353、目を閉じてた
壊れ方がひどい。頭が悪い。生き方がひどい。
疲れ方がエグい。自己嫌悪もひどい。
体は傷1つないのに、精神は満身創痍。
自分の中が虫食い状態なのかもしれない。
排除を口にするだけで手だてがないのがキツい。
手詰まりを感じている。自分でどうにか出来ないのがキツい。
この体が兵器として利用できるのでなければもっと気楽でいられたかもしれない。
対人の戦争においてこの体は強すぎる。人の道具を利用できる魔法の効かない化け物だから。
人間を襲っている間は体が止まることはないだろう。ソフトを壊す以外に止める方法がなくなる。
そのソフトを破壊する方法が毒となる魔力を使うくらいだろうか? 毒となる魔力ってなんだろうな。
ウイルス? あぁ、今の俺の中にいるヤツの事か。狂った行動を起こしたら大惨事なんだよな。
神様クラスになればソフトへの干渉ができるかもしれない。
いや、たぶん出来るのだろう。そんな感じの手立てを持っていそうだった。
何かしらの機構を俺にして欲しがっていた気もする。人間になれは意味が分からないけれど。
死にに向かう簡単な方法は神様の手にかかる事か。
いや、また町に行けと放り投げられそうだ。
そうなると地中へ向かいマントルに行き着くまで手で掘り続けるのが唯一の自殺手段?
掘るの途中で飽きそうなんだよな。マントルに行き着く前にエネルギーが切れそう。
腕の一搔きで1mもいけないし、水の様には体が進まないだろう。
馬鹿げた力で水みたいに土が砕けて潜れたとしても、手を動かす速度は音速にするのは自分の意識の都合上難しい気がする。
そう考えると1時間に数百mも進めやしないだろう。バッテリー切れまでに何キロ掘れるだろうか?
何十キロもある地殻を超えられるだろうか? そこからして厳しいだろうな。
(私、ワクチンソフトだよ……? ウイルスじゃないよ……?)
ウイルスだろ。俺の中ではもうウイルスの代名詞と言っていい程だぞ。
地面を掘って地底に行ったとして、それを掘り返されて蘇らされる不安がある。
そもそも地中に魔力がないというのは希望的観測か。
魔力があった場合、それも俺が動くに足る魔力があった場合、死ぬことなど出来ない。
(モグラだっているし、地中は地中で生物はいるから、魔力は地中にもあるよ! あ、あとマグマの中にはサラマンダーとかファンタジーならではの子がいるから、そこでも魔力の回復手段には事欠かないかも!)
畜生。そこまでして逃げ道を塞ぎたいか。
というかこの体はなりふり構わず生きようとしたらまじで死なないのか?
いや、だがそれは人類敵対ルートでしかないだろう。
(敵対してもいいんじゃない?)
良くないだろうが。
(君は人類に何の恩恵を受けているの? 利益も何もないし、君を縛るだけでしょ?)
本だな。他者に伝えるという事に特化している生物、人間は面白いとしか言えない。
伝える事で一個体でなしえないモノを作り上げる様は素晴らしいとしか言いようがない。
ただあるがまま伝えるだけでも興味深いのに、創作という実際には存在しないモノまで伝達できるというのが面白すぎるんだよな。
(でもこの世界で本を読めてる?)
図書館は見た。つまり読む事の出来る本は無数にある。
現状は読むのが難しいだろうが、敵対しないのであればいつかは読めるだろう。
無暗に敵を作れば読める本が減るという事だ。よろしくない。
(つまり本が読みたいの?)
本は読みたいな。それ以外もある。構造物なども人間を象徴するものだ。
地震大国日本は耐震性能が何よりも重視されている。夏は暑く冬は寒い、台風で強い風雨に浴びせられるそんな厳しい環境に耐える様に作られた家はすごいだろう。
ところ変われば求めるところが変わる。それはこの世界においてもそうだろう。それは見てみれば面白いはずだ。
何なら魔力が作用する事で、地球では不可能な建造物だって作れるじゃないか。
(うーんと? じゃあ、人間の作るモノが好きって事?)
好きだな。間違いない。自分と違う思想の下作られたモノで面白くないモノはない。
キュビズムとか正直理解し難いモノはあれど、その多様性こそが面白い。
凝り固まる考えを解し、新たな知見と発見に繋がるモノはどれだけあっても困る事はない。
(ふーん。じゃあ、この列車も?)
好きだな。もしかしたら魔法で似たモノをすぐ作れるかもしれないが、手で作った場合は材料の調達、それが鉄材や木材などの1つとってもまともに出来ると思えない。
首尾よく材料が手に入れられたとしても、素材の加工にどれだけ頭を悩ます事だろう。分かったものではない。
この体が如何様に優れていようと、この様な代物を1人で作りあげる事はかなわん。作れたとしても数十年とかかりそうだ。
(そっか。人間のそういうところが君は好きなんだね)
集団だから為せる事がある。
生身では本気の犬にすら敵わない程度の身体能力しかない。
そんな弱い生き物が伝えるという能力により、様々なモノを作りあげる。
面白いとしか言い様がないだろう。
まぁ、俺にはその伝えるという能力がほとほと足りてないんだが。これで人間だと名乗ったら臍で茶が沸くわ。
「寝ちゃったかな?」
柔らかい声と共に、顔にかかっていた髪が払われた。
いつの間に目を閉じていたのだろう。
そしてなんでまだ俺は目を閉じたままなのだろう。
(何を話したらいいか分からないとか、眠れていたら幸いだなとか、精神的な疲れを眠って何とか忘れたいとか……。あ、あとこの無防備になった状態で何がおきるかの好奇心と無茶苦茶になりたい破滅願望、それとエッチな状態に陥りたいという)
それはない。マジでない。お前の願望をねじ込むな。
このドMウイルスが。
その相手がリク君だと? マジでない。
ロリコンになったリク君とか想像したくもない。
そういう思考でリク君を穢すな。
(ドMじゃないもん!)
嘘つくな。俺の拷問を受けてその態度ができる段階で狂ってるんだよ。
普通なら怯えて黙るとか、狂人に関わりたくないと思うかしてるはずだ。
平然とケロッとしてる段階でお前はもう狂っているんだ。
(いやぁぁぁあ、怖いぃぃぃい!)
わざとらしいわ!!!
(難しい)
布団に手をついて身体を起こしたのか、ベッドが軽く揺れた。
そして体に薄い布状のモノがのせられ、頭を撫でられた。
薄目を開けてみるとリク君はイスに座り、カバンから取り出した本を読むところだった。
(優しい)
リク君はいい子だからな!
お前の様な変態の腐った毒牙にかかっていい存在ではないわ!
リク君に対し邪な感情を抱くのはやめる事だな!
(白いキャンパスって何でも描けるからいいよね)
うわ……キモ……。マジでない。マジでないんだけど。
(今の君の姿だからこそ滾るのよね……。過去を知っているというのもいいわぁ……)
滅! 滅! 滅!
(腐! 腐! 腐! いくらバラバラにされても私の腐女子魂は不滅です!)
ないわ。
(あ、あの! 顔面残しで角切りというか、肉片に串を刺して焚き火で炙るとか、焼けた串を犬が臭って唸って立ち去るのとか……さすがに心に来るというか……え? その串を私に? え? あ、腐っ! 臭っ! 腐っ! 臭っ!)
たくさんあるぞ。全部食えよ。
(痛っ! 臭っ! 不味っ! ぐえっ!)
普通ここまでしたら心が折れるはずなんだが。
いや、その前になぜこいつはこんなに陽気に話しかけられるんだ?
精神構造が分からなさすぎる。
「間もなく終点の王都駅に到着いたします。お手回りの品など、忘れ物はないようにご注意ください。本日は当列車をご利用頂きありがとうございます。またのご利用を心よりお待ちしております」






