわかると思う。
俺はおしりを紙で拭くとパンツを履いた。
後ろではユエさんが手を叩いて褒めていた。
なんかこそばゆいけど嬉しいのは何故なんだ。
振り向くと一片の黒さも感じられない無垢で可愛い笑顔があった。
自分の黒さがすごく恥ずかしくなった。






