59、ガーディアン
「いいか? 魔力の放出は身体の中から穴を通して一気に出すイメージだ。
必要な分だけ出した後はちゃんと閉める。
アタシの場合は手のひらに穴が開いているイメージをしている。
出しやすいところから出すのが1番だ。
穴から放出した魔力を魔法に変えてやればいい」
手の上に白い火の玉を出しながらミラ先生は言った。
わかった、つまり器の一部に穴を開ければいいんだろ?
開けた穴から一気に放出。
放出した後はすぐに穴は閉じる。
器は柔らかい。固くない。塞がる。魔力はずっと流れ出していかない。信じるのだ。恐い事は起こらない。
ミラ先生を信じて。
ミラ先生は流失して魔力がなくなったりしていない。
俺は込み上げる不安に吐き気を覚えた。
俺はイレギュラーだ。
本来生まれるはずのない、期間外の1等級以上の魔力の持ち主。
そのイレギュラーの理由はなんだ?
それは魔力の拡張を自己の認識で行ったからだ。
そして魔力を溜め込み流失しないようにすることで、俺は高い魔力を保持することができた。
しかしだ。
言い換えてみれば、魔力を溜め込んだ結果1等級以上の魔力を持てただけで、元の素養は1等級ではないのかもしれないのだ。
もしここで魔力を解放したら、魔力は本来持つ予定だった量までしか保持できなくなるかもしれない。
この場合はどういう扱いになるのだろうか?
2や3等級、場合によっては4や5、最悪魔力を保持できなくなるかもしれない。
この場合、別の意味で監視対象にされるかもしれない。
死ぬことはないかもしれないが、一時は危機すら感じさせた貴重なサンプルとして、死ぬまでモルモットとして自由がなくなるかもしれない。
それでいいのか?
そんな状態になっていいのか?
もし魔力が溜め込めなくなったらどうする?
自由が脅かされる。
もし魔力の流失が止まらなかったらモルモット……。
流失は止めないといけない。
もし魔力がなくなったら俺を護ってくれるモノがほしい。
ミラ先生を信じられないわけじゃない。
母さんや父さんを信じられないわけじゃない。
でも近くにいられない時なんてたくさんあるだろうし、立場上の問題もあって護れない時だってあるだろう。
俺はイレギュラーだ。
そもそも護ろうと思ってもらえるか怪しい。
護ってくれる仲間がほしい。
常に一緒に過ごす仲間がほしい。
例え他の誰が敵になろうと俺を護ってくれる仲間がほしい。
力一辺倒だとより大きな力に容易く圧倒される。
多少力が弱くても、知恵があれば打開できることが多い。
初めは弱くても、成長できるなら、打開も夢じゃない。
今の俺の魔力を全て使って最高の仲間を作ろう。
半端な仲間は俺を護れないだろうから。
今は言葉を話せなくても、知識が少なくても、できることが少なくても覚えていってもらえればいい。
知能が高い仲間だ。
育てることも視野にいれよう。
人類にとって古きパートナー。イヌ。
前世では人間よりも慣れ親しんだ友達。
彼ら以外では大なり小なり隠し事が出来てしまう。
彼らがほしい。
親が理不尽に怒れば間に入って護ってくれた。
1人で座っていたら静かに寄り添ってくれた。
人間にはできなかったけれど、彼らになら甘えることができた。
撫でたり、抱きしめたり、散歩したり、旅したり……。
俺を護り、俺を支え、俺を助けてくれた、俺の友達。
記憶のままの彼らがほしい。
魔力の限り強化して、強く賢く可愛らしくそして落ち着けるように。
俺を助けてくれ。
俺は手のひらを前に構えると躊躇いなく全ての魔力を放出した。






