376、ゲームをしよう
ニーナが人の言葉を話し始めたのをそもそも最初から認めていなかった。
だって自己をもつにしても一から育てたかったのだ。
自分にとって都合のいい存在を、命なきゴーレムという形で、欲しかったのだ。
「君はズルいよ!」
自分が信用できるのはただの道具くらいなのだ。
壊れるのは嫌いだけれど、ただの道具なら壊れてもまだよかった。
でもそれが他人となれば出来なくなる。自意識の強い代物を道具にはできない。
「ズルくてもかまわない」
過去の自分を重ね合わせてしまう。
意思ある存在を思い通りに操ろうとする敵が嫌いだ。
そんなモノにはなりたくないのだ。
「嫌な事から逃げてばかりの臆病者っ! 杞憂だって思ってる癖に!」
杞憂だと思っていたらそれを超えるモノが次々に起こる。
あれらから逃げられるなら本当に逃げたい。
でもできないのも理解している。立ち向かう方法を考えないといけない。
「逃げなかったら死んでる気がする」
雁字搦めに絡め取られて自由に動けなくなっている方が可能性が高いか。
俺を殺すのは条件を満たすのが難しい。それだけには自身がある。
でも全てをどうでもいいと投げ捨てればなんとでもなるかもしれない。
「君が死ぬ? ないでしょ。無傷で通り抜けられる癖にビビり過ぎなのよ!」
無傷。体的にはそうだろう。信頼とか信用とかは無傷で済むかは分からないけど。
人格をコロコロと変えて見せて、都合のいい事を宣うようなヤツに、信用も信頼もあるわけがないか。
そう考えると本当に無傷なんだろう。傷つくモノなんてないのだから。
「まぁ、そこまで熱くなるでない。とりあえずゲームでもして遊ぼうではないか」
指の間に挟まれた。もふもふ。温かい。血が流れている感じ。
ゴーレムに血は流れているのだろうか? 液体が流れていないとエネルギーの循環ができない?
電気みたいなエネルギーが情報込みで体内を駆け回っている方が自然な気がする。
「そうだよっ! ゲームっ! 私の一推しなゲームをやろ!」
柔らかい肌。毛の少ない部分。
でも匂いは特にない。土の匂いもない。
外をあまり歩かないのだろうか?
「ふむ。楽しそうであるな」
肌色している。血の通っている様な赤みがさしている。
挟まれている感じ、肉の様な柔らかさがあってよい。
足裏のちょっと鱗状の硬い部分とは違い、比較的に薄い肉の膜が気持ちがいい。
「……ねぇ、変な事考えてない?」
なんか肩にのってきた。ウザい。
……ケモナーが抑えきれなくなってきている気がする。
ゴールデンレトリバーの姿をしているだけの相手に何を考えているのだろう。
内部存在を考えたら俺にとって許せない存在だというのに。
「考えてない」
ちょっと噛みたいとか思ってない。
「なんか不穏な気配を感じるのじゃが」
少しおろついた声が頭上からする。
大丈夫。本気で噛まない。せいぜい甘噛み。
いや、そういう問題じゃない。
「それじゃ、ゲームをしようか」
犬に育てられたといっても過言ではない。
いや、でもこんな思考をしているが、犬を噛んだことはない。
むしろ噛まれていた方だ。甘噛みだけど。
「露骨に話をすり替えようとしてる?!」
犬に噛まれる時は服の上からになる様に調整。
腕を押し付ける様に動かすと強くは噛めなくなる。
子犬とか力加減や甘え方が分からない子に噛むのが悪い事と教える時にやっていた。
「何も変えようとはしていないじゃん」
でもきっと噛みたいのだろう。
手指で掴むよりも口で噛んだ方が情報が多い。
犬の様に。赤子の様に。嚙んで世界を知ろうとする。
「目がキマってる……」
思考の暴走が収まらない。治まらない? しまい込む方なら収まるだよな。
大きなゴールデンレトリバーってやっぱり正義だと思う。
中身もゴールデンレトリバーだったらもっと幸せになれたのに。
「それでさっきのゲームをやるという事で間違いはないの?」
ダイスを振るい、結果にランダム性を生み、勝負を複雑化させる。
でも完全な運というわけでもないか。期待値で色々思考を巡らせられる。
どのカードを切るか、そこで選択と思考が生まれるゲーム。
テーブルゲームとして考えるとありきたりか。
「そうだよ!」
胸を張るぬいぐるみ。コミカルな動きをしている様に見える。
ぬいぐるみ補正で、行動がどれも可愛くなる。なんかズルい。
人間の姿してたらたぶん殴るレベルでウザかっただろう。
「じゃあやろうか。やりながらルールを覚えるのが手っ取り早いし」
設定が多いゲームも嫌いではないが、それをやる人員を集めにくい。
テーブルゲームは直感的に遊べて、適度に運要素があるモノが良ゲーだと思う。
定石を知っている人だけが勝てるゲームとかだとまぁまぁな糞ゲー。
「うー……! やろ!!!」
ルールをサラッと見た感じ、そんな複雑なルールもない。
理不尽とか羞恥とかでもない。普通のゲームという感じ。
変なゲームなら選んだぬいぐるみを煽り倒してた。
「我は手の代わりにこ奴を使おうかの」
なんかちっちゃな球がニーナの体から落ちてきた。
物をつかめる様な長めのアームや姿勢を整えるためなのかわからぬ短い4対の脚部が特徴的。
タマゴ。改良されていたのか。お前。
「なんか可愛いね、それ」
8本の短い脚や長いアームの先は球形のゴムの様なモノで覆われていた。
大きさは胴体だけで30センチかそこらだろうか?
足音はまるでしない。駆動音もない。正面と思われるところに単眼が開いていた。
「いつも我の毛繕いをしてくれている可愛い子なんじゃよ」
足の先のゴムみたいなのは粘着質かもしれない。
洗濯のりで作ったスライム、あれを固めにしたくらいのモノだろうか?
昔懐かしのジョークグッズのぬちょぬちょする目玉のおもちゃ。あれと同じくらいの質感かもしれない。
「いいんじゃないかな?」
足が長かったら虫とかゲジゲジとかに見えて生理的な嫌悪感がわいただろう。
あいつら、足を落としていくから嫌いなんだよな。不安になる。
自切、トカゲの尻尾切りと同意義なのだろうけど、すぐに落ちる手足は苦手。
「生物感を出す程に気持ち悪くなってしまってのぅ。機械を前面に押し出した方がビジュアル的に良かったのじゃ。この姿になるまで長かったんじゃよ」
すごい苦労をにおわせている。
なんか苦労自慢されているがデザインを自分でやったという事だろうか?
……ゴーレムでも魔法を使えるという事に繋がりそうだ。
「自分で作ったの? この子」
考えてみればぬいぐるみ野郎もニーナお手製な気がする。
そういうデザインを考えて作るのが好きとか考えられそう。
意外とメルヘンな趣味でも持っているかもしれない。
「そうじゃよ? 力作じゃな!」
ドヤ感のある顔をしている。
鼻を持ち上げて目を閉じ胸を張っている。
ゴールデンレトリバーの姿だから可愛くてズルい。
「すごいんだね。魔法で作ったっていう事で間違いない?」
燃料問題はどうしているんだろうか?
リク君からの供給がなくても、自分で自分のエネルギーを賄える様になった?
タマゴも自分の生産したエネルギーを使って動かしている?
「うむ!」
ニーナは魔法を使えるし補給も出来そうだな。
生物として機能したゴーレムというヤツだろうか?
違うならそれはそれで理由が知りたい。
「いいね」






