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75、歌の練習

 キー君の話は親御さんまで興味を持った顔で聞いていた。

 キー君は少年だ。なんで? どうして? どうして落語を知っている?

 一般的に広まっているのだろうか?

 分からない。どこまで広まっているのかわからない。

 キー君はどのくらい転生者と関わりのある立ち位置にいるのだろうか?

 分からない。


 転生者は隔離されているという話だ。

 隔離ということは普通にしていたら関われないはずなのだ。

 なのにどうしてそういった話を知っているのか?


 親が隔離場所……話から推測すると王城なのだろう……に勤めているのだろうか?

 いや、それだけじゃ足りないか。

 親が隔離場所の担当官なのかもしれない。

 もしかしたらその職場に出入りしているのかもしれない。

 下手したらキー君は日常的に転生者と関わっていてもおかしくない。

 その場合、転生者との共通点を見つけることもたやすいかもしれない。


「男は言いました。次はお茶が恐いとさ」


 キー君が語り終えると親御さんもシスターも子供達もみんな拍手をした。

 キー君は一礼すると手を叩いた。


「もう全員集まってきたかな? それじゃ、カナ先生」

「そうですねぇ~。いい頃合いなので歌いましょうか~」


 カナ先生の声が教会に響いた。

 その声を合図に子供たちはいっせいに舞台の方へと思い思いに歩き出した。

 小さい子は前、大きい子は後ろ。

 親御さんの多くは「夕飯の準備しなきゃ」など言いながら教会を後にしていた。

 教会に残る親御さんは椅子に座り微笑ましそうに眼を細めていた。


「リク君も一緒にやりましょうよ!」

「まだ聖歌を覚えていないです……」

「大丈夫、一気に全部を歌うわけじゃないし、まだ全部覚えている子は少ないの。だから大丈夫」

「分かりました」


 カナさんに言われて俺も舞台へと向かった。

 目線が近い子の隣に立った。

 体がぷにぷにしていそう。女の子だろうか?

 ……この年齢だとあまり男も女も判断しにくいな……。


「それではまずは口回りの運動だよ。

 『う』って口を窄めて『い』って口角を持ち上げてみましょうか~。

 それでは先生の口元を見ながら、さん、はい『う』『い』『う』『い』。

 あ、喉の辺りに力を入れないようにね~。ここが硬くならないようにだよ~。

 『い』の時に入りやすいから気を付けてね~」


 『う』と『い』は日本語の発音だった。

 口角を持ち上げると言うが難しい……。

 顎の下の辺りの筋肉、奥歯を噛みしめるとよく動く部分に力が入ってしまう。


「頬をこういう風に持ち上げる感じだよ~」


 カナ先生は『い』と言って実際に動かし口角を上へと持ち上げた。

 そして俺の頬骨の上辺りを軽く触り「ここに意識を持っていくと上手く動かせるかも?」と言った。

 カナ先生の指、他人の指という熱を持った異物に強い違和感を感じ意識が集中してしまった。

 触られている部分を意識すると喉に力は入らなかった。


「声は口から出るから、入り口がしっかりするといい声がでるよ」


 カナ先生はそう言って口角をしっかり上げて笑った。


「ちなみにね? この運動は頑張ればこの辺り(頬骨の上)に肉がついて、この辺り(頬の下)がスッキリして美男美女になれるの!」


 カナ先生の後ろの方、親御さんが手で口元を隠してる……。

 そういえば子供達の顔は頬にしっかり筋肉がついているというか、全体的に明るい顔つきだった。

 頬がたるんで、下膨れになっているような子供の姿がない。

 表情筋によって頬がリフトアップされているのだろうか。


「じゃあ、次にお腹に手を当てて口を大きく開けて『あ』って言ってみようね。

 お腹から空気を出してしぼめながら『あ~』言ってみよう!」


 腹式呼吸の歌い方をイメージするためか。

 『あ』『い』『う』は日本語の発音だった。

 この練習方法は転生者由来なのだろうか?

 転生者の関係者と思われるキー君がいるのだ。

 ありえなくない。

 もしかしたら……キー君が転生者の可能性もあるのだろうか?


「あ、喉に力入ってるよ~。お腹に意識、意識!」


 声を出そうとすると意識がいきやすいのは喉。

 だからどうしても突っ張ってしまう子供が出てしまう。俺である。

 カナ先生は俺のお腹をそっと触れて声を出させた。

 カナ先生の指の熱に意識が持っていかれる。

 抱えられたりするのはもうそこまで気にしない。

 けれど少し触られるだけとなるとその1点にだけ意識が集中してしまう。

 お腹がすごくこそばゆい……。


「限界までお腹から空気を出したらいつものお腹になるまで息を吸ってね。

 膨らませないで大丈夫だよ」


 カナ先生は腹式呼吸を使った発声方法を何回か繰り返させた。


「それじゃあ、聖歌を歌いましょうか。

 『彼方におわせし』この一節だけ! お腹から空気を出して一息に、さん、はい」


 ソラお婆さんがいつの間にかピアノのようなモノの前に座り指を走らせると綺麗な音色が流れた。

 ピアノの伴奏に合わせ、聖歌の一節を歌う。

 膨らませるわけではない。吐き出した空気を戻すだけだから一瞬で吸える量の空気。

 自分の出せる音量や一節を歌う時に使う空気の量の配分、周囲の人の声を聞き合わせることを意識する。

 ピアノの音階を聞くことで音の高さを意識し正しい音色を覚えられる。

 そんなところだろうか?


 それにしてもソラお婆さんはピアノを弾けるなら音階はわかるんじゃないか?

 あ、自分の声を使った音の高低の調節が苦手なのか?

 ピアノだったら鍵を打つ力の強さで音の強弱はつけるだろうけれど、楽譜通りに運指を行えば音階はつくからいけるという音階は正確にはつかめないけれどリズムはわかるパターンの音痴とか?


 ……そのパターンの音痴は俺である。

 カラオケで精密採点を使い歌うと正しい音程バーから半分ずれてる事が多い。

 多少は音階はわかるんだよ。でも合わないんだよ……。


「上手、上手! じゃあ、今度は『彼方におわせし』ちょっと息を吸って『我らが土の神よ』って繋げていけるかな?」


 ソラお婆さんの伴奏が始まる。

 息を吸うといったところで大きく息を吸ってしまう子供がいたりした。……俺である。

 カナ先生は笑いながら「惜しかったね。ちょっとだけ、ちょっとだけ吸えばいいの」って言って何回か練習した。

 息を吸う量が正確になっていくにつれて息継ぎのタイミングの呼吸音は小さくなった。


 ……今世も歌は不得意かもしれない。

 自力でチューニングが出来ないなら他人にチューニングしてもらえばいいか。

 この音程、この音程といつかのカラオケの様に精密採点の音程バーとにらめっこをしながら歌うように、誰かに「ちょっとここ高いよ?」「今度は低い」とか指摘してもらえば……。

 ……そんなことしてもらえる人いてくれたらいいな。

 とりあえず出来るだけ音程は自由に出せるように練習するか。


 『不協和音』や『……(何も言えない)』、『……(生暖かい目)』『リズムはいいよ! リズムは!』は悲しすぎる。

 職場の知り合いと行くカラオケのようなお付き合いがあるかもしれない。


 ……機械は町中ではあまり見てないが車のような仕組みがあるのだ。

 オルゴールってけっこう昔からあった気がする。

 ピアノがあるくらいだ。伴奏機械の発展はあってもおかしくない。

 ……下手したらカラオケのようなお店があったとしてもおかしくない。


 そしてここの聖歌のレッスンのように音楽に馴染みがある文化。


 恐ろしい。この可能性は恐ろしい。

 せめて一曲だけでも歌える歌を覚えないとだ。


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