65、意図
「なんで?」
「我はこの状態では魔法が使えぬ。
魔力は生体内に入って力を蓄えたモノでなければ魔法としてエネルギーを使えるモノにはならぬ。
この空気中にも魔力はあるがエネルギーを放出しつくしたものじゃから爆発を起こさぬ。
ゴーレムの中にある魔力も魔法使いがため込んだ魔力以外はエネルギーがないのじゃ」
「なるほど」
「じゃからの。魔力のタンクとして活用してもらえればリク殿は魔力の制限がなくなる。我は元気になるでウィンウィンの関係になるのじゃ」
「そうなのか。ちなみに魔力の受け渡し方法は?」
「リク殿は我に向かって魔力を打ち出せばよい。さすればこの毛皮がその魔力を吸収してくれるのぅ。
我の毛皮の下にリク殿の右手の魔力の穴を触れさせれば魔力を送れるかの。
我は毛皮が内部に向かって行く魔力の流れを作り出されておるから、毛皮のある場所からは魔力を放出することが出来ぬ」
メリットとやり方はわかった。
だが目的はなんだ?
魔法を使いたいのか?
身動きをとれなくなりたくないだけなのか?
それとも何か他に目的があるのか?
そもそもだ。
元々は魔力としてそこらをほっつきまわっていた存在だ。
だがなんで体を持った瞬間に従属しようという思考になった?
俺は確かにゴーレムを作るとき俺の言うことに従えなど盛り込んだ。
守れなど命じた挙句下手な行動をされたら困るから命令に従えだったが、それはあくまでゴーレムとして動くなら発動するようなものだろう。
元々自我がある魔力がそれに従う理由がない。
その条件をまじめに飲み込んだ魔法を作る理由がない。
体の内側に密封していた魔力の中にニーナがいたという。
本来魔力として好き勝手出来た存在がそんな状態になれば窮屈さを感じないわけがない。
恨んでいてもおかしくない。
生体内にあるエネルギーの高い魔力がなければ動けなくなるから従っているのかもしれない。
補給できる手段が得られればいつでもぷちっとその体でつぶすことができるだろう。
考えれば考えるほど不審な存在だ。
頭の中で危険を感じる部分がある。
だが現状、この話を受ける以外に道はあるだろうか?
ニーナの管理という責任がある以上この一軒家から逃れる術はない。
そしてここにいるのはニーナと俺だけ。
暮らすとなるとお手伝いさんが1人ついてくれるようだが抑止力になる存在にはならないだろう。
危険は多いだろう。
だが現状、腹の内では何を考えているかわからないが、手を組もうと持ち掛けてきている。
つまり同士だと考えてもらいたいのかもしれない。
いや、まずだ。
現状、ニーナはゴーレムとして実体化しているのだ。
それ自体、イレギュラーなことだろう。
そして味方にできる可能性があるのは?
一番わかりやすいのが俺だったんじゃないだろうか?
もしここで俺以外を選んだ場合どういう風に対処するのだろう?
判断に困る。
それにフルにチャージして十分に稼働できる時間は2日。最大で2日だ。
俺の中にいて俺が転生者だと知っていることを考えれば、このデータも知っていることだろう。
ニーナは現状のエネルギー残量から考えて創造されたあの場から逃走する選択肢は持っていなかったのだろう。
逃走した場合魔力の供給がなくなるから動けなくなるのだ。
また外部へと出ていくこともできない。
動けず出れず。
つまりゴーレムは何もできない牢獄と化す。
俺がゴーレムを作り始めた段階である程度今後自身がゴーレムの中に閉じ込められる危険性があることを認識していたのなら、この手際も理解できる。
つまりこの流れはニーナにとっては予想済みの展開だったのだろう。
じゃあ、今後俺はどうすればいい?
ニーナを使役するのは危険だ。
だが現状すぐ開放することができない。
やり方がわからないから。
また今の俺には力がない。
自分を守る力が。
今後転生者であることがばれるかもしれない。
だがその時に危険な異分子ではない、役に立つ存在だ、そう認識されていれば排除されることはない。
だがそれが間にあわなかった場合、力がなければ簡単に排除される。
できることは?
ニーナの提案にのり、力を蓄え、自身を安定した立ち位置にすること。
ニーナにこれ以上恨まれる可能性を減らすこと。誰かに乗り換えればいい、そう思わせないようにしないといけない。乗り換えの利かない存在にならないといけない。
強くならないとだ。
魔力量が減った分、魔力を操ることも簡単になったことだろう。
外部にタンクが出来た分、以前よりも魔力自体の限界量は増えたと思ってもいいだろう。
魔法をどれだけ器用に扱えるようになるかが肝だ。
「わかりました。僕のタンクになってください」






