77、飴
「はいはい、そこ。ニカちゃん、もうもらったでしょ?」
「むぅぅぅ!」
「むすっとしてもだよ~、はい、ソルちゃんどうぞ!」
「わぁ~い!」
「ぅううぅぅっ!」
ニカちゃんと呼ばれた女の子はキー君にポンポンと頭を叩かれ目を潤ませていた。
それにしても飴か。
前世と同じだとしたら砂糖が主成分だ。
砂糖を作る材料は暖かい地方で育てやすいサトウキビや寒い地方で育てやすいサトウダイコンといった植物だ。
主要穀物などの生活必需品に比べて砂糖などの嗜好品は必要性が低い。
砂糖の価格を見れば食事が満足にとれる豊かな国かそうでないかがわかると言っても過言ではないと思う。
砂糖の産地では安売りしていることがありそうだがここは王都だ。
各地の産物が集まる場所にはなっても、食材の産地になることは考えにくい。
むしろ王都価格ということで物価は高くなっていてもおかしくない。
東京に行けば何でも買えるが何でも高いみたいな感じに。
さて子供に飴を配る。それも教会の歌のレッスンの後で。
この歌のレッスンは有料なのだろうか?
わからない。
無料かもしれない。
無料でやるからこそ、人は恩義に感じて何か物品を持ってきて返そうとすると言った流れがあってもおかしくない。
有料だと、『お金は払った、対価は渡しただろう? 十分だ』といった思考の人が増えるかもしれない。
神社やお寺にお参りする時、お賽銭を出す事を躊躇する人は少ないと思う。
特に信心深くなくても周囲の人がしているならば自分もという人は多いだろう。
マイナス方向にも考えてみるか。
邪教が麻薬のような中毒性があるものを入れた飴を教会に提供。
飴自体が高価な嗜好品だからこそ、食べたいという欲求に中毒であることを埋没させる……。
この流れを見たところレッスン後の恒例の行事のようだ。
上手くすれば洗脳などもできるかもしれない。
この飴から考えられることは?
砂糖の価格が低く、日本の駄菓子感覚で渡せるくらいの値段である可能性。
信者の方からの寄付の品でみんなで分けましょうという可能性、砂糖は高価かもしれないが渡せないほどのモノじゃない価格?
邪教の悪しき誘い、いわくつきの楽しみ、表側には露呈していない可能性大、砂糖は高価? いや、安くても大丈夫か。むしろ安い方が安心してシスターさん達が配ることができるだろう。
一概に安いからと言って邪教フラグがないわけではないし、信者は信者でも邪教を信仰している信者が寄付している可能性もある。
この飴は食べても大丈夫なのだろうか?
わからない。
安心安全を考えたら食べない方がいいだろう。
だが1度食べただけで死ぬようなものではない。
習慣化しているだろうこの行列からしてもそれはわかる。
どうする? 食べる? 食べない?
食べないのは異質な目で見られるだろう。
それは今後に影響する? するだろうな。
例えそれが不味い飯でも同じご飯を食べた人はそれをネタに話することがある。
不味ければ不味いで話のネタになるうえ、共感を覚え、親密感を覚える。
宗教の通過儀礼しかり、ゲームのチュートリアルしかり、共通した経験は体験した者同士の話題にしやすいものだ。
中毒性を考慮するなら数日、数週間、間を開ければ代謝されるだろう。
子供の代謝は大人よりも高い。
内臓が成長しきっていないから吸収力も低い。
高分子タンパク質はあまり分解できずほとんど吸収されないだろうから大丈夫かな?
いや少量でも中毒になるものはなる。
アルコールのようにそこまで高分子ではないタンパク質もあるから油断はしていけないな。
「リク君? 飴はいらないの?」
「食べます!」
「じゃあ、はい、リク君以外みんなもらってるの」
カナ先生から手渡された飴は直径が1センチくらいの小さな緑の飴玉だった。
緑……? 何の色だろう? 日本だったらメロン(天然着色料使用)だろうけれどこの世界では何を示しているんだ……。草か? 雑草か? 苦いかな? いや、さすがに苦くはないはずだ。
もし苦かったら他の子供達がこんなに大人しいわけがない。
だがどうする? もし苦味が美味しいと感じる子供が多かったら?
わからない。
ポリフェノール類やシュウ酸、アルカロイド類などが苦味やえぐみの成分だった。
苦いからといって体に悪いモノだとは限らない。
ポリフェノール類は活性酸素の害を減らせる抗酸化力を持っている。
活性酸素は老化の原因とまで言われるものだ。
シミやそばかす、しわの原因になったりする活性酸素を減らしきれいに保つ。
さすがにメロン味なんてことはないだろう……。
ただメロンを飴玉にしても緑色にはならないはずだ。
そもそも品種改良の末のメロンの味だ。
……こちらでも品種改良は出来るか。
美味しくできたモノの種を残していけば自然と美味しいモノに作物は淘汰されていくだろう。
災害に強いモノも残りやすいだろうし、掛け合わせて美味しくて丈夫な品種を作れたらいいな、なんて考えれば結局は品種改良ができることになる。
魔法を使って植物の成長を促進できるのであれば、品種改良は前世よりもかなり早くなることだろう。
より美味しい品種を作ることなどたやすいかもしれない。
そういえばご飯に関してあまり意識していなかったが、意識に上らない程に前世と味に差は少ないということだ。
つまり品種改良は出来ているはずだ。味は大丈夫だろう。
生きるだけで精一杯っていうわけだったらできないことだろう。
ならこの飴も美味しい可能性は高い。
ただこれが何味なのかは……わからない。
「カナ先生。これって何味なんですか?」
「この色合いは……なんだろ? AGAERAかな?GREGWかな? わっかんない!」
カナ先生は茶碗サイズの胸を張ってどやった。
俺も何言ってるのかわっかんない。聞いたことのない単語は薬草の名前かな?
キツネノテブクロとかイヌノフグリとかカラスノエンドウとかトリカブトとかヘビイチゴとかまだ名前がわかる動物の名前が入っているものならまだしも、レモングラスとかユキノシタとかカモミールとかジキタリスとかローズマリーとか言われてもその語感だけで初見ではどういう特徴があるものかわからないし、その単語はまだ覚えていないから色々わからない。
ハーブなんて何千種何万種あるのかわからない。
その中で比較的お茶としての使用頻度が高かったり、お菓子に混ぜたり、料理に使ったり、アロマオイルに使ったり、薬効が高かったりするものは覚えておいて損はないと思うが……まだ関わる機会が少なすぎて知らなすぎる。わからない。
ジギタリスのように強心作用があり弱った心臓の動きを強めてくれる薬草も、正常な心臓には多大なダメージを与える毒になる。
そんなに薬効の強い薬草を駄菓子に混ぜて食べさせるなんてことは考えにくいか。
ただ口の中がスッキリする、ハッカやメンソールのような飴かもしれない。
いや歌のレッスンで舌や喉を使ったからのど飴のような作用を持つモノ?
わからない。
おかわりをしようとした子供もいたのだ。
不味いモノではないだろう。
目の前の緑の飴を俺は口の中に放り込んだ。
口の中には何とも言えない青臭さと甘さが広がった。






