374、子供部屋?
俺に対しリク君はにこりと微笑み頷いた。
リク君はニーナのいる部屋に俺を入れると慌ただしくどこかに行った。
どこに行ったのだろう? 分からない。
「シロ殿。変なところに行かないでくれると助かるかの」
ニーナ。よく分からない生き物。
のほほんとお爺犬の雰囲気を漂わせているがマジでなんなの?
犬にしたのは俺だが、予想できるこいつの能力的に術式を奪い人型になろうと思えばなれただろう。
いや今からでもそういう風に変身できるか。
何故そうしないのだろう? 出来ないのか?
出来ないと思わせたいのかもしれない。
小さな分身体を作ってあちこちに偵察とかも出来そうだよな。
人間風の人形を作って都合よく動かしているかもしれない。
大きな体で自由に動けないと思わせて、周囲を油断させるのとか俺ならやる。
「警戒をさせたいわけじゃないからするわけがないよ」
今は信用を積み重ねる時間だ。
お目付け役がいなくても安全だと思わせないといけない。
むしろ周囲を抑えるために有用だと示せればいいな。
今は抑えるべき相手がいないから出来ないが。
騒ぎの鎮圧を好んでやり過ぎるのもまた良くない。
騒動の中心にはいつもいるなんて不名誉が過ぎるから。
目の前で起きた暴力行動レベルでないと行動してはいけない。
明確に誰かが止めなければという段階であれば行動した際に証言してくれる相手が出来ない。
文明レベルを考えるとそういう暴動はなさそうには思えるが。
いや、火種はあるか。追放者とか。
「どこかに行くつもりがなくて何よりである」
その状況下に俺がいる可能性は低い。
近寄っていたら信用を失う。
相手から近寄ってきていたら大丈夫。
近寄る悪は成敗できる。
思う存分、殴り飛ばして制裁をくわえよう。
まぁ、血みどろはダメか。血入りの水風船だ。丁寧に処理しないとだろう。
やり過ぎはいけない。ここが大事。
やり過ぎたらこちらが悪く思われる。
ただこちらが手を出すと大概やり過ぎになる。
「それくらい理解してるよ」
まぁ、言われる程度には信頼されてない。だから難しい。
自由が欲しいと逃げたいが近しいというのがね。
ちゃんとした自由のためには労力を払わねば。
自由には責任がつきまとう。
他の人の権利を阻害しない事が大事。
強権を振るえば反動でまともな付き合いが減る。
管理されなければならないのはペットか子供か。
保護者が面倒を見るという条件のもと、自分で自分の責任を見切れない存在を養っているのだ。
ペットには自由がない。自分では責任が取れないから。ペットの責任は飼い主にある。
面倒を見切れない奴には保護者である資格がない。玩具感覚で保護者になるな。本当に。
「シロちゃんや。私と遊ぼうぜ!」
ぬいぐるみ野郎がかかってこいとばかりにちょいちょいと手先を動かす。
このぬいぐるみはマジで何を考えているんだ?
俺がお前にいい感情を抱いていないのは明白だろうが。
仲良くしたいみたいな感覚が相手にはある?
だとしてもなんか嫌だな。コイツ。
ニーナはそれを見て欠伸をしてる。
部屋の棚、微量に本がある中、トランプみたいなのとか、テーブルゲームのグッズがあった。
ぬいぐるみ野郎は器用に棚によじ登ると、その手にカードの束を抱えて棚から落ちた。
てへへと頭をかく仕草がわざとらしい。あざとくてうざい。
「どんな遊び?」
断りたい気持ちを抑えつける。すごく「だが断るっ!」と言いたかったが。
断っても出来ることがなさそうなのも問題か。
ニーナに魔力の使い方を教わる? だが出来るだろうか? キツくない?
そもそもニーナは今どんな状態なのかが分からない。
何してた? みたいなのを聞けばいいんだろうか。
俺の方は包み隠さず言っても大した事がないんだよな。
等価交換みたいな情報のやり取りは厳しい。
自分がある程度話すから相手も同じくらい話すのが普通だろう。
それが出来ないならそんなに情報を引き出せない。
「こういうの!」
ありふれたルールのカードゲームだ。
しれっと頭数にニーナが含まれているのが笑える。
サイズ的にカードつかめないだろ。念力か何かを使えというのか?
いや、違うのか。ぬいぐるみがどこから現れたのかを考えたら念力の必要などないか。
懐かしの球ゴーレムが近くにいるのでは? 細かい作業は奴らに担当させるのか。
奴らはどこから現れる? 部屋の近くか? 毛の間か? 体内に隠し持っている?
あの毛の中をまさぐれば出てくるだろうか? ゴールデンレトリバーの見た目がズルい。
すごいモフりたい。モフっちゃいけないと思うほどにモフりたくなる。
ダメとかぷって噛まれるのもご褒美なのでは? 毛の中に埋もれられたら幸せで死ねるのでは?
「シロ殿? シロ殿……?」
人の言葉を話すのはマイナスポイント。
だけれども昨今のマンガで話せる犬はそこそこいる。
それを思えば意外と許容範囲かもしれない。
話せなくても犬猫の類でもモノを考えるだろう。
そもそも話さなければいいというのは傲慢が過ぎる。
動くぬいぐるみを欲しがったら命が宿ってしまい使えなくなった。
ペットというのは業が深いと思う。
だが実際に存在するし、人間が繁栄できたのは他の動物を家畜化できたからだろう。
ペット化や家畜化により、本来の生活環境では生まれなかった形態になったというのは面白い。
そういう進化の結果、環境に適応できず絶滅していたかもしれない動物が救われたかもしれない。
そう考えると全てを否定する気にはなれない。でもなんか苦手。可愛いけどもやっとする。
「ん? なに?」
毛艶とか野生では難しいだろうな。長毛種とか枯草が絡まってひどい事になりそう。
人の手が介入しなければ生きられない存在というのは悩ましいが、その幸せそうな姿は癒される。
アリとアブラムシの関係みたいに、共生関係と思えば自然の一部だとも思える。
他の生物がいなければ生きていけない生物は多い。
真核細胞にミトコンドリアの元となったバクテリアが入り込んだ結果、今の多細胞生物がいると考えると色々と笑えてくるだろう。
ミトコンドリアの、酸素を使いエネルギーを引き出す能力がなければ、こんなにも大きな動物にはなれなかったのだから。
人間がいなければ。そんな仮定は意味がない。
何かしらがあって、生物の一部は色々な形態に変わっていく。
人間がいなくても変わるのだ。たまたま人間が関わっただけなのだ。
「その……近いんじゃが……。いや、近寄ってもいいんじゃが」
大きい瞳である。この体と同じくらいかそれよりも大きい眼球だ。
うん。いつの間にかニーナの眼前まで歩を進めていたわ。
そりゃ近いと言われるよな。でかいわんこだから近寄られ慣れているだろうけど。
いや、でかいわんこでもこうやって眼前に近寄られる経験はないだろう。
反省反省。もふもふ成分に飢えているからといってそういう関わり方をしてはいけない。
ニーナからしてみたら恐怖だろう。意図もわからない近寄り方をしているし。
でもとりあえず一つ言おう。
「ねぇ、お腹の辺りに埋もれてもいい?」
もう我慢できないんどす。
「ちぇすとーっ!!!」






