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365、分離は

 暗い闇の底。白い光が差し込む。プールの底から水面を見るが如くか。

 体が浮かび上がる。酸欠でぼやけた様な意識は次第に明確な形を伴っていく。

 次第に近づく水面に目を細めてしまう。俺は一体どうなったのだろう?


「はい! 私がシロの中にいました!」


 ……。プールの底に戻りたくなった。

 いや、もっと奥深く、水深が十mとかでは済まない様な海の底でもいいな。

 戻り方を知らないのだけれど。意識的に失神とかできないのかな?


 顔を声のする方向へと向けると小さいのが跳ねていた。


 まぁ、体の外に出ているならいいか。

 あの大きさなら何か悪さをする事もできないはず。

 いや、むしろ小さい方が悪さをしやすいのか?


 大きければ人目につく分バレやすいが、小さければ見逃されやすい。

 人と会話をできる機能があるというのはそれだけ情報操作ができるとも言える。

 小さい事で何事も大目に見てもらえる可能性が高いのもいただけない。


「シロ? もしかして起きた?」


 声をかけられた。起きているのに気づかれたのか?

 顔を動かしたからバレたのかもしれない。

 まぁ、バレてもいいのだけど、なんか悩ましい。


 まだもう少し状況を観察し整理したかったが、それは辞めておくべきか。

 起きるタイミングを見計らう能力はない。それに演技が下手なのだ。ボロが出る。

 中途半端にごまかすくらいなら起きて堂々と周囲を観察した方がマシだ。


 身を起こす。布団の中にいたみたいだ。ふかふかした白い布団が温かい。

 小さいのはぬいぐるみみたいな姿だった。あれでどうやって発音しているんだ?

 小さめの部屋にはベッドとイスと机があるくらいか? イスの上にリク君が座っている。


「なんとか」


 頭が回りきっていない。適切な言葉が出てきた気がしない。

 なんとかってなんだよ。なんとか死の淵から帰還したとでも言いたいのか?

 そもそもあいつがなんでぬいぐるみみたいなのになっているんだ?

 そのぬいぐるみはどこから出てきたんだ。魔法で作ったのか?


 頭の中で勝手に返事してくるヤツがいなくなって気楽にはなった。

 だがなんか微妙にやりにくさを覚える。あいつの存在に慣れすぎたかもしれない。

 結構粗雑に扱って依存しない様に気を付けていたはずなのに。


 頭の中で会話をしたところで人間性は成長しない。

 体が1つだから作業効率があがることもない。

 人間関係の輪も広がることすらない。


「あ! 起きたんだ! 私だよ!」


 内側にいなくなったからだろうか? ムカつかない。

 自分とは完全に違う存在となったからどうでもいい存在になったのかもしれない。

 俺の口で勝手なことをのたまわれるのは許せないが、自分じゃない存在になったから気にならないのだろう。たぶん。


 加虐を考えれば恨まれていてもおかしくない。

 だがそれで刺されたところできっと俺は何も思えないだろう。

 ヒトデナシな思考だ。人への興味がすぐになくなる。


 自分への被害も本当にどうでもいいのだろう。

 それが起きる事で自分の意思が変わることはないから。

 自分が言ったかもわからなくなる、自我の乗っ取りに虫唾が走ったのだ。


「いい姿になったな」


 動くぬいぐるみ。模しているモノはなんだろう? 何かのキャラっぽい。

 強いて言えば犬のピエロだろうか? マズルが短いけれど。

 白をベースに黒や茶色のぶち。可愛らしい黒い瞳に白い星が浮かべられている。

 黒い頭巾は月や星の白い模様で彩られ、三つ又に分かれた先端には星と月と太陽のマークが飾られていた。


 何かのキャラみたいだが、見てもルーツがわからない。

 この世界にピエロはいるのだろうか? わからない。

 宗教的な意味合いはない? わからない。

 どうしてこのキャラが生まれて、どうしてここに存在しているかもわからない。


 もしかして分離する際にこの姿で確定されたのだろうか?

 そもそもどうして分離した際にあいつに体が与えられたのか?

 与える必要があったかなんてわからない。


「ニーナの口からこの子歩いて出てきたんだよね」


 ……なにそれ? 自分で体を作ったのか?

 いや、ニーナが自分の乗っ取りを防ぐためにニーナが作った可能性が高いか?

 だとしたらニーナのセンスであのぬいぐるみが生まれたのか?


 それはそれでルーツがわからないな。

 可愛いモノが好きとか? ピエロが欲しかったとか?

 理解ができない。関連性が見えない。


 何がどうしてその姿になったか。

 気にはなるが、深く踏み込む意味合いは薄いか?

 だがしかしニーナもあいつも俺の内情を読んでいると思うと危険か。


「そうなんだ」


 なんかキャッキャッとしているぬいぐるみが微笑ましくも不気味だ。

 見た目だけならアニメの一幕として使えるかもしれない。

 あれの中身が天真爛漫なモノだとは到底思えないがな。


 どう考えたところで謀略家だろう。

 自分が道化になる事を厭わない謀略家。危険性は底知れない。

 果たすべき目的があるならどんな手を使っても成し遂げる恐ろしさがある。

 少なくとも俺が取れない手を迷わず選べるだろうな。


 そもそも俺に見せていた姿もたぶん嘘だろう。

 あれが俺に一番好まれるだろう姿だと思って行動していた気がする。

 まぁ、生理的にムリだったのだけど。


「私のこのぷりてぃな体で遊んでもよろしい事よ?」


 ……。すごく地獄突きしたい。


 落ち着け。もうあいつは俺の中にはいない。

 あいつが何をしたとしても俺には害はない。

 俺の意思と無関係な事を俺の口で騙るわけではないのだ。


 そう。ヤツはもう俺にはどうでもいい存在なのだ。

 それと考えを行動にしてもよろしくない。

 いや、考える事もよろしくない。


 思考は言動に、言動は行動に、行動は習慣に、習慣は性格に変わっていくものだ。

 昔の人がそう言っていただろう。実際その通りだと俺も思う。

 穏やかな思考をするべきだ。それが回りまわっていい性格になる。


「あぁ、うん。可愛いな」


 見た目はぬいぐるみそのものなのにどうやって表情を変えているのだろう?

 それを言ったら俺も本来は土くれなのだ。魔法万歳とでも言えばいいのか。

 布切れな分こちらの方が表情を変えやすいまであるかもしれない。


 そもそもこのぬいぐるみはゴーレムの一種なのだろうか?

 中身が綿なのかも怪しい。すごい解体したい。

 いや、解体するな。思考はやがて行動になる。


 物騒な思考を止める事が大事だ。暴力に慣れてしまった思考がよろしくない。

 暴力は最終手段なのだ。力で従わせなければならない聞く耳のないヤツにしか使ってはいけない。

 そもそもそういう人種に対応する事がない様に立ち回るのが大事なのだ。

 暴力の延長線上に死が積み重なるのだから。


「抱っこしてもいいのだよ!」


 ……我慢。


 ぬいぐるみがただドヤっているだけだ。

 あれはもう俺を偽ることはできない。

 俺のふるまいだけが俺を決定する。


 安易な暴力は全てを崩壊させる。

 そもそもこの体で暴れたら危険なのだ。

 あれはもう俺の中にいない。


 ぬいぐるみの戯言に怒る意味がない。

 そもそも怒る程の事を言っていない。

 思考が安易な暴力を許容しすぎているだけだ。

 本当によろしくない。気が短くなっている。


「そうか。じゃあ抱っこでもしようか。来るといい」


 口調がだいぶ壊れている気がする。

 男を強調したがっているな。これは。

 リク君に女の子として扱われるのを避けたい意識が強いのだろう。


 分離したはいいが今しばらくはキャラが安定しきらない気がする。

 もう少し容姿相応、年相応の口調ができる様にならなければ。

 容姿相応はいらないかもしれない。いや、でも人に紛れにくいし必要か?


 考える事が多い。

























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― 新着の感想 ―
無事分離できたようで良かった良かった。
[一言] でも中にいた時の経験から勝手に副音声を喋りそうな気がする(
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