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354、王都に着いた

 なんか布で包まれた。赤ん坊の様に抱えられた。

 リク君はどうやら俺を寝かせたまま列車を降りるらしい。

 成人男性としての自意識は既に死に瀕している。


(ばーぶぅ)


 はーい、他界他界ー。

 そのままお空に昇って帰ってこないでね。

 あ、あなたのお家は地獄でしたか。


(殺意が高すぎるよ!!! 足で蹴り上げる高い高いなんてこの世にないよ!!!)


 ウイルスには妥当な扱いだろう。ほんと死ねばいいのに。


(キレる若者怖い……)


 若者でなくてもキレるわ。お前の所業には。


(私は特に何もしてないよ!)


 俺の円卓を食った。勝手に居座る。親友面をする。隙あらば体を乗っ取る。変な言動をとる。


(いやぁ? お茶目な)


 お茶目? どこが? あ?


(すみません……)


 これでどこを許せと? ないわ。まじでないわ。


(えとそうですね……ないですよね……)


 イライラする。まじでイライラする。

 排除できないのが気に障る。なんで精神崩壊しないかな。

 壊れてくれれば最良なのに。魔力として消耗させてすり潰せないかな?


(ふぇえええ)


 可愛い子ぶられるとイライラ具合が上がるんだが?


 正直な話、そもそも俺が怒るのは自分に対してくらいだった。

 コイツが来てからだよ。他者に苛立ちとか感じるのは。

 自分の体の中にいるからどうでもいいに分類できないのが問題だな。


 ほんと体の外にいればどうでもいいと捨て置けるのに。


 どうでもいい。そうどうでもいいと捨て置けばいい。

 何を言われようと無視するのがいい。俺にとって何が大事かで考えるべきだ。

 自分大好きになればいい。


 ……それはムリだな。自分ほど嫌いなモノはないし。

 この体ならどれだけのことを成し遂げることが出来たかを思うほどに嫌いになる。

 俺でなければが強過ぎるんだよな。


 だがしかしコイツだけはダメだ。どんないい面していようが、コイツに任せるのはない。

 性格が良さそうに見えるところが最悪。仕出かす事の目的が知れたモノではない。

 俺じゃなかったら多分ここまでの嫌悪感をコイツに覚えなかっただろう。


(性格はいいって言われるよ!)


 誰にだよ。いい性格してるって言葉はたいてい図々しいという意味だぞ。

 人間性が終わっている俺から見ても狂人だと思うのだが?

 平然とした顔で何もなかったかの様に口出す様はマジでいい性格してる。


(それほどでも~)


 褒めてない。


 あぁ、空が青い。わずかにある白い雲がゆっくりと流れていくよ。

 こうやって見上げると自分の小ささにバカらしさを感じる。

 空虚な癖に無駄に悩んで、普通になれないと喘ぐ。ほんとバカ。


 リク君は身体強化とかしているのだろうか? 腕とか疲れない?

 無意識レベルで行われているのかもしれない。意識的にしている気がしない。

 筋肉を使う様な感覚で、適度に調整しているとかないだろうか?


 気疲れが激しいけれどそろそろ自分の足で歩きたくもある。

 この体が疲れる様な動きなど出来はしないが、肉体的疲労と精神的疲労はできるだけ釣り合いを取りたいものである。

 肉体的疲労を癒すついでに精神的疲労が取れるのは面白いけど助かるよな。


 でもなんて言って歩こうか? 行き場所を聞いてそこまで歩くとでも言えばいいか?

 声を出そうと思うと喉に引っかかるモノがある。

 たぶん意識の問題。陰キャが久しぶりに声を出そうと思うと「あ」って音を発して喉を開通させるアレ。アレをすれば何とか声が出せそうな気がする。


 でもなんか恥ずかしい。


 体勢的に声が出しにくいのかもしれない。

 腹筋を使って話すのが難しいとか。

 いやでもゴーレムは力に優れてるから気の問題か。


 落ち着け。特に気を張る様な内容でもない。

 ワガママとかでもないだろう。

 何ならリク君の負担を減らす行動だ。大丈夫。


「リク君。もう大丈夫。どこまで行く? とりあえずそこまでは自分の足で歩きたい」


 なんか不自然というか、慌てているかの様な言葉になった気がする。

 相手の反応を待たない言葉だ。自分の意見を押しつける言葉とも言える。

 ひどく冷たい言葉だとも思える。思考が疲れていそうだ。


 考えすぎか? どうなんだろうか?

 そこまでの人付き合いをもったことがないから分からない。

 いや、冷たいと思うかどうかは相手次第か。


 そもそも突き放そうとして言ったことでもない。

 現状が精神衛生上よくないから避けたいだけだ。

 俺はおじさんなのだ。それも人当たりがそこまでよくないタイプの。

 面白いおじさんと思われる類のおじさんだったら良かったんだがな。


「うん? もう大丈夫なの?」


 心配そうな表情をしている。まぁ、確かに心配だろうな。

 こんなにも情緒不安定で毒物を食らったかの様な頭のヤツだ。

 心配じゃない要素など欠片もないだろう。


 死にたさが募った。簡単に死ねない事は自覚が出来たわ。

 死ぬのが一番簡単な解決だと思ったのだけどね。兵器の処理という観点で。)

 アイツみたいなのが動かしたらどれ程の被害を出す事か。


 簡単に破壊できない兵器みたいなの、物語によく出てくるけれどアレになった

 火山に捨てても溶けないとか、同質のモノでなければ破壊できないみたいな。

 ゴーレムの力でもこの体は破壊できなさそうだな。ゴーレムは耐久特化で力は魔力次第な設計だし。


「分からないけど歩いた方がたぶんマシだと思うんだ」


 地に足のついた生き方が安定を意味する通り、人は足の裏に大地があるのがいい。

 足の裏で大地をつかむ事で、骨にくわわる振動だとか、筋肉の使い方だとか、そういった諸々が整うのだろう。たぶん。知らんけど。

 噂だけどバスケ部はよく跳ねるから足に加わる振動の結果高身長になりやすいとか。あれって本当なのかな? 縦の刺激がいいとかなんとか言うけど。


 まぁ、この体は成長しないから身長何それおいしいの? としかならんのだけど。


 いや、本当に成長しないのだろうか? 成長というよりも変質?

 減らす方は難しくても加える方はまだできると思うんだ。

 だが現在の強固な骨格に割り込む様に追加するのはキツいか?


(それは難しいと思うよー)


 どれが難しいのか。たぶん追加の方か。面倒だな。

 成長できるなら成人男性の姿へ変化させられたのに。

 それができれば仕事しても目立たず人間らしく生きられただろう。


 物理的な着ぐるみか? でも腕の長さ足の長さがな。

 魔法込の着ぐるみはゴーレムボディが魔法部分を吸収してしまうのが厳しい。

 中に入る必要はない? 入らなかったらまた勝手に意識を持ってしまって、操作に適さないのでは? 面倒だ。


「顔色は確かに良くなってるかな? とりあえず気をつけて歩いてみようか。目的地はここからだいたい15分くらいのところ、僕の研究室がある大学だよ」


 ちなみにリク君は正確には15分と言ったわけではない。

 適当にそれを俺が翻訳して直したモノを入れただけである。

 今更すぎるが久しぶりに時間とかの話が出たので言っておく。


(誰に言ってるの? 私?!)


 お前じゃない。主に自分。自然にやった行動を自分に向けて解説するのはごっこ遊びとして楽しいからな。

 自分の中に観衆がいると思って動くと、行動のこれは嫌あれは嫌が明確になる。

 メリハリがつくかと言われたら微妙だが。


(私、観衆してるよ!)


 誰もお前に観衆しろとは言っていない。

 演者の体を乗っ取る観衆などいてたまるか。

 それは観衆でなくて、勝手に舞台にあがる犯罪者だろ。


「方向的にはどっち?」


 腕の中、リク君の肩に手をかけて、王都の風景を見てみる。なんか許される気がした。


(え〜? ホントかな〜? いや、まぁ、リク君はなんだかんだ許すだろうけどね? でも許される気がするほどかな???)


 うるさいバカ。


 街の風景は以前見た時とけっこう変わっている気がする。

 まず車を見かけない。ないわけがないのだが見かけない。

 建物が西欧チックなのは前からか?


 1つのブロックにマンションが1つという感じだろうか?

 王宮みたいな大きな建物が見える方向は1つのブロックに1件の御屋敷みたいだ。

 たぶんあちら側が目指す方向なのだろう。


「そっち側で間違いないよ。手は繋ぐ?」


 腕に抱え込まれて優しく微笑み見つめられた。

 体躯がちびっ子だから仕方がないが何か嫌だ。

 先に子供じみた真似をしたのが俺だから言えた話ではないが。





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― 新着の感想 ―
[一言] 迷子防止には有効( ˘ω˘ )
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