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381、ニーナ「腹の上でなにやってるの……」

「もふん」


 思考がとろけている。俺には話すことが分からぬ。俺は本しか読んできておらぬヒトデナシである。

 まともな人付き合いなどしたことがない。けれどもパーソナルスペースには人一倍に敏感であった。

 いや、メロスよりも王側だな。人を信じられない王様か。


 そういえばメロスのどこに人を信じる要素があったんだろう?

 いくら読んでもあれは狂人しか見当たらなくて悩んだな。

 いきなり竹馬の友とまで言った相手を事情も分からぬ状態で人質にするし。


 まぁ、王の手による山賊もどきが襲い掛かるとか、天災でキツい状態である事は確認できるか。王目線で。

 でもだとしても色々厳しくない? 他にも追手がいて、結婚式をちゃんと挙げる様を見ていたりしたのだろうか?

 何人態勢でメロスを監視していた設定になるのだろう? メロスの監視役がいると思ったら別の意味で面白くなるな、これ。


「もふもふもふ!」


 とろけた顔で見てくるぬいぐるみ。ぬいぐるみなのに表情筋が豊か過ぎる。

 疑似的な筋肉を布の下に作って動かしているのかもしれない。

 こういう風に筋肉がつくだろうという記憶が魔力がそういう構造を作っているのか?


 体のサイズが違うというのに、記憶だけで応用が利くのだろうか?

 魔力が忖度して曖昧な思想を明確な構造体に落とし込んでいるのかもしれない。

 いや、魔力の意思を対応してくれるのだろうか? ゴーレム体の構造的に対応できるとしたら不思議な気がする。


 分からないことが多いな。まぁ、これは思考の脱線なのだろうけど。

 今の状況を解決するためにまるで役に立たない。

 存在の排除やいい感じに誘導するために利用するためには使える可能性はなくもないが、それをするのは根本的な解決にはつながらないのだ。


「もふ」


 自分が何を言っているかももう分からない。本当に。

 思考がとろけてしまいそうである。これでいいのか?

 いいのかもしれない。だが話は進まない。


 何かしなきゃと焦りすぎているのか?

 何者かになろうと焦るから何者にもなれない。

 だが何者かになりたいと思わないともう俺は変われない気がする。


 好きが高じてその道の第一人者になる。

 俺の本当に求める道はきっとこれなのだろう。

 これが自然な姿な気がするから。でもたぶんなれない。


「もふもふもふもふ!!!」


 俺は考える癖に諦める。疑問も諦める。諦めて見なくなる。

 今試せないなら後回しにする。でもってそれを試す余裕がないと諦める。

 些細な事を諦めて見ないなら今以上の発見は出来ないだろう。


 人の見解を鵜呑みにし、自分の見解は人のふんどし。それでいったい何かを見つけられるだろうか?

 誰かの発見の上塗りしかできない。上塗りも大事といえばそうだが、盲目の上塗りは事実を見えにくくする。

 自分の目を閉ざし「誰それが言っていたからこれは正しい!」とバカの一つ覚えの様に宣うのはしたくないものだ。


 出来ない事を諦めて別の手段を模索するのは大事だ。時間は有限である。

 自分にいくら時間があっても、協力者になってくれそうな相手には時間がない。

 相手の都合は自分の自由にできるモノではない。だからこそ時間は大事だ。


「もふ」


 思考が机上の空論で空転している間に計算式の1つでも考えろ。

 計算式が合うかどうかは試せばわかる。物理なら計算式はいくらでも数字が出せるだろう。

 でもただ考えるだけでは何も発見できない。


 再現可能な実験かどうか。条件を各種切り替えて予想と違う結果が出てきた時、何が影響してその結果になったかを推測。

 室温で実験して成立しなかった実験。論文を出した国の気温が常温よりも高かったから成立していたという話もあったな。

 そこからその物質の活性化する至適温度が推測されるとかだったか。


 思考の脱線が激しい。空転している。

 実験が足りない。行動が足りない。それだけの事でしかない。

 それを考えるために無駄な思考を挟んだ。意味がない。


「もふん! もふもふもふもふ!」


 いつまでもふもふ言えばいいのだろう? 何をしたいかわからない。

 飽きている気がする。いや、そもそも始めから乗り気ではなかった。

 ただ何を言えばいいか分からないから、そう返していたのだろう。


 自分が求めているモノへ向かう方策が分からない。

 自分の中で完結する様なモノではいけない。

 俺の求めているモノはそういう類ではないから。


 そもそも自分が求めているモノが状態である以上、それは目標設定に不適である。

 求めている状態というのは自分1人で完結できるモノではないから。

 しかも一時的にそういう状態になるだけではいけないのだろう。それは叶うわけがない。


「もふ」


 人は変わる。生物はどうしたところで変わる。ずっと同じ姿、同じ生態をしているわけじゃない。

 周囲の環境も移ろう。いつまでも同じ姿を保つ事はない。深海に潜んで何万年と姿を変えずに生きた物も、地殻変動などで地上に現れる事だってある。

 年齢によって出来る事、移動範囲は変わる。ゴーレムになって姿の変動を止めた俺だって、精神的に変異していく事を止められやしない。


 生きるというのはそもそもが変化だ。

 生まれ、歩き、自由が増え、そして不自由が増え、それを伝える。

 変化を重ねて、それに適応し、次代へと伝え、生存に適した姿へとなる。


 環境は変わり続ける以上、完璧なモノ、変化がないモノは存在しない。

 変化がないモノは何かしらのムダが生まれ、常に適応を重ねていくモノに比べ、その環境下では劣った存在となる。

 まさしく今の俺がそれだろう。過剰な力は社会に生きるにおいて邪魔でしかなく、周囲からエネルギーを奪える闘争状態においては役立つこの体も平常時だとエネルギー不足に怯えるばかり。


「もふふふ」


 これでいいのか? よくない。だから悩んでいる。

 とりあえず短期目標を決めたい。まずはそれを1つ完遂する。

 それができれば苦労はないが、やる事を考えるべきだろう。


 このもふもふ言っている状態を終わらせるのが大事?

 しかしコイツと仲良くする事が現状の脱却につながる気がする。

 気がするだけにこの意味不な状態が悩ましいのだが。


 このもふもふで何か実りある会話が出来るわけがないだろ。

 どうすればいいのかが理解ができない。気が狂いそう。

 いや、もう狂っているか。気が狂っていないわけがないな。


「疲れた」


 言葉にすると本当に疲れた気がする。いや、実際に疲れているか。

 苦手意識が強すぎる。行動の仕方も思いつかない。

 ここからどうやって未来にプラスな行動が取れるというのか。


 このぬいぐるみの人格とか諸々想像しきれていない。

 いや、違う。何をどう話せばいい関係になるかが分からない。

 それも違う気がする。そもそも相手に何も求めていないから、してほしい事が想像できない。


 いや、そもそも何かをしてもらう前提で、その状態に陥ろうというのが間違っているのだろう。

 だがそういう風にしか考えられない俺が間違っている。

 そういう風にしか生きてこなかった自分が悪いのだから。


 利害で判断する事はとても楽だ。信用とかも結局は利害で判断できる。

 だが人間という生き物は利害で生きている癖に、それが露骨だと忌み嫌う。

 業突く張りだの、守銭奴だの、吝嗇家だの、けちんぼだの……財を適切に運用しようと思うモノを誹る言葉は山のようにある。


「んなぁ」


 自分だけを見ていると足元をすくわれる。表面的だけでも利他な振る舞いが必要。

 その思考ができるかは微妙。身内と考える範囲が狭い。敵対者か? と思ってしまう。

 そういう部分がバカだろう。そもそも近寄るモノだいたいを敵寄りの存在だと薄っすら認知しているに近いのだ。


 積極的な敵対行動を受けたならともかく、勝手に敵認定して牙をむいて威嚇している。本当にバカだ。

 少なくとも現状では敵と認定する理由がない。あるにはあるが、それは勘違いの可能性が高い。

 根本的に気を許す関係になれるわけじゃないのだから、適度な範囲で味方認定して緩くふわふわな関係を築くべきである。

 というかむしろその範囲が普通の人が言う友達の範疇なのではないだろうか? 完全に味方だと思った辺りで親友か?


 友達の定義で悩むのは陰キャ。陽キャはとりあえず少し話せば友達だという。

 そういう論説を聞いて自身の陰キャ具合を思い知らされたのはいつからだろう。

 どうでもいい思考に悩まされている時点で空回り。何もよろしいことはない。


「近くに来てもいいから静かにしてくれる?」


 リク君からもらえるだろう仕事だけか。現状変わる要素があるとしたら。

 それがなかったらもうどうにか飛び出す以外の選択肢がなくなる。

 リク君……早く仕事をくれ。それまではここの本を読んで過ごすしかない。


 本を読むのは楽しいが、それだけでは腐ってしまう。

 それだけで生活ができる程、俺の維持費は安くはないだろう。

 自分の維持費くらいは自分で稼ぎたい。できれば自立したい。


 この体だと必要とするモノの関係上、自立が難しいというのが難点なのだけれど。


「やった~!」


 ……このぬいぐるみがやっぱり不穏だと思ってしまう。





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