5、歩けるようになる頃
たくさん飲み、いっぱいハイハイし、へその辺りの感覚を鍛え、言葉を聞き覚える。
そして寝る。
やりすぎればオーバーワークになり、体を育てるどころかむしろ体を損ねるので注意。
俺が目指しているのは、俺の最良の状態でどこまで登りつめられるかだ。
体を損ねてしまえばそれは最良とは言えない。
体の中で動かしていた魔法の源。
これ、食事の際に胸の辺りに移動させておいたら、食事で新しくできた魔法の源がへその辺りに溜まりだした。
胸の辺りに移動させていた魔法の源をへその辺りに移動させるとお腹が痛くなってしまった。
1か所に貯められる量には上限があるようだ。
けれど別の場所に移動させると魔法の源はそこで安定してくれる。
ただ移動させる程に魔法の源は量が少しづつ減ってしまう。
放っておいても量が徐々に減ってしまう。
とりあえず魔法の源は移動させられる場所に移動させておいて貯めこもう。
何か使い道が思いつくかもしれない。
あって困ることは少なくてもなくて困ることは多いのだから。
母さんは俺を見ながらつぶやいていた。
その言葉が何を意味するのか俺にはまだ知識がない。
母さんの表情は楽しそうであり興味深そうだった。
悪いことは言っていないだろうと思う。
誕生からだいたい6か月くらい経った、この頃絵本を読み聞かせてくれるようになった。
言葉に合わせて絵に指を向けたら「そうそう!」という感じで母さんは俺の頭を撫でて褒めてくれるのでうれしくなって自然と笑いがこぼれてきた。
単語もたくさん覚えられてそろそろ日常会話くらいならできる気がしてきた。
まだ舌が短くてか「あー!」とか「おー!」とかしかしゃべることができないのだけど。
そんな調子の声を出す度に母さんは楽しそうに笑った。
俺もつられて笑った。
魔法の源だと思うものをとりあえず魔力と呼ぶことにする。
この魔力、へその辺りから胸の辺りに動かしていった時はよくわからなかったが、今は、硬いけれど力をかければへこむ粘土のような壁に魔力というボールを当てて部屋を広げていく、そんなイメージを想像している。
あの時はへその辺りに大きな部屋、そして移動させていた時にできた細い通路、そして胸の辺りの部屋という3つだった。
大きな部屋に上から物を突き込めばそれは痛い。
部屋はそんな簡単には拡張しないから。
むりやりやれば部屋の壁を壊してしまうそんな気がしてならない。
ただゆっくり時間をかけてボールを押し付けていくと部屋が広がる。
部屋が広がるほどボールは数を増やすことができてまた充満していく。
この部屋が体を超えて外につながったらどうなってしまうんだろうか。
穴が開いた風船のようにいくら魔力を取り込んでもすぐに抜けて消えてしまうんじゃないか?
俺はそんな予感がして皮膚の下、ギリギリまでしか部屋の拡張はしなかった。
1歳になった時皮膚の下の隅々まで魔力が存在するような状態になった。
そして俺はその頃しっかりと歩くことができるようになった。