362、反対
口に入ってどうして対応ができるというのだろう? わからない。
敵対行動をしようという表情には思えない。
雰囲気として本当に心配そうに思っている感じがする。
(飲み込んで排泄物に?)
それをする理由がニーナにはないだろう。リク君に敵対したいとは考えにくい。
今までここに居た事から考えても、今このタイミングで裏切る理由が分からない。
俺が狙いで殺せるタイミングを計っていたとかならワンチャンか?
そもそも物理にはめっぽう強いぞ。この体。
怪魚の腹で胃酸に曝されようが、怪物の体内で肉に押しつぶされようが髪一本落ちやしない。
ダイヤモンドを研磨する方法はダイヤモンドの粉末を使うしかないみたいに、ニーナの歯なら俺の体を貫通できたりするのだろうか?
(なんかありえそう。もしかして私は吸いだされる?)
「やってみよう。一か八かだが可能性があるならやってみたい」
(ねぇ?! 穴が開いたら君も死ぬんじゃないの!? 回復できる保証はないよね?!)
死なばもろとも。
(私に対しての嫌がらせも混じってる!?)
当たり前じゃん。僕はもう疲れたんだよ、パ○ラッシュ。
(わん!?)
お前はパ○ラッシュじゃない。
(金砕棒は怖いよ!? バッター、構えてホームラン予告……私が球?!)
ボールは友達。
(みぎゃあああ!)
すっかりグロ耐性がついてしまった。
(元々強いじゃん!!! 怪魚を腹から食い破るようなメンタルでグロ耐性ないなんてウソはよくない!)
これもそれもお前のせいだ。
(ひどい責任転嫁!?)
「それって安全なのかな?」
リク君が心配そうな顔をしている。
なんかもうリク君がそういう心配をするという事に慣れすぎたかも。
リク君は俺に対して何か幻想を抱き過ぎている。
(過去は綺麗なものだもの。何も言わないからね)
過去は何も言わない。
ただこちらが感傷的になってるだけか。
思い出の中でじっとしていてくれ。
(出てきた君が言う?)
私は思い出にはならないさ。
いや、思い出になりたかったな。
俺はたぶん自殺はしない死にたがりだし。
「今の状態の方が危険だから構わない。問題ない、やってくれ」
(めっちゃイケボで言おうとするじゃん。でも声高いし女の子の声に近いからイケボにはならないよ?)
うるさい。心がイケメンになれば自然とイケボになれるはず。
(イケメンな心には程遠いと思うよ? イケメンの概念が君に合ってない)
酷い。
(だってイケメンってもっとこうカラッとしたメンタルでしょ? 君はそこそこ湿度高いじゃん? ねちょっとしているわけではないけど、ガラスの破片が浮いている様なメンタルだもの。イケメンじゃないよ)
ガラスの破片はお前の様なヤツにしか刺さらんわ。
手を突っ込みまくって「わ~ん! 刺さった~! この川危ない~!」とやるヤツにつける薬はない。
普通の人は水に手が触れるくらいで止めるからな。
(でも君は底の方に手を伸ばしてほしい方だよね? 適度な距離を保とうとするけど、本質的にはそれで物足りないのが君じゃない? 私は君のその気持ちがわかるから触れてたんだよ?)
うるさい。だとしても触れ方を考えろ。距離の詰め方が殺しにかかっている。
(君は一気に間合いをつめないと逃げるよね? 人間怖いもん。今だって逃げたくて仕方ない。でも逃げ場がないから話に応じている。黙ってくれたらと思うけど黙られたら何を考えているか分からなく怖い。君はそういうところがあるよ)
うるさい。黙れ。マジで黙れ。
「僕は許諾できないよ。それなら時間経過で抜けるのを待つ方がマシだ」
リク君や……。
(保護者様!)
どうやってお前と俺を分離させるのかを考えたら早いか遅いかの違いでしかないだろ。
どこか器の一部を壊して魔力を流出させなければいけないのだから。
まぁ、物理的に破壊するのかどうかはわからないのだけど。
(私は簡単には君から離れないよ! 生きたいもの!)
離れろ。気持ち悪い。俺がこんなに嫌いだと言っているんだ。
機嫌の悪いヤツの傍にいていい事はない。実害を被っているからお前のことが嫌いなんだ。
円卓を返せ。犬を返せ。俺の深層を見ようとするな。
(ムリ……。もう消化も終わっちゃったし)
死刑。
「リク君。魔力が切れかけの時は正直なところ危険。耐え難い渇きに暴れるかもしれない。すぐに抜ける方法があるなら俺はそちらを選びたい」
テンションが落ちてやけっぱちになるのが観測している範囲の飢餓中の精神状態か。
(あれ、本当に飢餓状態なの? 違くない?)
飢餓だ。あれが飢餓じゃないならただのメンヘラだろう。
(メンヘラでしょ?)
ちゃうわ!
人と関わらないと生きていけないのを理解しているから、人に話をしようとしているんだ。
そもそも本来の俺はたぶん小学生とか中学生の頃みたいに、人間に興味の欠片もないだろう。
この体なんてリク君のような強大な魔力をもつ相手がいないと動かせもしない。
必要だからやっているんだ。かまってちゃんとかではない。
(でもほぼメンヘラじゃん。手のひらくるっくるで人称語尾コロコロ変えるし、人によって対応を変える様は外から見たら精神的におかしいじゃない)
それはそう。状況的に適当なモノを選択しようとした結果一貫した人格を表層に形成できていない。
「シロ……。わかったよ。君は昔からそうだったよね。覚悟と決断が早いし固い」
(さっさとやらないと先送りしちゃっていつまで経ってもできないの間違いだよね)
やりきらなければ気持ち悪いだろうが。
(後ろに送らないといけなかったモノってちゃんとやった? 計画も何もないでしょ? 優先順位の上からやっていく事はできても、他人の決めた締め切りがないモノをやるのはすごい苦手。後回しにいくらでも出来るモノは最後まで手をつけられない)
うるさい。
(締め切りを守るだけで満足しちゃう雑魚メンタルでしょ? 目の前に難題がでたらそればかりに思考がいって何も手がつかなくなる。したかった事は自分にしか関係しない分いくらでも後回しにできちゃうから次第にしたいことも見えなくなったよね? ねぇ、君は何がしたいの? ねぇ?)
目の前の問題がほざくな。さっさと片付けさせろ。
(ぎゃふん)
「俺はニーナの口に入ればいいのか?」
(わざと横柄な口調を演じているが、実際はもう少し丁寧に話した方がいいのでは? とか思っているシロであった……)
うるさい。
(ぶぅぅぅ)
確かに今の言葉遣いは人に頼むためのモノではない。
だが相手がニーナだ。しおらしい態度をとった先に何があるか予想ができない。
そもそもそういう間柄ではない。こちらが脅されて都合のいい状態にせざるを得なかった相手だ。
(だとしても君は自分の外にいる相手だからもうそこまで憎んでもいないし、どうだっていい相手ですらあるんだよね。もしかして私という存在がニーナのことをどうでもいいレベルまでに落としたの?)
ニーナは俺の中にいる時はうるさくしなかったからな。
それに今更俺が転生者だとニーナが騒いでもリク君がどうにかしてくれるだろう。
リク君をわざわざ敵にまわしてまでして俺を狙うことは考えにくい。
(リク君の存在が君の虎の威になっているんだねぇ。まぁ、君の価値はこの世界で如何程かと言われたら大したモノにはならないだろうけど)
なんかそう直にいわれると腹立つな。
一部が注目こそすれど俺の価値は十数年近く眠りについていた時点でカスみたいなモノだ。
学術的価値とか宗教的な価値はあっても、世間的影響力はまじでない。
知り合いがほとんどいないのだから。
「その通りだ。少し痛いかもしれないが我慢してくれ」






