58、決断
「リク君は普段魔力を放出しない。
しかしアタシたちが普段しているように放出すると魔法を使える。その魔力量故に。
アタシは魔法を使っている以上そこまで大きく問題としてとらえていなかった」
ミラ先生は車を停めて向き直っていた。
優しい目をしていた。
だけれども真剣な声色をしていた。
「だがな。それは魔力を消費するほどの魔法を使っていない事と同意義なんだ。
だからいくらその魔法を使っても暴発のリスクは消えない。
お願いだ。魔力の放出の方法を変えてくれないか?」
ミラ先生は少し頭を下げていた。
まだ2歳。もうすぐ3歳とはいえ子供にだ。
一個人として認めてくれている。
いろいろと突っ込みたいが、それどころじゃない。
魔力の放出方法に突っ込まれた。
けれどいずれいわれる問題だった。
思ったよりも早かった。
だがどうする……。
この方法でまだしたいことが多い。
でもやらないと暴発のリスクで危険視される。
下手すれば殺されるかもしれない。
魔法の訓練の際に十分な準備をしているのだ。
監視部隊の人数を増やせばたとえ殺されても被害を出さずに治められるのではないか?
死ねばそれまで……。
少ない魔力の量でできる魔法なのだ。
だから他の人にも今俺が使っている魔法は使える。
この魔法は誰かに使ってもらえればいずれ人間サイズのゴーレムも作ってもらえるかもしれない。
面白がってくれる人がいればいけるだろうか?
俺は……そうだな。巨大化させてみようか。
質量で魔力の量は決まっていた。
巨大化させれば使えるかもしれない。
ロボ……作れるかもしれない。
パーツ毎に作っていくから、合体ロボみたいに作れるかもしれない。
戦隊モノみたいに変形機構を組み込んだり……。
色々大きくても夢が広がるな。
計測はまだ途中だから魔力の放出量からどれだけの質量を作り出せばいいか正確な量はわからない。
けれど予測質量は出せるから大丈夫だとは思う。
「わかりました。魔力の放出の仕方を変えます」
ミラ先生の表情は緩み唇の端が持ち上がった。
そして俺の頭をなぜた。
「ありがとう。本当にありがとう」
すごく安堵した表情だった、
ミラ先生は車を再び動かし始めた。
先ほどまでよりもゆっくりとした動きだった。
「今の魔力の放出の仕方はいけない。
だから正しい魔力の放出の仕方を覚えないといけない。
事態は割と急を要するから、明日やるよ」
「明日ですか? わかりました」
大分、話が急だ。
もしここで魔力の放出の仕方を変えないという選択をしていた場合どうなっていたのだろうか?
監視部隊の都合もある。日程の変更はしにくいだろう。
いや、人数が少なかったとしても、都市から離れた場所で練習をしているのだ。
どの程度抑えられるかはわからないがある程度は抑えられるだろう。
都市に被害が出ない程度には。
暗殺になったとしても。
暗殺になったとしても『魔法の暴走に巻き込まれて』で書類上は事故死になるのかもしれない。
もしかしたらミラ先生は明日死ぬかもしれないと思っていたのだろうか?
だから誠心誠意の対応をしたのかもしれない。
年齢とは異なるものの1人の人として意見を言ってほしかったのかもしれない。
それができるだけの人だとも認識していたのかもしれない。
今回の話は運命の決断だったかもしれない。






