35、1等級魔法使い
「ねぇ、君たち? 何を隠しているの?」
幼い声が聞こえる。女の子だろうか? 声が高い。小学生くらいか? 中学生になるかならないか?
ただその誰何の声は冷たかった。
「待てよ、アイ、先走るな!」
同い年くらいだろうか? 高い声を抑えて低くしているような、落ち着いた感じの男の子の声が聞こえる。
メガネをかけたインテリ少年みたいな声だ。
「キルっ! でもこの魔力はおかしいでしょっ!」
「アイ? まずは落ち着け」
「なんでっ?! なんで落ち着けるの!?」
「アイ~? 燃え上がらないのー。キルももうちょっと落ち着こうね」
「ラスっ! なんでそんなにあんたはのんびりしているのよっ!」
「まずは車の人たちの話を聞かないことには何もできないよ?」
「私が聞こうとしてたのっ!」
「アイは燃え上がりすぎー。キルはつられてテンション上がってるー」
「は? 僕が?」
「そうだよ~」
おっとりした女の子の声。この声も女の子や男の子と同じくらい年齢だと思う。ほわほわしている。
テンションが高く強気な女の子の声がアイ。
落ち着いたインテリメガネ系少年の声がキル。
おっとりほわほわした女の子の声がラス。
乳母車の中じゃ壁が高くて容姿がわからないな……。
「歓談中のところすみませんが何かご用件でもおありでしょうか? 1等級魔導士様?」
ニキさんっ!
「君たちはこの車の中に何を乗せているのっ!」
アイという女の子の声が辺りを震わす。
皮膚が湿る。辺りの空気がまるでサウナのように暑い。
苦笑気味のラスさんの声が聞こえてくる。
「私がこの団体の雇い主、行商人のニキです。取引先に卸す外郭由来の商品に護衛とその家族が今乗っています」
ニキさんは警戒心を隠さず少女に敬語を使っている。
子ども扱いはしないんだ。
「車の中の異常な魔力は何っ! ……あんなの……ありえない……あれはなんなのっ!」
「……もしかしたら私の子供、リクのことでしょうか?」
お父さんが口を開いた。その声はなにかを押し殺したかのように重く低かった。
「……子供?」
アイさん?の口からポロっと言葉が落ちた。
「連れてきます」
お母さんがかしこまった声でそういうと俺を乳母車の中から取り出した。
お母さんの腕に抱えられると俺は顔を少女たちの方に向けた。
「僕たちの次の代だとしたら1歳かな?」
「次の代なのでしょうか? 1等級にしても魔力が多すぎませんか?」
「たまたま異常に多かったんじゃないか?」
「う~ん……」
腕組をした赤髪の険のある目をした女の子。緑髪のさわやかそうな少年。金髪のおっとりしてそうな女の子。誰がどの声を出していたのかすぐわかるな。
「……やっぱりおかしいわ。魔力が零れ出てないわ」
「それに……この子、生きた魔力って言っても過言じゃないよ」
「魔法を使ったときすごい勢いでエコーが返ってきたけど……。こんな密度の魔力の塊があったらそうなるのも頷けるわね」
「ねぇ、君? 君はなんていう名前ですか?」
「僕はリクです。今年で2歳になりますっ!」






