357、診察
「そうなんだ? ちょっと診てみようか」
こちらを見てサク先生は微笑む。何をどうやって診るというのだろう?
わからない。なんか手の平を出されたからとりあえず手をのせてみる。
脈とか何かを診る感じだろうか? それとも魔力を使って体内を探る?
(シロお手できた!)
ちがわい。
あーもう。周囲のほほ笑みがなんか可愛いモノとかを見る目になった気がするだろうが。
たぶんそういう気持ちで見ているわけじゃないだろうに。
医療行為。お前を駆除するための診断。壊すための方策を見つけるための行動。
(そうだね、そうだね。たぶんそうだね)
すぅ……はぁ……。さてゴミ掃除。大掃除。整理整頓が大事だ。
まずは大きなモノを固めて外に出しましょう。
モノの陰からたくさんの埃が出てきますね。え? 下から虫の死骸? 焼き捨てなくては。
(ぎゃあああ!!!)
しっかり灰になるまで焼きましょう。卵とか残っていたら最悪ですからね。
フローリングなどの火が使えない場所は使い捨ての雑巾で拭き、洗剤などで除菌殺菌をし、しっかりワックスを塗ってコーティング。
退かしていた大物もしっかりと拭いて綺麗にして戻しましょう。
「やっぱり何種類もの魔力が混在してて難しいねぇ。君一人の魔力だったらもっと早くスキャンできると思ったんだけど」
魔力の混在? 触っただけで何が分かるのだろう?
(シロちゃんのお手は無意味!)
噛み殺す。切り裂く。引き裂く。喰らい尽くす。焼く。粉にする。土に混ぜる。穴を掘る。埋める。
(犬みたいに! 野生の犬みたいに!)
犬を悪く言うな。噛み殺すぞ。
(私また死んだ!)
「すみません。まさかこんな状態になるなんて」
リク君が悪いわけではない。
俺が悪いのは確実なのだから。
人に迷惑をかけずに自立が出来なかった俺が。
(シロちゃんはリクに甘いよねぇ。他の人だと威嚇するくらいの事でもリクには許してるし)
そんな事はない。いや、あるか。
まぁ、リク君はいい子だからな。
ただお前はその名前で呼ぶな。消し飛ばすぞ。
(ぐほぅ……もう体中穴だらけだよぉ……)
「一旦魔力を完全に使い切ってもらうのがいいかもね。その後で魔力吸収阻害を行うこのリングで不必要な吸収を止めるといいかも。有害な魔力に初期ゴーレム達は弱いから」
ウイルスが入った機械はまず止めて対応をか。
これは一人だと出来ない方法だ。
止めたとしてその先が見えない。一人で起きられないしな。
(もしかして私けっこうピンチ?)
よし、死のうな。死なば諸共。耐久勝負だ。覚悟しろよ!
(ともだち! シロちゃんマイフレンド!)
今更遅い!
「それは体の中の悪い魔力も活動停止するだけになりませんか?」
(そうだよ! 私出られないくらいだし!)
それ本当なのか怪しいよな。
いや、構造的に出られない気はする。
でも本当に出られない様になっているかが分からない。
(ペットボトルの頭を切って逆さにつけて底にキリでちょんちょんと穴を開けて作れるアレと同じだよ! 入りやすくて出にくい!)
ビンドウね。捕まったバカな魚がお前か。
やーい、ばーか。魚以下〜。
(おぅ。ちょっと表出ろや?)
あ? やるか? 三枚おろしにしてつみれ骨せんべいかまぼこにしてやろう。
(手が早いんじゃ!!! 言いながらやりおるな!)
かまぼこが大変でした。
「ゴーレムの体は魔力で防御されているから大変だよね。でもその魔力がなければ操作は案外簡単だよ。直接魔法を使わない物理的な操作しか出来ないけどね」
きたこれ。
(あれ? これもしかして私って本当に終わるの?)
そうだよ?
(ごめんなさい! 本当にごめんなさい! 生きさせてください!)
謝ってももう遅い。お前はこの体から追放する。
(そんな……! 私、こんなに会話相手になっているのに! 私がいない状態でどうやって行くの!?)
昔に戻るのさ。そして俺は内側よりも外側と交流を深めなくてはいけない。
お前は用済み……いや、そもそも必要ではなかった。
きっとこれで全てが上手く回る様になるだろう。
「なるほど。ちょっとやってみる価値はありそうですね。何かデメリットとかありますか?」
そこだよ。デメリットが怖いんだよな。
(致命的なのが来いっっっ!!!)
こい。鯉。鯉こく。鯉こくの作り方はたしかな。
下煮。ゆで汁捨てる。水と酒と生姜で煮込む。一旦沸騰させてから弱火でじっくり。煮汁が減ったら水を足しつつ最後に味噌とかで味付け。
そうして出来上がったのがこちらです。
(食べられません)
こう歯と歯の間に包丁を入れると頭を真っ二つにできるんだっけ。
(魚じゃないもん!)
魚未満だったか。それは済まない。
(魚よりも上だよ!)
え? ビンドウに引っかかって出られなくなるのに?
ビンドウに引っかかっていいのは小魚くらいだよ?
鯉みたいな大型の魚も掛からないけど、多めに見て鯉扱いしたのに……。
(ばかーっ!)
「魔力の分別かな? 不活化している魔力も平面に均すとだんだんと種類別にバラけていくんだよね。目視して確認というのは道具使っても難しくて、どれが誰かを判別する手段がないというのが正直なところ。今回の場合は魔力の量が一番多いのがシロちゃんだと思うから大丈夫だと思うよ」
なんかコレ俺も一旦この体の外に出される流れでは?
(やーい!!!)
まぁ、お前も外に出されるのだけどな。
でもこの体の外に出るのか。
だとしたら違う姿になりたいな。
成人男性の姿がいい。働きやすいだろう。
(まだ成人男性になりたかったんだ?)
もちろん。新人社員でさーと紛れ込み易い年齢だとなおよし。
社会に溶け込める姿かたちはお得だろう。
少なくとも現状の小さい姿でどうやって働けと?
俺は働いて、自由に、誰にも迷惑をかけずに生きていたい。
(でもその姿だからこそのメリットがあるんじゃないの?)
神様ぶれと? ムリムリ。一瞬は出来ても続けてはできない。
それともアイドルかな? 可愛いよ! きゅるるん! みたいな? げろ。
少なくとも俺の人格でそういう行動を日常的に行えるわけがない。
「魔力を一度外にですか。なるほど……。不活化状態であれば爆発なども避けられそうですが、量が量ですので難しそうですね」
そもそも魔力を外に出す方法がよく分からないよな。
魔力に意識が宿る段階で、色々憶測が立ってしまう。
例えば魔力とは魂そのものじゃないかなんて。
その魂をどうやって器の外に出すというのか。
そもそもゴーレム作成の際に俺という意識がこの体に移れたのが奇跡なのでは?
魂というか、魔力とは液体に近い性質なのか?
(どうなんだろうね?)
口ぶりからしてサク先生は魔力へ干渉する方法を詳しく知っている気がする。
だがどうやってそれを実験したのだろう?
まだそういえばニーナは見ていないが、あいつは生きているのだろうか?
(生きているんじゃない? あの巨体だけど全身もふもふだし、王都にいるなら魔力の吸収は問題ないだろうね)
もふもふ関係しているのか?
(吸収能力は段違いだと思うよ。治安維持とか言いながら犯罪者の魔法を受け止めていたりしてるだろうし)
お前なんか知っているな?
「何はともあれ一度魔力を使い切ってくれないと話が始まらないかな? その間に場所とか器具とか用意しちゃうから。場所はそうだね、王都の外の荒野がいいかな? 西側の方の砂漠地帯ね」






