379、自分の悪意
「使う魔法に制限があるかかの? たぶんないじゃろ。普段使う魔法は習熟度が高くまた自由度も高い、それくらいの差異はあるかもしれんがの」
質問の仕方が悪かったかもしれない。
いや、そもそも正しく回答してくれる事を期待してはいけない。
回りくどい言い方をニーナは好んでいるのだから。
想像が正しく、自分が使われる事で使う魔法を、文字通り体で覚えたモノを、使えるだけだったら助かる。
選択肢が一気に減って行動の予測がしやすくなるから。
まぁ、言動だけでもいくらでも選択肢が生まれる以上、完全な行動の予測は望むべからずではあるけれど。
探りたいのは魔力の動かし方をどう覚えたのか。
文字通り体で覚えた代物なら習得を諦めるしかない。
俺が身の危険にさらされないモノなら助かる。
「私には聞かないのー?」
お前に何ができるというのだ。のっとりか? 侵食か? 合成か?
どう考えても今の俺が欲しているモノではない。
マッドなサイエンティストな思考をしていたら欲しいかもしれない。
だが俺は基本は自然主義者だ。物事にはなる様になる流れがある。
異常者が介入して壊れる世界もまた自然だが、それを自ら行うつもりがない。
ガラパゴス化した世界もそれが壊れ異常化した世界もどれも愛おしいが、自分で加えた変化が思った様になろうがならなかろうが愛せる気がしない。
こういう思考だからいつだって外様になってしまうのだろう。
観測者でしかない。その場にいようとしない。その場に立ちたくない。
できるだけ環境を乱さないモブになりたくて仕方がない。
「君が出来そうな魔法って何?」
意識しなくても冷たい声しか出ない。感情のほとんどが落ちてしまう。
できるだけ関わりたくない。嫌い。最初から嫌いという感情だけがこびりついて離れない。
苦手なのだろう。深い部分に踏み込んで居座ろうとするから。最初が近すぎるのだ。
身近すぎると嫌悪感を俺は抱くタイプだったりするだろうか?
適度な距離で親近感を覚える精神性だったりすると好いたりするかもしれない。
いきなり近すぎると怖いや気持ち悪いが先行し、ごめん ないわとなるかも。
いや、でも付き合って後腐れができる相手だとそういう意味の付き合いはしたくないな。
休みを合わせて旅行みたいなの、職場の面々とかに後でからかわれるだろうなとかも考える。
あと付き合っている最中や別れた後とかで、内向きなあれそれを吹聴されたらとか、職場内恋愛ってリスキーだと考える。
「ねぇ、完全に興味ないでしょ!」
興味を覚えたくないが強すぎるか。事なかれ主義というか、迷惑をかけたくもかけられたくもない思考が強い。
このぬいぐるみの場合「知っているなら助けてよ!」的な厄介事の押し付けをしてきそう。
自分が面倒事の余波を受けたくないから適当に予防策を張っていたら嬉々としてそれを利用してきそうでもある。
関係者になる事が嫌すぎるタイプ。
頭がダメだな。
たぶんこうという決めつけが過ぎてヤバイな。
嫌いなタイプを全てコイツという存在に押し付けてしまいそう。
実際に被害を受けたわけではないし、そういう行動を見たわけでもない。
言動も胡散臭い以外は今のところまとも……に見えるかもしれない。
勝手にそうかもしれないというあるかも分からない闇に俺が怯えているに過ぎない。
「うん。興味ない」
自分がそうされたら嫌だから、そうであると仮定して敵対視してる。
始めからそうであると仮定しておけばもうそれ以上深手を負う必要がないから。
でもそうでないモノをそうだとする事で負わなくてもいい傷を抱える。
敵を増やすのは愚策。敵か味方かの二元化もよろしくない。
積極的な敵対をすればそこに支払う労力の分、できる事が少なくなるからだ。
全てが敵だと思い剣山に立てこもるのはある意味でエネルギーの消耗を抑えられるかもしれない。
だがそれでやっていける程精神というのは大概強くはない。独り善がりは壊れる定めだ。
まぁ、俺はもう壊れているだろうが。
「ひどい」
自分という弱い存在が気に入らない。誰かに頼るという事が思考できない。
自分という存在は1人では成り立たない。魔力をリク君にもらわなければやっていけない。
そうでなくても近場の道具類は文明があってこそあり、自分の知識も文明がなければ持ち得ない。
考えればわかる。そのわかるに繋がる知識がなければ起こり得ない。
類推できる経験。読書などで蓄えた知識。見て聞いて体感しているモノ。
どれをとっても文明があるからこそ出来た事だ。自分1人で辿りつき得ない。
そんな当たり前も考えないといけないレベルで人間ができない。
こうすればいいだろう。あれが役に立つかもしれない。
自分の中で適当に組み立てて、それで上手くいく事が多い。いや上手く行かなくても自分でどうすればいいかを考えて自分だけでどうにかしようとしてしまう。
それでも上手く行かなかったら人に頼るべきなのに、俺は声をかける相手を考え悩み諦める。
自分以外が必要なものは諦めて、出来る事だけやって上手くいったフリをする。
何も上手くいっていないのに。諦めの先を見る事をしなくなった。
「お前とは仲良くできるとは思っていないもの」
自己愛が強い。というわけでもないか。
自分しか見えてなくて、唯一賭けられるモノが自分だけだから惜しんでいるだけだ。
死にたがりな事を考えれば自分の事を好きだとは思っていないのは間違いないし。
何かと理由をつけて「それはムリだから」と諦める。
そういうダメな人付き合いしかしていない。
ダメ元で頼むとかそういう思考もできないくらいに自分以外の存在に期待していない。
それが悪い事だと考えているくせに、それをしない思考がとれない。
思考の癖が自然と頼るという行動から離れていく気がする。
そもそも人付き合いが少なくて、許容量を越える仕事を抱える事がない。
「はっきり言ったね?! そこまでハッキリ言われたの初めてだよ! 親にも言われた事ないのに!」
仕事は自分で探すモノ。作るモノ。見つけだすモノ。
今を考えてみろ。出来る事がない。やる事がない。遊ぶしかない。
そうやって目の前のモノを処理する事しか考えていない。
「親に言われたらやばいじゃろ」
タスクだけしか見ていない。やりたい事がない。
それでどうして何かに辿りつけるというのだろう?
好きこそものの上手なれ。じゃあ俺が好きなモノとは何だ。
「ん~。昔のオタ友で親に言われた人いたよ? 同担拒否だったみたい。あと他のパターンだとカップリングの前後が逆だとかでもあったかな?」
……ぬいぐるみは友達多そうだよな。基本が陽キャっぽいし。
すっとぼけつつも全体を把握しているタイプに感じる。
適度にボケて和ませたり、曇った顔のヤツがいたら絡みにいったりしそう。
悪として見るか、善として見るか。それで見え方が変わりすぎる。
底意地の悪いの誰だ? 俺だよ。人の行動を全て悪意と思おうとするヤツ。
そもそもぬいぐるみがノットリを謀っていたというのは俺の想像だ。
相手の思考が凝り固まっている場合、否定意見をぶつけ続けても余計に態度がキツくなるものだ。
だから相手の想像の存在としてふるまって、そこから徐々に想像と違う現実を見せつける。
そういった行動をぬいぐるみは取ろうとしていた可能性があるのではないだろうか?
わからないけど。
「なんか疲れたしちょっと寝たい」
自分が全部悪い。わかっているのだけれど、どこまで否定しても答えに辿りつけない。
自分を否定する程に波間に漂う棒が減ってつかまれそうな拠り所を失う。
ややこしい思考が状況をややこしくしているよ、本当に。






