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367、猫被り

「猫を被るというけど、そんなに被れているかな?」


 おぅ、言ってくれるな? このぬいぐるみが。


 被る猫が甘い? まぁ、それは自覚している。

 演技が上手くなる程、人と関わっているわけでもないからな。

 表情が特に死んでいるだろうな。笑顔とか出来ている気がしない。


 人並な表情筋はこの身体にデフォルトでついているとは思う。

 だがそれをどの程度動かせば適当な表情になるかを俺は知らない。

 人と話をしないで過ごすと、生身なら表情筋自体が落ちるのを考えたら、マシかもしれないが。


 鏡とかを見て表情の練習でもした方がいいだろうか?

 アイドルとか役者さんがやる様なあの練習を。

 口角を上げてみたり、目を大きく見開いたりとかか?


「続けていれば次第に熟れるだろう。何も問題はありはしない」


 完璧に演じる必要はない。

 そもそも人に見せる顔はどれも本物ではない。

 本物は自分の事しか興味をもてない。


 誰もが他所行きの顔を持っている。それと似たようなモノだ。

 初手から全開で自分を出していく様なヤツは危ない。

 状況を見極められずに余計なトラブルに関わる可能性があるから。

 他所行きフェイスは自衛だ。知らない人に対し丁寧語や敬語で話すのと同じで。


 自分がトラブルに巻き込まれる可能性が高い相手に好んで絡もうというヤツはいない。

 避けられるトラブルを避けないヤツに付き合えば時間が無駄に消える。

 自分の信用も傷つけるし、本当にいいことなど何1つない。


「ねぇ、シロ? 試しに僕に対して猫を被ってみてくれる?」


 ……。


 これはどういう意図だろう?

 リク君がすごくニコニコしていて何か怖い。

 何かの欲求を満たしたくて言った? わからない。


 どういう猫を被ってほしくて今の発言が出たのだろうか?


「それはこういう事を言っているの?」


 少し険を減らす。ツンツン系高飛車お嬢様。

 自分の優位を常に確信しているが故の傲慢。

 敵対意識はないが、自分とは本質的に一緒になる事はありえないという、人とアリくらいの関係だと意識上に持った、絶望的な無理解。


 この猫の皮は通常の会話相手に使う事はありえないな。

 俺が使うとリク君という存在を特権として見立てたという事になってしまう。

 それは何とも気持ち悪い。


 人格設定を練らなければならない。

 人に絡む前提だが、絡みつつ調整しなければならないから陽キャにはなれない。

 コミュ障陰キャがちょうどいい。


「ふふ」


 ……何だ? 今のリク君の微笑みは?

 感情の濁りや負の感情ではない。

 違うのを見せた方が良かったか?


 まぁ、違う方が俺としても人間関係の構築において利点があるとは思う。

 練り直しの方向で頭を動かしているからな。

 人格プリセットが手元にないのがキツい。円卓……。


 基本の情動は怯え? 未知への恐怖?

 理解への欲求と好奇心のお化けがいい?

 相手に余裕があるのが見て取れるなら話を聞けるだろうし。


「何なんですか……? どういうのがお好みですか……? こういう私が良かったですか……?」


 湿度が高い。高すぎた。ここだけぽつぽつ雨が降ってる。

 前髪が重たくなって、目隠れ属性入ったわ。

 もっと温くていいんだよ。リク君固まったじゃないか。


「君、女の子の素質ない?」


 ねぇよ。ぬいぐるみがさえずるな。


「君がその気なら僕が猫被り、特に動きの伝授をしてさしあげよう!」


 要らん……と言いたいが、動き方に関しては知っておきたくもある。

 俺の知っているのはあくまで文字情報が中心だからな。

 細かな動きのイメージは正直つかめていない。


 だがここでコイツに頼るとなんか怖い。

 いや、怖いか? 何かしでかす可能性があるか?

 そもそも猫被りを女性側でする意味はないよな?


「要らない」


 素っ気ないツンドラ系男子の皮。

 これは練習する必要なかったかもしれない。

 孤独に1人で抱え込む感じの子は不幸になるから。


 今求めているモノは交友関係の拡充。

 最低でも「あいつ? ああ悪いヤツじゃないな」と個人的に思ってもらえる程度には関わりたい。

 悪印象を植え付けられそうになったらカウンターパンチ食らわせられる様に、広くを重視しつつも深くやっていきたい。


 今後行くだろう関係各所には既にゴーレムだとはバレているはず。

 なら中性を意識してみてもいいだろう。

 どちらでもないからこその立ち位置だ。


 だが中性は中性でめんどうだよな。

 あれは必然お客様になりがちだ。

 どちらに行ってもこの見た目ならマスコットだろうか?


「男性の猫……猫な男性……男性で猫と言えば掛け算の右側!」


 お前は何を言っているんだ?


 いや、腐海の常識は少しは理解している。

 心情読解のために仕入れた情報は多岐にわたるからな。

 俺にその性質があるわけではないが。


 とりあえず猫の方向性は男性にしよう。

 排斥運動に関しては女性の方が怖いが、個人での活動力は男性の方が高い気がする。

 人格の深読みされるのは女性の方だろう。

 ボロが出ない様に行動するなら男性の方が楽そうだ。


「しばらく猫はこれにしようかな?」


 ほわほわ系天然糸目男子。ただし開眼するとエグい事も言うヤツ。

 ほわほわ系って男子ウケは悪いんだけど、エグい性癖とか持ってると急に仲間に入れてもらえるんだよな。

 敵を作りたいわけじゃないし、トゲトゲする事は出来ない。


 陰キャで話が上手くない自覚がある以上、こちらから話をふりに行くのは避けたい。

 天然が入ると言葉を出すだけでそれはボケになる。

 ネタ出しをしなくてもいいというのは気楽だ。

 演じる天然だから実際養殖モノなのだろうけど。


 養殖モノには天然モノ程の自然なボケはない。

 ただ外しただけのど滑りか、空気の読めないことを言うか、狙いすました一撃を加えられる芸人になるか。

 半歩踏み外す程度の言葉がたぶんちょうどいい。


「それでいくの?」


 なんかリク君が残念そう。

 女の子であって欲しかったのだろうか?

 だがそれは認められない。


 そもそもこの体にそういう意思をぶつけないで欲しい。

 この体、見た目年齢はむちゃくちゃ低いんだからな。

 あと中身が三十路のおっさんであるというのも忘れて欲しくない。


 リク君の中で俺はどういう風に見えていたのか。

 いや、見えていなかった? 声だけしか聞こえてなかった?

 俺の姿がこれになって、イメージがこの姿で固着した?


「そうだよ。これでいくよ、リク君」


 だとしたらどうする?

 男みたいな口調の変な女の子的な枠でリク君が意識してしまっていたとしたら?

 すごくめんどうくさいな。


 だがそれは別に大きな問題にはならない。

 どうせこの体は男女どちらでもないのだから。

 それくらい誰かしらに思われるのは避けられないだろう。


 とりあえず外向けの人格はこのふわふわ系天然男子。

 この人格だけをしばらくは使っていく。

 そうしていけば少なくとも男性として扱われたいと思っている事が理解されるだろう。


「君には女の子して欲しかったなぁ」


 うるせぇぬいぐるみだな。マジで。

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― 新着の感想 ―
久々の内なる高飛車お嬢様が登壇! 退壇!
[一言] お前が雌になるんだよぉ!
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