66、魔力の効率
ニーナは頭を垂れて神妙な口調で「リク殿、それでは今後とも」と言った。
俺は「分かった」と軽く返した。
「助かるのぅ。あぁ、それでは世話役が戻ってくる前に軽くリフォームを行わんとな」
ニーナは顔を上げ辺りを見渡しながら言った。
「リフォーム?」
「世話役を追い出すための方便で、我が言い出した身で悪いのじゃが、リク殿が魔法を使いこの部屋にないがあってほしいモノを用意してもらいたいのじゃ。
何か1つあればそれを準備していたで話が終わらせられるのじゃ」
ちょっとおどけたような口調、けれど下手に出ている。
ニーナは俺の裏の顔を知っている。
後ろめたいことを隠すことや状況に合わせて仮面を被り演じることなど。
ニーナのあの口調もわざと古風にしているかもしれない。
俺の外面の様に。裏で考えていることを隠すために。
下手に動く狸程信用できないモノはない。
何をしようとしているのか、その皮の下に何を隠しているのかわからないから。
今の自分がそうだから余計に他人もそう見えるのかもしれない。
早いところ本性をさらけ出せるように環境を整えないとだ。
いつまでもこの状態では疑心暗鬼になり、心の衛生上よくない。
他人は自分の鏡なり。
他人の嫌なところは自分の嫌なところのことが多い。
他人を見て嫌だと感じたらまずは自分を省みろ。鬼が笑うぞ。
いやもう笑っているだろうな。「お前が言うな」と。
俺はニーナに「分かった」と軽く返した。
今回のニーナの頼みは都合がいい。
現在使える魔法について実践するいい機会だ。
ゴーレムの製造は質量に依存する。
以前は爆発するまでの間に放出出来る量がタマゴ60個分。
今は時間当たりの放出量に制限がないが、量が一定じゃないため魔力を放出する感覚が重要だ。
ニーナに魔力を吸収してもらい観測してもらおう。
必要量だけ返してもらえれば現状は困らないだろう。
敵襲や災害があった際今の俺ではできることが少ないが、ニーナが十分に動くことができるのであれば代わりに対処してくれるだろう。
ここで俺が死んだら少しだが徒労を生じるから。
弱みを握ることや具合のいい魔力を探すことなど条件に合う人探しは面倒だろう。
簡単なゴーレムでも属性の違う魔力を供給されれば火を噴くのだ。
ニーナレベルのゴーレムの場合、大変なことになる可能性だってあるだろう。
転生者であることが現状他人に知られてはいけない弱みだってことが本当に問題だ……。
今のところはネタに強請ることがないが、強請れる状態であることが問題。
早いところ地位を安定させてその程度では揺れない状態にならなければ。
それで今は何を作る?
この場所にあるモノ、あのプラスティックのような材質の大きな机に赤ちゃんベッド、そしてソファのみ。
この材質は道路にも使われていたがすごく準備しやすいのだろうか?
もしかしたら魔法で作られている?
いや、質量で魔力の必要量が変わっていた。
だから量を用意するとなると魔法では難しいだろう。
いや? それでも何かしらの樹液を加工すると考えたら材料の供給量は栽培よりも魔法で作り出した方が圧倒的に量が稼げるのかもしれない。
魔力というエネルギーでモノが作り出せている段階で考えるべきだったが、分子とかどうなっているのだろう?
もしかしたら魔力というエネルギーを物質化することは効率が悪いのではないだろうか?
もし仮にエネルギーを物質化しているのではなく、空気中の原子を核融合や核分裂を起こして物質に変換しているのだとしたら、放射能とか生じていそうなうえ必要なエネルギーも膨大になって当然だ。
……そういえばミラ先生のファイアボールはどの程度の魔力で作られていたのだろうか?
ニーナを作り出す時の魔力を見て呆然としていたくらいだ。
ファイアボールの魔力量はニーナを作るときの魔力量よりもかなり低いだろう。
紫色の火であり、あの広範囲を滅ぼし尽くせるだろうファイアボール。
あの威力を出せる量の魔力の何倍、下手したら何十倍、何百倍の量の魔力。
だがそんな莫大な量の魔力を使っても体高2m程度のゴールデンレトリバーにしかならない。
質量への変換は非常に効率が悪いのではないのだろうか?
既にあるモノに情報を付加すること。
こちらは簡単なのだろうか?
ベビーベッドに視線をやり考える。
これを浮かばせたりすることは出来るだろうか?
母さんは自身の体や乳母車を浮かばせて移動させていた。
母さんの魔力量は3等級。
つまり少ない量の魔力でもそういった魔法を使えるということだ。
それだけじゃつまらないな。
ありきたりだ。
いっそのことこの一軒家をゴーレムの様に意識を持たせて防犯を行うことができるかや防音や耐震・耐火性能などを上げて秘密の話がいつでもできるように改造するとかやった方が面白い。
こういった魔法を使うにはどんな情報が必要なのか、どれぐらいの魔力が必要なのか。
そういった事が聞くことができるニーナという魔法の担当者がいるのは本当に好都合だ。
「ニーナ、ちょっと質問。試したいことがあるから可能か不可能か答えて欲しいな」






