378、魔力の使い方
思考がぐっちゃぐっちゃになる。
さなぎがチョウになる様な変質を必要とするのか。
魔力という形なき自我があれば容易い?
人の形状を保ったままの意識だと、体内を溶かす様な変質は難しいと。
ニーナのいう事を参考に考えていったら虫みたいなイメージになった。
しかも一度完全に内部をまっさらな状態にして、一から組み立てろというのだ。
その構成は魔力によるサポートなしの鬼畜仕様。
「出来る可能性はなきにしもあらずではあるが、オススメはできぬモノでござろ?」
末端だけを変化させるのも難しい。
一部を変質させればそこだけ断絶が起こるから。
血の通わぬ状態になり、魔力的な意味での壊死となるらしい。
やるなら一気に体全体を行わなければならないのだとか。
壊死状態になった部分はゴーレムである以上外部からも治せないため諦めるしかないらしい。
正しい構成にできなかった場合、体を動かせなくなるだけで意識を失えないから、植物状態になるとのこと。
どんだけややこしい事になっているんだよ。
構成の仕方とかわからねぇんだわ。
細胞とかを想像すればいいのか? なんか違う気がする。
「確かに難しいかもしれないね」
植物状態になるかもしくは魔法を使える体にできるか。
2つに1つ。知識なしにやる事じゃない。
ほんと出来るといえば出来る。出来ないと言ったら出来ない案件か。
魔力的に血の巡っている状態が最低限分かればいいのだけど。
それさえ分かればそこを維持して変化させられる気がする。
ニーナはフリーの魔力時代に色々熟してきたからどうやればいいか感覚があるけれど、俺はこの始めの1回しかチャンスがないのも最悪過ぎる。
「え? できると思っているの?」
クソ煽りを繰り返すこのぬいぐるみ、本当に壊したい。
できないかもしれない。それに焦っている自覚がある分、マジでイラってする。
このぬいぐるみ、壊されるがために煽ってきている気しかしない。
乗っ取りを行える能力があるのだろう。
入り込むためにはぬいぐるみという器を壊させて吸収させる必要があるとか考えられる。
ゴーレムよりは軟そうだが、他のモノでは壊すことがかなわないとかも想像できるな。
一番壊す可能性があるのは俺というのも自覚ある分、自制心を働かせないといけない。
あぁ、でも壊れないくらいにぶん殴りたい。すごくけちょんけちょんにしたい。
「できるできないは関係ないよ。現状のままじゃいけないし、やらなきゃなんだよ」
今のままは本当によろしくない。
リク君に依存しなければ生活できないというのは欠陥がすぎる。
自律した存在になるのを考えれば一個人に頼らざるを得ない現状は厭うべき状態だ。
「意識が高いねぇ」
意識しか高くないとも言える。下手しなくても意識他界系か。
実現できない事しか目標にできないのはバカだろう。
古い深夜アニメのアレな歌に「え? 願いはいつ叶うかですって? あなたはそうやって望みを口にしただけ」なんていう歌詞があったな。
ニートとか夢追い人とかを殺す曲だけど、あの歌詞はある意味真理をついていただろう。
小さい道標もなく、ただ口ばかり動かして、実績を何も積むこともしない。
それでいったいなんで夢が叶うというのだろう? 何億円の当たり宝くじが降ってくるのを待つみたいな事をする意味はない。
「シロ殿、やるにしてもリスクが大きすぎるから我はオススメしないのである」
その方向性の試行を防ぎたくて情報を出した?
それとも試せば簡単に実現できたりする?
思考の制限のために行われた情報提供かもか。わからない。
そもそもこの現在の体で出来ないとどうして決められる?
体内をいじる必要もないのではないだろうか?
そうであったらありがたいな。そうであってほしい。
「そういえばニーナは外に向かって魔法を出せるの?」
いくら体内を変化させたとして、表面の魔法を吸収する機構が邪魔するはずだ。つまり外に出すような魔法を使えない。
体内で色々なモノを作り、それを排出して、ゴーレムを生み出している気がする。
でも魔法が使えるは付随しているだけで、自立したエネルギー機関を持っていると言い換えるとやはりズルいか。
「できる。といえばできるのぅ」
どっちだよ! 出来ればやりたくないってことか?!
魔法は尻から出るとかなのか? いや、口から出るのかもしれない。
ぬいぐるみや俺はたぶん口から出てきただろうしな。
「ハッキリさせないね」
理論上はできるみたいな、プログラマーみたいな言い方かな?
魔法の仕組みがプログラマーよりなのかもしれない。
人間が使っているのは基本的に出来上がっているソフトだったし。
「我にはあまりその必要性がないからの」
必要性がない。つまり試したことがない?
そのフリをしているとかだろうか?
相手が嘘つきである事を前提にした思考過ぎる。
「そうなんだ?」
疑わしいとばかり考える。この世界で明確に騙された事などないくせに。
嘘つきばかり、詐欺師ばかりだと思いたがる。その方が気楽だから。
自分すらも信じるな。それは逃げなのだろう。何も信じないから裏切られない。傷つかない。
「万が一ではあるが、中身がでろりとこぼれ落ちてしまったら戻れないかもしれないのぅ」
冗談っぽい口調で楽しそうにニーナはのたまう。
だが言っている中身はそんなユーモラスではない。
自分の身に起こりうる事故だからな。怖さしかない。
「中身が出てきたら私が食べちゃおうかな~?」
がお~とぬいぐるみがニーナに向かってしている。
ちらちらとこちらを見てくるのがなんかイライラする。
実験をミスって外に中身がこぼれるのは俺の可能性が高いからか?
「まぁ、いいや。その方法はとりあえずけっこう危ないんだね? わかったよ」
とりあえず魔力を自力で生産できる様になれるのが最低限の目標。
ニーナの取った方法は俺には厳しい。死ぬ覚悟でやる最終手段といったところか。
食べてエネルギーにできれば楽そうなのだが、その機能は……あるのだろうか?
「やってもいいんだよ~」
動物を模して、人間を模して、この体は作られているはず。
記憶通りなら筋繊維や神経などを意識して作った。
ただ魔法の使い方的に「注文書を投げて魔力が穴埋めしながら」出来た体だとも言える。
魔力を一から自分で動かすことができるのだろうか?
思った通り、考えた通りに、その行動を魔力に取らせられるのだろうか?
魔力はどうしてその様な働きを示すのかを理解できていない気がする。
PCのボタンを押してコマンドを入力し、規定の動作をさせるならまだ0から出来るかもしれない。
だが0と1から簡単なコマンドを作成し、そのコマンドを組み合わせて、指示を形成するのは気が遠くなる。
その0と1を見つけるところからが魔法の始まりだとも言えるのだ。
「あ、思考が飛んでる……」
魔力としての自分。つまりこれを扱える自分ができれば魔法の自由度は格段にあがるのだろう。
……ニーナはどうして魔力としての自分を強く持っているはずなのに、中身が外にこぼれることを恐れるのだろう?
他の魔力と体の外では混濁し、自分を保ったり認識することが困難になるとか、そんなことはあるのだろうか?
なにか魔法の規則に魔力が従うよう作用するルールが体の外にあるのかもしれない。
魔法は外の世界でそうルール付けされているとしたら体内で使う事は困難なのでは?
もしそうだとしたら魔力は自分の力では魔法を発動させることができない可能性がある?
ニーナは自分が使われることで体で覚えた範囲の使い方を適用して動いていたりする?
一定以上の魔力が集まる事で自分という存在を押し固めたまであったりするだろうか?
ゴーレムを作れる理由はリク君の体で使っていたからみたいな?
「ニーナって使える魔法は限られてたりするの?」






