53、神経発達の重要性
大玉転がし。
玉を転がすにはただ押せばいいというモノではない。
突きの様に真っ直ぐ手を突き出しても転がらない。
斜めに手を押し上げないといけない。
そして転がし続けるためにはその場で立ち止まってはできない。
歩かないといけないのだ。
ただ押し上げるだけなら大玉に体重をけっこうかけてもいいだろう。
その後バランスを崩して倒れてしまう。
歩くというのはただでさえバランスを崩しやすい動きなのだ。
立って歩くだけならそこそこはできると思うが、足の踏ん張りが弱いから倒れやすい。
今回は足の踏ん張りも鍛えて倒れにくくするためのモノだ。
つまり体重のかけ方やバランスのとり方、力を入れられる歩き方を覚えられるいいトレーニングだ。
より効率の良い大玉の転がし方を覚えれば、それだけで体がしっかりしたモノになる。
車の中で鍛えていたのは歩く時のバランスのとり方じゃない。
立つ時のバランスのとり方だ。ひどい揺れの中でつかまり立ちするトレーニングだ。
別にルイ君に口の中に手を入れられたくないだけでやっているわけじゃない。
猪突猛進ではできない、そんな動きをすることで考える習慣をつける目的もある。
それに体格が近い人はルイ君が初めてだ。
これでようやく競争相手が見つかった。
今まで大人ばかりで身体能力の比較相手もいなかった。
これでようやく巻き込める相手が出来た。
ただ思う。言葉が通じない相手って苦手だ……。
早く言葉が分かるようになってほしいな……。
普通の子供って自分に興味のあることから覚えていくよね?
なら興味を覚える内容を作って単語、単語覚えていってもらうしかない。
そうしたらいずれはちゃんと言葉が通じるようになるよね?
少なくとも「ボール」「遊ぶ」は理解していると思う。
サクさんが「ボールで遊ぶ」って言ったらボールに飛びついていたくらいだ。
「転がす」は理解していなかったみたいだけれど、俺が実演したらできるようになっていた。
たぶんもう覚えてくれたと思う……。
簡単なレクリエーションから進歩させて、徐々に複雑な遊びをしていき、ごっこ遊びとかやっていけばコミュニケーション能力が上がっていくかな?
今の段階ではちょっと俺の方が有利かもしれない。
だがそれは今の段階でしかない。
この時期は体を支える以上の筋力がつくわけじゃない。
体を支えるために必要な筋力を誤認識させてちょっと多めにするくらいの事はできるかもしれない。
でも必要分だけしかつかない。他の栄養は成長に使われるんだから。
成長を阻害しかねない以上むしろ余計な筋肉は必要ない。
神経の発達が重要なんだ。
触覚や視覚、味覚、痛覚、聴覚。
これらが幼少期に正常に発達しないと感覚統合が上手くいかなくなる。
感覚統合。
文字通り感覚を統合することだ。
中枢神経に来る複数の感覚を統合し、末梢神経に伝え運動をさせる。
感じること。その次に感じた事に対応するために姿勢や筋力や眼球運動ができるようになる。
そして体の全体像を想像できるようになり、運動コントロールの基礎ができるようになる。
さらに細かい指の動きや言語機能がその次に発達する。
幼児期に起きる本当に重要なイベント。
ここでどこかのイベントが抜けると不器用になったり、勉強面に障害が生まれたり、力のコントロールが利かなくなったり、反応が遅くなったり、過剰になったり、挙動不審になったりしてしまう。
感覚面の強化。姿勢の調整。末端器官の精密操作。
ここは本当に欠けてはいけない。
前世の俺は少しこの感覚統合が上手く出来なかった。
今世では失敗したくない。
だから
「ルイ君! 勝負だ!」
あらゆる感覚を鍛えないといけない。
感覚統合って調べますと今回の話の裏付けがとれますね






