380、寝たい。
頭がはっきりしない。クソみたいな思考しか流せない。
魔力が不足している? そういう言い訳で全部ごまかそうとしている?
そうだろうな。逃げたい。逃げたくて仕方ない。
今俺は他の存在と関わらないといけない環境にいる。
今までの俺がしようとしなかった事。できなかった事だ。
欠けている人間性に否応なく向き直させられている。
「……すごい! 自然にニーナさんのお腹に埋もれていく!」
欠けているという感覚はあるけど、どう埋めたらいいかがわからない。
他者への興味とか話の広げ方の癖とかがそうなのだろう。
選択肢を増やす能力が低い。自分で全てをどうにかしようとするのがいけない。
何をどう人に頼めばいいかが分からない。
自分でやった方が早いモノしか用事がないというのもある。
雑談能力が欲しい。目的ありきで会話してしまう。雑談ができない。
そんな考え方をしているから欠けているモノを埋められない。
出来ない理由、しなくていい理由を積み重ねる。
しない理由をいくら積み重ねても進歩しないのに。
むしろ理由なく衝動で行動するべきですらある。
「……あ、そこ、触ったらいかんのじゃ……」
それが出来たら苦労していないのだがね。ほんとバカだ。
今はこれでも大分衝動的に生きているつもりではある。
どうすればいいんだよ! という気持ちばかりが強くて。
何を選んでも正解だとは思えない状態なのが悪い。
選んではいけない選択肢と選びたくない選択肢ばかりがよく見える。
選びたい選択肢が頭に出てこないから、無難そうに見えるボタンをやけくそで押している。
そういうところ、ほんとよろしくない。
目標がぼんやりすると選ぶべき選択肢が曖昧になる。
遠くに目をやり「これをやりたい」と思わないといけない。
そこへ行き着くための方策を考えることでなかった道ができるだろう。
「……もう毛に埋もれて姿が見えないわ! ……ねぇ、私も入っていい?」
ただ目の前にあるモノを追いかけているだけだと俺の場合はどん詰まりに行き着くだけだろう。
人に関わる事を避けているのだ。何も発展するモノがないから。だから逃げるな。
人と関わればその人のスキルも勘案できる。ギブアンドテイク。自分からも提供できる何かがあればいい関係になるだろう。搾取の行き着く先は破滅だ。
で俺が提供できる何かってなんだよ。労働力か? キツくない? モノ壊しそう。
いや、だがしかし半端な事では壊しようがないこの体だ。筋力もある。強い。
危険地帯での人間には困難な場所でのいい感じな作業にはとても向いているだろう。
まぁ、研究者くらいにしか需要がなさそうだ。開拓団で働きたいまである。
一般的な環境には必要ない能力だ。無用の長物が過ぎる。
自分がそんな優れた存在だとは思えないが、安く買いたたかれるのは困る。
精々高く買ってもらえる様に、引く手数多な存在だと見せなければいけない。
そう考えるとやはりコミュ力。コミュ力こそ至高か。
どこにでも潜り込めて、どんな人ともやっていける人こそが最強。
他の能力がいくら高くても、コミュ力がなければその才を活かす機会が与えられない。
「……1人も2人も変わらんの」
コミュ力。これが一番よく分からないモノだ。
簡単にいえば取り入る力と交渉力だろうか?
少ない手持ちで高い買い物ができる能力とも言えるだろう。
こいつの話を聞けばいいものが手に入る。
この人は心地いい空間を作り出すから側にいたい。
近くに人がたくさんいるからとりあえずそこに行ってみるか。
集まる理由は何であれ、人を集められる能力や人に取り入る能力は強い。
何はともあれ話を聞いて損はない。そういう事を相手に思わせる能力。
俺にそう思わせる能力はたぶんないだろうな。
「わーい! もふもふ~」
こちらにとっては労力や出費が少なく出来て、相手にとっては困難な事。
そういうものがあれば相対的に効率よく立ち回る事ができる。
だがそこの配分を間違えると奴隷か搾取か、負の感情が生まれる状態に陥る。
自分にとっては簡単。それは危険な場所での行動。
自分にとっては困難。それは人間関係だろうか。
困難と考えているのがダメか。苦手だと思えば思う程に避けてしまう。
俺は逃げすぎている。何からも逃げている。
自分が楽な方へと逃げようとしてしまう。
それが今の俺をどん詰まりへとやっている原因だ。
向き合え。苦手と思うモノから目をそらすな。
会話を楽しむくらいの根性を持て。
手始めにこの近くにいるヤツか? 嫌いだという感情が溢れすぎているが。
「もふ?」
うん。うざい。
ダメだ。パーソナルスペースを侵す輩が許せない。
いや、ニーナの懐に断りなくもぐりこんだ俺が言えたことじゃない。
なんか大きなゴールデンの懐ってすごい安心できるとか考えてはいけない。
動物すごい。動物尊い。そんな事を日頃考えている癖に、許されるだろうと甘えた行動をとったバカだ。
ニーナだから本来の俺なら離れたかったはず。思考がゆるくなっている?
欲望に素直になってしまっている。思考がよろしくない。本当にダメだ。
本当に人間性がよろしくないんだな。自分の醜いところがよく見える。
心のダメな部分をどうしたら直せるだろうか? 叩けば直るか?
昔の家電じゃあるまいし、そうはならんな。右斜め45度とかで叩いても意味がない。
思考の堂々巡り。自分のしなくてはいけない事が理解できていない。
何もしたくないのでは? と思うほどに、自分の目標がたたない。
漠然とした欲求は逃避。逃げる事を前提としたモノ。
逃げてばかりでここまで流れついてしまったというのにまだ逃げようとしている。
砂漠にオアシスの幻想を見て蜃気楼を追うがごとくか。
逃げた先に幸せなどない。行き倒れが精々。この体は死なないから余計に酷いな。
「もふん!」
ダメだ。人語を介す生き物ではない。人間を辞めている。
いや、きっと元から人間ではなかったのだろう。
人間だったらこんな生き方をしていないはずだ。
……全部の言葉が自分に返ってきたな。ヤバい。
自分がどれ程内側で完結し、他人に対して言葉を用いない話をしている事か。
行動は口よりも雄弁にモノを伝えることだってある。結果的にそれに頼っている段階で俺は人語を介さないヒトデナシだろう。
人間なら話さないといけない。
相手の想像力に任せるモノは相手の解釈次第で意図しない方向へと読み取られる事がある。
人は見たいモノを見るモノだから明確に言語化しなければ理解されない。
言語化しても理解してくれない事もあるが、言葉にしたという事実や物的証拠があればまた変わる。
「もふん」
もふんってなんだよ。話したい事が特にないからおかしな事を口走ってしまったじゃないか。
バカかな? バカなんだな。あぁ、そう俺がバカなのはよく分かっている。知っている。
独り言の語彙力はあっても、会話の語彙力が絶望的なのだ。独り言の十分の一でもいいから会話の語彙力をくれ。
ミラーリングで親密感を演出する? 下手なミラーリングは煽りにしかならないんだ。
でも今回の場合は同調したの方か。いや、でも同調してどうするんだよ。
少し心理的障壁が薄くなったというアピールにはなるか?
いや、でも嫌いというか苦手という感覚は抜けない。
自分が悪いという感覚がある分、ずっと嫌いだと思う事に自分への嫌悪感を抱きつつあるが。
逃げ場所がなくなって毛を逆立てて精一杯の威嚇している小動物。そんな器の小ささを感じている。
「もふもふもふもふもふもふ!」
どうやらぬいぐるみは気が狂ったようである。
南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏。どうやら俺にはレベルが高すぎたようだ。
スライムを倒そうとしたらドラゴンが現れたレベル絶望である。
だがしかし丁度いいレベリング相手は望むべくもない。
俺の周りはもう既に高レベルが固めている。
そもそもレベリングが出来る場所から逃げたのは俺なのだ。
まさに自業自得なのである。クソが。






