64、一軒家
ニーナがいたことで王都の検問で一時魔物かと騒ぎになったが、裏ボスが守衛と何事か話すと静かになった。
裏ボスに連れられて来た先は王都の中央付近にある大きな館。
その裏手にある一軒家だった。
「すまないが急なことだったので用意できた場所はここだけなんだ」
「かまわない。改造するのはいいじゃろうか?」
「ああ、問題ない。そのくらいいくらでもしてくれ。ただ庭の外観はあまり崩さないでくれよ?」
「配慮しようかのぅ」
一軒家の入り口はニーナが入れる程大きい、扉は温かみのある木目のスライドドアだ。
裏ボスがスライドドアを開けると中には小柄な女性が1人。
「彼女は君たちの世話役をするカナだ」
「よろしくお願いします」
彼女はにこりと微笑んで柔らかい声で言った。
「何か用があったら彼女に言ってくれ。私は用があるのでここでいったんおさらばさせてもらう」
裏ボスは一軒家に入ることなく館の方へと消えてった。
ちなみに現在俺がいる場所はニーナの首輪に吊るされたかごの中にいる。
首輪の鈴になった気分だ。
首輪とかごは監視部隊の人が魔法を使い即興で作ってくれたものだ。
揺れるか? と思ったが案外揺れなかった。
思えば犬の首についている鈴が鳴るのはわざと振動を起こしている時だけだ。
反動をつけて跳ねたり、変な風に走ったりしない時は歩いていても小走りしても鈴は鳴らない。
肉球先生が反動を殺すうえ、重心を崩しにくい四足歩行だからあまり揺れないのだ。
「カナ殿? すまないがちょっと席を外してもらえるかの。
済ませたい用事があっての。そこにいられると危険なんじゃ」
「え? 危険ですか?」
「うむ。危険じゃ。ちょっとこの一軒家で確認したいことがあっての」
「あ、はい。わかりました」
「ありがたいの。壁もちょっと確認するから離れてくるかの?」
「はい、わかりました」
カナさんが出ていくとニーナは非常に高い音で床に向かって吠えた。
音は一軒家を細かく激しく揺らし、俺のかごをピリピリと振るわせるとすぐに静まった。
「これでよい。少しの間、壁に触れていたモノはしびれて小さな音を聞く余裕はなくなっていることだろうかの。今のうちにリク殿と内緒の話がしたい。話は短く済ませるからの」
ニーナは首輪からかごを外し目線を合わせ、真剣な口調で言った。
「リク殿は転生者じゃ。我はリク殿の中で過ごしてきたからよく知っておる」
坦々と切り出された内容は人に聞かれてはいけない秘密だった。
しかしニーナの話は秘密を知っているといった内容で終わりじゃなかった。
「リク殿の体についてじゃが、今は圧縮なしで魔力の等級で言えば容量は2等級上位が限度。
元々の適性では成人しても上限が3等級下位じゃったから大分伸びておるが1等級には届かん。
密閉と圧縮を行ってようやく1等級下位に届くくらいかの。
他の魔法使いと同じで器に穴を開けてしまったからもはや完全な密封は出来かねる。
じゃから以前の圧縮率には届かんぞ」
やはり穴を開けるのは間違いだったのだろう。
それに元々の適性低いな……。等級差は1つで容量100倍だったか。
本来の容量から見れば100倍と随分と増えてるが、魔法を使う前の100分の1程度しか容量がない。
「そこで提案なんじゃが我を魔力のタンクとして利用せよ」
意味が分からない。ニーナのメリットが分からない。
何をしたいのだろうか?






