68、壁越しの盗み聞き
「ねぇ、先輩、あたしたちって体よく使われすぎじゃないですか?」
若い女の声。10代後半くらいだろうか?
コンビニのバイトなどにいそうな感じだ。
それと誰かが手元で何かを回しているのかヒュンヒュンと音がした。
この家の裏手側だ。
「しょうがないだろ? 海嘯がない時の軍は戦闘訓練しかすることがないからな」
硬い口調の男性。30代? この低い声は歴戦の風格を感じる。
自身の境遇には諦観し、ただ任務を全うすることが役割だと割り切っている、そんなイメージが脳裏に浮かぶ。
軍だったのか。監視部隊の人たちは。全部が全部そうだと決まったわけじゃないか。
「あぁ、もう暇! あたしたちはここで何しろっていうのよ!」
「子守り」
「子守りも何もその子供が中で、あたしたちは外!
状況を窺うこともできないし、蚊に食われるばかりじゃない!」
「気が立っている理由は蚊か」
「また噛まれた!」
「風で落とせばいいだろう。あぁ、そうか、お前はまだ使えなかったな」
「むぅぅぅ!」
「自然に放出する微量の魔力で魔法を使う。2等級下の魔法が使える。
俺たち、2等級の魔法使いなら4等級の魔法が使えるんだ。
それくらいあれば小さな虫くらいなら追い払うことが十分にできる。
本来は無駄に垂れ流していた魔力だ。負担にならない。
それとだが、この魔法の考案者はあの子供だそうだ」
「そうなんですねぇぇぇ……蚊がうざいっ!」
「早く使えるようになりな。小娘」
「小娘言うなっ! 器用貧乏っ! あたしはもう成人してるんだからなっ!」
「不器用よりかはマシだ。小娘」
「本職から外れた雑用ばかり押し付けられて、本職の功績が足りなくて私と同じ平隊員な窓際っ!」
「窓際言うな、小娘。小隊は小隊でも俺は特殊部隊の小隊の隊員だから一般小隊とは管轄が違うんだ」
「でも三十路で隊員止まりなんでしょ?」
「特殊部隊は技能職なんだよっ! スキルによって給料が変わるから、これでも月200万と一般部隊の大隊長並みの給料をもらっているからな?!」
「なっ……なんだって!私、月40万……」
「一般部隊の平隊員が月30万くらいだからその年齢にしてはもらっている方だ」
「先輩っ!」
「なんだ?」
「ご馳走してくださいっ!」
「嫌だ!」
「え~?」
「はぁ……。じゃあ、魔法使ってそこらの蚊を落とせるようになったら食堂のパン1つ」
「む。ケチ」
「この魔法覚えるだけで奢ってやれるのは精々この程度だろ。
それ以上欲しかったら何か役に立つことしな。
本当に役に立ったと思ったら王宮御用達のケーキワンホール奢ってやるよ」
「ケーキよりもお肉っ!」
「あぁ、はいはい」
「先輩って何をしたら役に立った感じますか?」
「俺の足を引っ張らない。きっちり必要なスキルを身に着ける。
優先的に覚えた方がいいスキル程給料に加算される技能給が高いから、まずはそれらを身に着けてくれ。足を引っ張られたら最悪だからどのスキルをとった方がいいか聞きに来たら答えてやるよ」
「は~い! じゃあ、まずはこの鬱陶しい蚊共をまとめて排除してやる!」
その後
「普通に魔法使ってるぞ?」
「むーずーいー!」
と言った声が響いていた。
「私はいつになったら入っていいんでしょうか……あ、鳥だ。もうそろそろ夏ですねぇ」
家の玄関側から世話役のお姉さんの声がのほほんとした声で聞こえてきた。
縁側のおばあちゃんのようなまったりした優しい黄昏た声……。
それはそうと蚊がいる場所にずっと立たせておくのはかわいそうだ。早く入れてあげないと。
……俺では扉が開けられなかった! 背が足りない!
「ニーナ! 扉開けてカナさんにもう入って大丈夫って伝えてほしいな」






