361、魔力の感知は……
指が絡まる。体温が高く感じる。
自分の冷たい器物な体にしみていく気がする。
意識を向けるとなんか気恥ずかしくなる。
(ねぇ、好きなんでしょ?)
ちゃうわ。魔力の感知のために手に意識を持っていっただけだし。
(でもそれにしては触れている感覚の認識がおかしいような? ねぇ、どうしてだろうね?)
普段こういうことを意識してすることがないからだ。
雑念を混ぜるな。魔力の感覚をつかまねばならん。
今流れ込んでいるはずの魔力を利用して内部の魔力を動かさねばならない。
渦を作れ。流れを止めるな。一度動けば後は自由自在だ。
(でも今そもそも魔力の流れが見えていないんじゃない?)
ヨーグルトなりかけの牛乳にさらに牛乳を流し込む様な状態だしな。
視覚的に見えない状態でそれを把握しろというのが難しい。
流れ自体を感知してそこから自分の魔力を動かす必要がある。
(今の君の中の魔力ってほぼほぼリク君由来だし余計に違いが見えないよねぇ)
だとしても流れがあれば分かるはずだろ。
(自分の血の流れを自分で感知できると思っているの?)
少なくともリク君の中にいた時はできた。
(リク君の体と君は別物だからね。今の君がリク君だとして、私が君と同じ立ち位置なの)
……だとしてどうした。
(他人の体はまだ操りやすいんだよ。特に憑依状態なら自分自身が魔力そのものだしね)
この体はゴーレムだ。言い換えれば俺もこの体に憑依しているのと同じだろう。
それなら俺がこの体の魔力を操れて当然なはずだ。
それともなんだ? 何か間違っているというのか?
(間違っているよ? 君がその体に入ってどれくらい経っていると思っているの? 君はこの体の真の所有者としてもう定着しちゃっているんだよね)
所有者の意味合いがわからない。
(定着したという事。君が簡単にこのゴーレムの体に移れた理由は「リク君の自我がハッキリしていた事」「君が憑依に近い状態で留まっていた事」が関係しているの。そんな簡単に魂が器を変えられるわけがないの)
なんていうか面倒だな。それで俺がこの体に定着し所有者となったから知覚が安定しないと?
(リク君は本来あの量の魔力を持てる器じゃなかった。君が変えたんだよ? 君がそうしたの。で私が君の魔法の杖となった。リク君にとっての君の様に)
リク君も俺みたいなの憑りつかれて迷惑だっただろうな。
俺はお前が嫌いだ。魔法の杖はいらない。さっさと消えろ。
魔力を放出し、お前と俺を分離させるべきだ。
(私が嫌なの。だって死にたくないし)
俺が嫌なの。だって死んでほしいし。
(んなぁぁぁぁあ! 私がいないと君は魔法を使えないの!)
そうか。だが許さん。
「そこそこ流しているけどどうかな? わかる?」
わからない。うるさいのがいるし集中できてない。
(びゃああああ!!!)
黙れ。
(あ)
永遠に黙ればいいのに。
(黒い犬に頭噛みちぎられた……。群れて貪り食われた……)
回復が早すぎる。
……いや、キノコの様だ。
あそこにまだ食われている残骸があるし、別の場所から生えてきやがった。
菌糸が蔓延った状態で表面に出てきたそれらを排除しても意味がないという事か。
(君がいくら〇ミってもエ〇ァ量産機しても私は消えないよ!)
犬。臭いを嗅ぎ分けて掘りつくして食え。
((((ムダだよ?))))
犬が乗っ取られた……。俺の犬が……。
(君が想像しぶつける度に私の中に混ざっていくの。大元は飲み込めなくてもこういう小さな端切れは美味しいご飯。いつもありがとね)
キモい。キモい。キモい。キモい。キモい。
こいつはマジでなんだよ。ドMか?
寄生虫にも程がある。死ねよ。ガチで。
大元は飲み込めない?
つまり俺自身が手を下せば食えない?
いや、もしそれで俺が飲み込まれたら怖いな。
(別にそんな事ないよ? ほんとだよ?)
キモい。よだれダラダラかよ。
「ごめん、リク。どうも寄生虫に吸われて見えないみたいだ。魔力の供給ありがとう。3日もかけずに魔力を使い切れると思う。自然に使い切る事を目指すよ」
これがベストだろう。
(なんか鼻につく言い方……。なんでだろ?)
寄生虫がうるさい。別に何もおかしな事を言っていない。
謝罪。理由。やってくれた感謝。今後の対応方法。
綺麗にまるっと収まっているだろ。
(あ、わかった! 君の感情が削ぎ落とされてロボ化してるからだ!)
衝動的にさせる程、俺の感情を昂らせるのはお前くらいだ。
(熱い告白……!)
焼き殺したい。
(情熱的!)
クソ……。やってられるか。
「リク殿。とりあえずシロ殿の中にいる何かが抜ければいいのであるな? であれば我が手助けできるやもしれぬ」
別の方法があるのだろうか?
ゴーレム歴も魔力として生きてきた歴史もたぶん長いし、そう考えたら方策をいくつか持っているのは自然か?
正直噛ませ犬としか思ってなかったけど。
(君、魔力に対してだいたい嫌悪感持ってない?)
ゼロから学習させて遊べる道具を作ろうとしたら、勝手に入ってきたウイルスだぞ? なぜ嫌悪感持ってないと思った?
犬はただ犬でいて欲しかったんだ。話せなくて良かったんだ。ただ近くにいてくれる子が欲しかっただけなんだ。
気軽に過ごせる仲間が欲しかったのに、知らない変なおじさんか変なおばさんが住み着いた様なもんだぞ。嫌すぎるだろ。
(……なんかそういわれたら嫌な気がしてきた……!)
関係性の何もないヤツがいきなり訳知り顔で住み着くんだ。怖くないわけがない。
一方的に内情を知られ、触れられたくないところがあるのだろう? とか言われてみろ。気持ち悪過ぎる。
こちらはただ一緒に過ごせるフラットな仲間が欲しかっただけなのにな!
(君の嫌悪感は理解できた)
ちなみにこれはお前にも当てはまるぞ。
なんならお前はこちらが欲しいと思ったわけでもないのにきやがった。
円卓を食らい、ひたすら居座り続ける、謎のおばさんだわ。
(なんかごめんね?)
許さない。
「ちなみにどうやってやるのかな?」
そこが大事か。
……リク君から見た俺も似た様なモノか。
謎のおっさんが頭の中に居座ってたんだ。
リク君の場合は無垢な状態だから気持ち悪いと思わなかったかもしれない。
でも状況的に気持ち悪いことは間違いない。
(君はその気持ち悪さに気づいたから、リク君の存在に気づいた時に自分がゴーレムになる方向で、リク君の体から離れたんでしょ? ならいいんじゃない?)
厄介事しか残していっていない。
リク君の周囲にちゃんと同年代の友達はいたのだろうか?
実験動物に近い扱いを受けてはいないだろうか?
憑きモノが落ちたといえばいいか。
俺が消えた事で親子関係が改善していればいいのだがどうだろう?
子供らしさを取り戻す事が出来ていたら嬉しい。
(君がいたからリク君はすごい魔力を身につけられたし、色々な相手との繋がりも持てたと思うよ? 少なくとも飛行船をあの歳で自由に扱えたのは君のおかげでいいんじゃない?)
普通というのは得難いモノだよ。
異常は一歩踏み外すだけでなるモノだ。
異端は人の輪からはみ出し孤独にさせる。
手を引っ張ってくれる様な強い力のある相手でもなければ、まともな人間関係を築く事ができなくなる。
そんな稀な相手とだけしか友達になれないのは悲しいモノだよ。
(君は存外感傷的だよね。その人が求めているモノはその人自身にしか分からないよ)
だとしてもだ。
学生時代に欲しくて手に入らなかったモノが社会人になってからの欲求になるという話がある。
たぶん俺の場合は自由と友達なのだろう。
だからこそあの頃の自分が持てなかったそれらをリク君が持てないというのが許せない。
「シロ殿が我の口に入ればいい。そうすれば我がシロ殿の中にいる何かを取り出せるやもしれぬ」
なんだって?






