63、綱渡りの交渉
「情報か……」
「そうじゃ。役に立つだろう情報か面白き情報であれば何でもよい。
月に3つくらいでかまわんの。重複はカウントせんが」
「月に3つ?」
「そうじゃ。あまり数を要求するのも何なのでな」
もう既に譲歩はした。お前はこれくらいの事も叶えられないのか?
ニーナが言外にそう言っているのだろう。
実際、そういう風に裏ボスも捉えているのではないだろうか。
頼んでいるのが裏ボス率いる行政側、頼まれているのがニーナつまり魔力。
魔力にある意思の存在自体が今まで認知されていなかった。
しかし認知してしまったことで前例のない、立場不明の存在が出来てしまった。
ニーナの言葉を信じるなら魔法の成功や失敗を操れる。
1等級魔法使いの魔法が失敗するようになってしまえば被害はどうなるだろうか?
また魔法が使えない状況下になってしまえば度々起こる海嘯に対処できなくなってしまうかもしれない。
対応を考えなければいけないうえ、自分に判断の権限がないことだったからミラ先生は戸惑い、精神的に大分追い詰められてしまった事だろう。
そして判断の権限が多少ある裏ボスは交渉でできるだけ損失が出ないように進めなければいけない。
ここでの判断が後々「上の者がそう決めましたので」とお役所仕事ができる基準になるのだ。
譲歩しすぎれば実働が困るし、譲歩しなさ過ぎてへそを曲げられたら大事故発生の危険。綱渡りだ。
「どの程度の情報でカウントしてくれますか?」
「ん? そうじゃな?」
ニーナは小首をかしげていた。
ただのゴールデンレトリバーがやれば可愛い仕草も、考えている内容が内容なので内心ドキドキモノだ。
周囲は緊張に包まれて静まり返っていた。
そういえば今更だが裏ボスの名前知らない。
裏ボスって現場指揮官だからむしろ表ボスみたいに思えてきた。
「人間関係も面白いのぅ。今まで自分で見聞きしてるばかりじゃったから、他人から聞いてみたいのぅ。
それと魔法関係は我の専門分野じゃからいらんの。
それよりも今、人間の世界がどこまで広がっているのか、他人の口から聞いてみたいの。
自分で見聞きした情報は自分の主観で染まっておるから、どういう風に感じたのかそういった多少色のついた情報を知りたいのぅ」
「わかった。それなら条件を飲もう。」
国家の重要案件には単体では至りにくいが、集まってくるにしたがって重要案件の外形がつかめる。
初めの条件に役に立つ情報や面白い情報であることや重複禁止があるのがここで生かされてくる。
既に知っている情報だとか、ありきたりな話だとかはカウントしないと言い張れる。
だが上手くかわせば重要案件は隠せるし、守秘義務を順守することもできるそんな内容だ。
「それで今日は我とリク殿はどこに泊まればいいんじゃ?」
「今の間に場所は用意したので私共のところへついてきてもらえるか?」






